14 / 54
歪んだ文字列
しおりを挟む
ヘルシャフト別邸に戻って来た私は、部屋で荷物を取りに戻る為に途中別れたケルドを待っていた。
メイドのクラリスがお茶を用意してくれて、一気に飲み干してからやっと人心地ついた。
思った以上に緊張していたのかもしれない。
「お友達が行方知れずになったのですもの。お辛いですね、ドゥーラ様」
クラリスはお茶の差し換えを継ぎながら、声をかけてきた。
ファザーンは、医師の家の標本の裏に書かれていた文字列の写しを見て考え込んでいた。
あの文字列……。父の親友だったクラルおじさんが持っていた書き付けに似ている。
一体なんの意味があるんだろう。
「ヘルシャフトに頼んでいた液体の分析はまだできないのかな」
文字の写しから視線を外し、ファザーンは、クラリスに声をかける。
「本宅からはまだ連絡が来ていませんね。慎重に調べているのではないでしょうか」
小首をかしげてクラリスは返答する。
「しかし、この館の主は姿を表す気があるのですかね。彼の方がそっち方面に詳しそうなのに」
ファザーンは、口元をほころばせる。笑顔に見えるのだが、なんか目が笑っていない気がする。
「ファザーンさん、クラーヴィオさんに会ったことあるんですか?」
深刻そうな話をぶった切ってしまったけれど、それよりも私の好奇心が抑えられなかった。
王都に来て、何から何までお世話になっているのに、未だに出会えないでいる多忙な主が
どんな人なのか知りたいと思っていた。
館の人に聞いたとしても、雇い主の事を率直に話てくれないだろうな、と思って今まで
我慢していたが、ファザーンなら、率直に教えてくれそうな気がした。
「え、ドゥーラ……会ってないの? クラーヴィオに」
ファザーンが少し驚いていた。そりゃそうだろうと思う。王都にやってきてひと月以上
になるのにお世話になっている人に会うことすらできていないのは異常なことだと思う。
「お忙しいんだそうでまだお目にかかってお礼を伝えられていないんですよ」
すると、何か考え込んだファザーンは少しの沈黙の後に私に告げた。
「他人から評価を聞くことも大切だとは思うけど、まずは彼本人と言葉を交わして、
自分の中での評価がある程度固まってから、他人の話を聞くといいよ」
そう言って、ニッコリと微笑んだ。
その時、部屋のドアがノックされ、ケルドを伴って執事がやって来た。
「持ってきたよ!これ」
ケルドはカバンの中からヨレヨレになった紙を差し出した。
あの洞窟で手に入れたクラルおじさんの持っていた書き付けだった。
2枚の文字列を見比べてみる。
全く同じ文字というわけでなく、共通しているものは有るが違うものだった。
「何らかの暗号解読用の早見表と思ったんですがね」
ますますわからなくなっていた時に、クラリスがひょいと覗き込んだ。
その時、あら?と一言漏らした。
「縦軸に書かれているのは、薬草の略字じゃないでしょうか」
みんな一斉にクラリスに視線を集める。
「あ、ごめんなさい、皆さんで考えているのに余計なことを……」
少し恥ずかしそうにクラリスは言うが、すごいヒントなのでは?!
