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花を待つ人
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メイド頭の女性が、地下深くのワインを貯蔵しておく為の部屋へ案内してくれた。
石造りの部屋に、作り付けの木の棚。そこには埃まみれになったたくさんのワインが
収められていた。ワインの管理をする人間が使うのだろうか、埃の払われた簡素な机と椅子が
置いてあった。
薄暗いので、メイド頭が手提げランプを準備してくれた。この涼しさなら大丈夫だろう。
ブリスコラの入った陶器の入れ物の蓋を開ける。 採取した時は固く閉ざしていた蕾は、
ゆっくりとその花びらを開こうとしているようだった。少しの温度の上昇でも開ききり、
すぐに花びらが萎れてしまうかもしれない。
主治医の到着までここで過ごすことにした。
メイド頭は、客人をこんな埃のする場所に置き去りにすることに難色を示したが、
薬草の品質を維持するために必要であると説明すると、それ以上は何も言わなかった。
メイド頭が一礼してこの場を辞して、この場所の冷気を改めて感じた。
主治医が来るまでどのくらいだろうか。
じっと待つことにしたものの、ちょっと寂しいかな、と思い始める。
そんな時、頭上の扉が開き、温かい風が吹き下ろして来た。
「うわ。ドゥーラってば、こんな寒いところでがんばってるんだ!」
見ると、人影がふたつ。声の主は、ケルドだった。
その後ろでなにか大きな包みを抱えて立っているのは影の形からしてガルディアのようだ。
「無駄口叩かずにさっさと降りろ!冷気が逃げちまうだろうが」
ガルディアは、ケルドを蹴り落とす真似をすると、機敏に階段を降りてくる。
メイド頭からここに居ることを聞いて、差し入れを持って来たとの事だった。
そのふたりの心遣いが嬉しかった。
ガルディアが持って来た包みは、柔らかな敷物に、クッション、そして暖かな毛布だった。
毛布にくるまると、先ほどの寒さが嘘のようにふんわりと暖かくなる。
ケルドは、ポケットから小さな布につつんだ焼き菓子を差し出した。
「これ、めちゃくちゃ美味しかったから貰ってきたよ。急に居なくなるから探してたんだ」
そう言えば、急いでいたので、ここに居ることを伝え忘れていた。
「ごめんなさい、私、慌てていて。でも、来てくれて嬉しかった」
毛布の暖かさについ顔がほころぶ。
ガルディアは、そっぽを向くが耳がほんのり赤くなっている。
そんな様子に、ケルドがニヤリと微笑んで、爆弾を落とす。
「良かったな、おっさん。メイドのオバチャンから包みを無理矢理引き取って」
そのひと言にガルディアは目に見えて固まった。
メイドのオバチャンから無理矢理包を引き取って?
「死んだバーサンが、女の子は冷やしたらイカンと言ってたんだ!」
頭から湯気が出ているかのように怒鳴る。
そんな時、また頭上から温かい風が吹き下ろす。
「先生がおみえになりました」
メイド頭が、声をかけに来てくれた。
早速陶器の入れ物に蓋をする。
そして、いよいよ少女の主治医に薬草を引き渡す時が来た。
毛布のと敷物を畳んで抱えようとすると、ガルディアが、包みをひったくる。
「バーサンが、女の子に重いもの持たせるなって遺言を残したんだ」
そして、さっさと階段を上がって行った。
女の子扱いしてくれる人なんか今まで居なかったから、なんだか新鮮だ。
ガルディアの気持ちがとても嬉しかった。
私の方も顔に血の気が昇ってくる。
涼しい貯蔵庫から外に出ると、丁度、恰幅の良い男性の後ろ姿が見える。
メイド頭が、彼が主治医であると告げる。
主治医に薬草を渡そうとして、ふと彼に見覚えがある気がした。
何処かで会ったことがある気がするのだけど、何処だっただろう。
思い出す前に、執事が目の前に立ち、先生にお渡ししますので、と声をかけてきた。
今まで守って来たブリスコラは、陶器の入れ物の蓋を開けると、ふんわりとした甘い香りが立ち昇る。
ついに、花が開いた。
私は、執事に花を渡す。
執事の瞳にはうっすらと光るものが見えた。
ただ無言で一礼して病と戦う小さな主の下へ急ぐ。
その背中を見送って、私も待っててくれている人の事を思い出し、三人の姿を探した。
ケルドとガルディアを見つけたが、ファザーンの姿が見えない。
ケルドによると、少し野暮用が出来たとの事で、後で合流すると言って出掛けたそうだ。
私たちは、待たせている馬車に戻り、ヘルシャフトの別邸へ向かった。
石造りの部屋に、作り付けの木の棚。そこには埃まみれになったたくさんのワインが
収められていた。ワインの管理をする人間が使うのだろうか、埃の払われた簡素な机と椅子が
置いてあった。
薄暗いので、メイド頭が手提げランプを準備してくれた。この涼しさなら大丈夫だろう。
ブリスコラの入った陶器の入れ物の蓋を開ける。 採取した時は固く閉ざしていた蕾は、
ゆっくりとその花びらを開こうとしているようだった。少しの温度の上昇でも開ききり、
すぐに花びらが萎れてしまうかもしれない。
主治医の到着までここで過ごすことにした。
メイド頭は、客人をこんな埃のする場所に置き去りにすることに難色を示したが、
薬草の品質を維持するために必要であると説明すると、それ以上は何も言わなかった。
メイド頭が一礼してこの場を辞して、この場所の冷気を改めて感じた。
主治医が来るまでどのくらいだろうか。
じっと待つことにしたものの、ちょっと寂しいかな、と思い始める。
そんな時、頭上の扉が開き、温かい風が吹き下ろして来た。
「うわ。ドゥーラってば、こんな寒いところでがんばってるんだ!」
見ると、人影がふたつ。声の主は、ケルドだった。
その後ろでなにか大きな包みを抱えて立っているのは影の形からしてガルディアのようだ。
「無駄口叩かずにさっさと降りろ!冷気が逃げちまうだろうが」
ガルディアは、ケルドを蹴り落とす真似をすると、機敏に階段を降りてくる。
メイド頭からここに居ることを聞いて、差し入れを持って来たとの事だった。
そのふたりの心遣いが嬉しかった。
ガルディアが持って来た包みは、柔らかな敷物に、クッション、そして暖かな毛布だった。
毛布にくるまると、先ほどの寒さが嘘のようにふんわりと暖かくなる。
ケルドは、ポケットから小さな布につつんだ焼き菓子を差し出した。
「これ、めちゃくちゃ美味しかったから貰ってきたよ。急に居なくなるから探してたんだ」
そう言えば、急いでいたので、ここに居ることを伝え忘れていた。
「ごめんなさい、私、慌てていて。でも、来てくれて嬉しかった」
毛布の暖かさについ顔がほころぶ。
ガルディアは、そっぽを向くが耳がほんのり赤くなっている。
そんな様子に、ケルドがニヤリと微笑んで、爆弾を落とす。
「良かったな、おっさん。メイドのオバチャンから包みを無理矢理引き取って」
そのひと言にガルディアは目に見えて固まった。
メイドのオバチャンから無理矢理包を引き取って?
「死んだバーサンが、女の子は冷やしたらイカンと言ってたんだ!」
頭から湯気が出ているかのように怒鳴る。
そんな時、また頭上から温かい風が吹き下ろす。
「先生がおみえになりました」
メイド頭が、声をかけに来てくれた。
早速陶器の入れ物に蓋をする。
そして、いよいよ少女の主治医に薬草を引き渡す時が来た。
毛布のと敷物を畳んで抱えようとすると、ガルディアが、包みをひったくる。
「バーサンが、女の子に重いもの持たせるなって遺言を残したんだ」
そして、さっさと階段を上がって行った。
女の子扱いしてくれる人なんか今まで居なかったから、なんだか新鮮だ。
ガルディアの気持ちがとても嬉しかった。
私の方も顔に血の気が昇ってくる。
涼しい貯蔵庫から外に出ると、丁度、恰幅の良い男性の後ろ姿が見える。
メイド頭が、彼が主治医であると告げる。
主治医に薬草を渡そうとして、ふと彼に見覚えがある気がした。
何処かで会ったことがある気がするのだけど、何処だっただろう。
思い出す前に、執事が目の前に立ち、先生にお渡ししますので、と声をかけてきた。
今まで守って来たブリスコラは、陶器の入れ物の蓋を開けると、ふんわりとした甘い香りが立ち昇る。
ついに、花が開いた。
私は、執事に花を渡す。
執事の瞳にはうっすらと光るものが見えた。
ただ無言で一礼して病と戦う小さな主の下へ急ぐ。
その背中を見送って、私も待っててくれている人の事を思い出し、三人の姿を探した。
ケルドとガルディアを見つけたが、ファザーンの姿が見えない。
ケルドによると、少し野暮用が出来たとの事で、後で合流すると言って出掛けたそうだ。
私たちは、待たせている馬車に戻り、ヘルシャフトの別邸へ向かった。
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