「クラリスさん、率直な意見を教えて欲しいんです!お願いします」
私は、クラリスにお願いして、率直な感想を言ってもらうことにした。
この縦軸が、薬草の略字、横軸がその配合の割合を書いた物で、交差するところに
さらに別の文字が書かれているのは別の薬草を配合するという配合表なのだろうと。
確かに、縦軸の略字は薬草の略字に見えなくもない。
試しに、交差するところの薬草を計算してみると、毒性が強調される配合になる。
単に害がないように見えるものでも、混ぜると危険なものは多々有り、それをこの一覧表は
綺麗に洗い出している。
「クラリスさん!!すごい!!!」
思わず私はクラリスに抱きついた。
「ええっと、お役に立てたのでしたら嬉しいです……」
率直な賛辞にクラリスは顔を真っ赤に染めてはにかんだ。
近所のおばさんの証言で、あの医師のところにはよくユーラーティ神官が
出入りしていたとあった。
「ちょっと危険ですが探りに行きましょうか」
やはり、謎はユーラーティ神殿に濃厚に関わっているようだった。
少し緊張するが行くしかない。
今日は遅いので明日、出かけることにした。
メイドのクラリスがお茶を用意してくれて、一気に飲み干してからやっと人心地ついた。
思った以上に緊張していたのかもしれない。
「お友達が行方知れずになったのですもの。お辛いですね、ドゥーラ様」
クラリスはお茶の差し換えを継ぎながら、声をかけてきた。
ファザーンは、医師の家の標本の裏に書かれていた文字列の写しを見て考え込んでいた。
あの文字列……。父の親友だったクラルおじさんが持っていた書き付けに似ている。
一体なんの意味があるんだろう。
「ヘルシャフトに頼んでいた液体の分析はまだできないのかな」
文字の写しから視線を外し、ファザーンは、クラリスに声をかける。
「本宅からはまだ連絡が来ていませんね。慎重に調べているのではないでしょうか」
小首をかしげてクラリスは返答する。
「しかし、この館の主は姿を表す気があるのですかね。彼の方がそっち方面に詳しそうなのに」
ファザーンは、口元をほころばせる。笑顔に見えるのだが、なんか目が笑っていない気がする。
「ファザーンさん、クラーヴィオさんに会ったことあるんですか?」
深刻そうな話をぶった切ってしまったけれど、それよりも私の好奇心が抑えられなかった。
王都に来て、何から何までお世話になっているのに、未だに出会えないでいる多忙な主が
どんな人なのか知りたいと思っていた。
館の人に聞いたとしても、雇い主の事を率直に話てくれないだろうな、と思って今まで
我慢していたが、ファザーンなら、率直に教えてくれそうな気がした。
「え、ドゥーラ……会ってないの? クラーヴィオに」
ファザーンが少し驚いていた。そりゃそうだろうと思う。王都にやってきてひと月以上
になるのにお世話になっている人に会うことすらできていないのは異常なことだと思う。
「お忙しいんだそうでまだお目にかかってお礼を伝えられていないんですよ」
すると、何か考え込んだファザーンは少しの沈黙の後に私に告げた。
「他人から評価を聞くことも大切だとは思うけど、まずは彼本人と言葉を交わして、
自分の中での評価がある程度固まってから、他人の話を聞くといいよ」
そう言って、ニッコリと微笑んだ。
その時、部屋のドアがノックされ、ケルドを伴って執事がやって来た。
「持ってきたよ!これ」
ケルドはカバンの中からヨレヨレになった紙を差し出した。
あの洞窟で手に入れたクラルおじさんの持っていた書き付けだった。
2枚の文字列を見比べてみる。
全く同じ文字というわけでなく、共通しているものは有るが違うものだった。
「何らかの暗号解読用の早見表と思ったんですがね」
ますますわからなくなっていた時に、クラリスがひょいと覗き込んだ。
その時、あら?と一言漏らした。
「縦軸に書かれているのは、薬草の略字じゃないでしょうか」
みんな一斉にクラリスに視線を集める。
「あ、ごめんなさい、皆さんで考えているのに余計なことを……」
少し恥ずかしそうにクラリスは言うが、すごいヒントなのでは?!
「クラリスさん、率直な意見を教えて欲しいんです!お願いします」
私は、クラリスにお願いして、率直な感想を言ってもらうことにした。
この縦軸が、薬草の略字、横軸がその配合の割合を書いた物で、交差するところに
さらに別の文字が書かれているのは別の薬草を配合するという配合表なのだろうと。
確かに、縦軸の略字は薬草の略字に見えなくもない。
試しに、交差するところの薬草を計算してみると、毒性が強調される配合になる。
単に害がないように見えるものでも、混ぜると危険なものは多々有り、それをこの一覧表は
綺麗に洗い出している。
「クラリスさん!!すごい!!!」
思わず私はクラリスに抱きついた。
「ええっと、お役に立てたのでしたら嬉しいです……」
率直な賛辞にクラリスは顔を真っ赤に染めてはにかんだ。
近所のおばさんの証言で、あの医師のところにはよくユーラーティ神官が
出入りしていたとあった。
「ちょっと危険ですが探りに行きましょうか」
やはり、謎はユーラーティ神殿に濃厚に関わっているようだった。
少し緊張するが行くしかない。
今日は遅いので明日、出かけることにした。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)
青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。
ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。
さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。
青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る
紺
恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。
父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。
5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。
基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。
ああ、もういらないのね
志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。
それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。
だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥
たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。
誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。
でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。
「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」
アリシアは夫の愛を疑う。
小説家になろう様にも投稿しています。
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる