2 / 14
第1章
アリスの誕生
しおりを挟む
「おはよう、ローラ…」
疲れきった顔のお母さんが、これまた疲れきった私に向かって言った。
寝ていただけなのに、嫌に汗をかいている。これも、なかなかリアルすぎる夢のせいだろう。
それにしても、さっきの夢はよく覚えている。変な水の中で散々「お兄ちゃん」と叫び続けて、─いや、叫んでいたのは現実だったかな…─耳を澄ませると、お兄ちゃんからの声が少しだけ聴こえてきた…
最後に思い出した病院とは、ここのことだったのか。
「ローラったら、泣き疲れて、気づいたら寝てたんだから。」
やっぱり、私は泣いていたらしい。
「まあ、まだ小さいローラには、耐えられないのもしょうがないものね…まだゆっくり寝てた方が良いわよ。」
私はもう6歳なのに、そんなに耐えられない程の何が起こったって言うの…?
私は、未だにお父さんがすがり付いている隣のベッドを、恐る恐る覗いてみた。
─お兄ちゃんだ、お兄ちゃんが寝ている。お父さんは、なんでそんなに悲しんでるんだろう…
「お父さん、なんで泣いてるの?お父さんも泣くんだね、大人の男の人なのに。」
純粋に聞いたはずだった。少なくとも、今の私は何が起きているのかわからない。惚けたように聞こえてしまうのも、無理はなかった。
私のその口調が、余計に心に刺さってしまったらしい。お父さんは、今までにも増して泣き出した。
「お父さん…お兄ちゃんがどうしたの…?ねえ、お兄ちゃ……」
どうして気づかなかったのか、と言うよりも、どうして思い出せなかったのか、自分が不思議でならなかった。
─お兄ちゃんは、寝ているんじゃない!
悟ってしまった。いずれは知らなくてはならない事実だったけれど、全てを忘れかけていたせいで再び味わう事になってしまった、大きすぎる悲しみの襲来はさすがに応えた。
「お兄…ちゃん……」
私は、きっとまたこの事を忘れるのかな…そして、また思い出して悲しむ事になるのかな…
そう考えただけで、こんな現実で、これから何もかもやっていける気がしなかった。
─そうだった、これは夢なんだ…!覚めてしまえば、どんな悪夢だってちゃんと終わる。じゃあ、こんな酷い夢、早く覚まさせないと!
突然ほっぺたを叩き始めたり、手足をばたつかせ始めたりした私を、両親は驚いた顔で見つめた。
─全然覚めてくれない…方法が違うのかな…
他にも色々と試してみたが、何をやっても夢が覚めるような事はなかった。
─やっぱりダメ…どうしてもダメだ……それならしょうがない……強くなって、こんな悪夢にでも頑張って立ち向かってやる。
そんな考えをよぎらせた私は、かの有名なお話をふと思い出した。
そう、不思議の国のアリス。夢なのか現実なのか、本当の真相は誰にもわからない。けれど、好奇心旺盛な女の子が、迷い込んだ不思議の国で冒険するという簡単な内容なら、きっと誰でも知っている。
そんな事なら、私にだって出来る。だって、夢なら何でも出来るから。覚めてしまえば全てが終わる…何度も何度も言い聞かせたこの言葉を信じて、いつしか私は、その気になっていたのだった。
─私の名前はアリス。こっちが本物の私…
疲れきった顔のお母さんが、これまた疲れきった私に向かって言った。
寝ていただけなのに、嫌に汗をかいている。これも、なかなかリアルすぎる夢のせいだろう。
それにしても、さっきの夢はよく覚えている。変な水の中で散々「お兄ちゃん」と叫び続けて、─いや、叫んでいたのは現実だったかな…─耳を澄ませると、お兄ちゃんからの声が少しだけ聴こえてきた…
最後に思い出した病院とは、ここのことだったのか。
「ローラったら、泣き疲れて、気づいたら寝てたんだから。」
やっぱり、私は泣いていたらしい。
「まあ、まだ小さいローラには、耐えられないのもしょうがないものね…まだゆっくり寝てた方が良いわよ。」
私はもう6歳なのに、そんなに耐えられない程の何が起こったって言うの…?
私は、未だにお父さんがすがり付いている隣のベッドを、恐る恐る覗いてみた。
─お兄ちゃんだ、お兄ちゃんが寝ている。お父さんは、なんでそんなに悲しんでるんだろう…
「お父さん、なんで泣いてるの?お父さんも泣くんだね、大人の男の人なのに。」
純粋に聞いたはずだった。少なくとも、今の私は何が起きているのかわからない。惚けたように聞こえてしまうのも、無理はなかった。
私のその口調が、余計に心に刺さってしまったらしい。お父さんは、今までにも増して泣き出した。
「お父さん…お兄ちゃんがどうしたの…?ねえ、お兄ちゃ……」
どうして気づかなかったのか、と言うよりも、どうして思い出せなかったのか、自分が不思議でならなかった。
─お兄ちゃんは、寝ているんじゃない!
悟ってしまった。いずれは知らなくてはならない事実だったけれど、全てを忘れかけていたせいで再び味わう事になってしまった、大きすぎる悲しみの襲来はさすがに応えた。
「お兄…ちゃん……」
私は、きっとまたこの事を忘れるのかな…そして、また思い出して悲しむ事になるのかな…
そう考えただけで、こんな現実で、これから何もかもやっていける気がしなかった。
─そうだった、これは夢なんだ…!覚めてしまえば、どんな悪夢だってちゃんと終わる。じゃあ、こんな酷い夢、早く覚まさせないと!
突然ほっぺたを叩き始めたり、手足をばたつかせ始めたりした私を、両親は驚いた顔で見つめた。
─全然覚めてくれない…方法が違うのかな…
他にも色々と試してみたが、何をやっても夢が覚めるような事はなかった。
─やっぱりダメ…どうしてもダメだ……それならしょうがない……強くなって、こんな悪夢にでも頑張って立ち向かってやる。
そんな考えをよぎらせた私は、かの有名なお話をふと思い出した。
そう、不思議の国のアリス。夢なのか現実なのか、本当の真相は誰にもわからない。けれど、好奇心旺盛な女の子が、迷い込んだ不思議の国で冒険するという簡単な内容なら、きっと誰でも知っている。
そんな事なら、私にだって出来る。だって、夢なら何でも出来るから。覚めてしまえば全てが終わる…何度も何度も言い聞かせたこの言葉を信じて、いつしか私は、その気になっていたのだった。
─私の名前はアリス。こっちが本物の私…
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【R15】母と俺 介護未満
あおみなみ
現代文学
主人公の「俺」はフリーライターである。
大好きだった父親を中学生のときに失い、公務員として働き、女手一つで育ててくれた母に感謝する気持ちは、もちろんないわけではないが、良好な関係であると言い切るのは難しい、そんな間柄である。
3人兄弟の中間子。昔から母親やほかの兄弟にも軽んじられ、自己肯定感が低くなってしまった「俺」は、多少のことは右から左に受け流し、何とかやるべきことをやっていたが…。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
女子高校生を疑視聴
すずりはさくらの本棚
現代文学
いまは愛媛があつい。女子高校生の制服が硬くならない内に見届けようと思いやってきた。最近は、セックスして動画を担保に女子高校生から金を巻き上げている。春から夏に移動して暑さ全盛期でも生きていけるのはセックスという儀式があるからだろう。川原や土手では多くのパンチラを世に送り出してきた。盗撮だ。盗撮だけでは性癖は留まらずに性交渉へと肉体を求めて彷徨う。頭の中はセックスのことばかりだ。そういう人間もいるという証拠になるだろう。女子高校生と擦れ違うたびにスカートの裾へと手が伸びる。疑視聴までは「タダ」だが、襲うとなると別だ。ただ刑務所へと戻ってもよいという安易な思考では強姦には至らない。不同意わいせつ罪とは女性が男子を襲ったときに年下の男子が被害を出せないからできた法案だと聞いた。長くても10年の刑だ。それと少々の罰金がついてくるらしい。わたしはこれまでに民事は一度も支払ったことがないし義務もないと思っている。支払う義務がなければ支払う必要はない。職場もないし起訴されても現在は無職であり住所が不定なので怖くもない。最近はまっているのは女子高校生のスカートの裾触れだ。注射器も用立てたので(絶対に足がつかない方法で盗んだ)睡眠導入剤を粉々にしておいたものを使用する。静脈注射は駄目と書かれてあるが駄目なのはなぜなのか知りたくなった。薬物ドラッグをなぜやったら駄目なのかを知りたいと思うのと同じだ。好奇心が旺盛なのと飽きるのは大体同じくらいに等しい。セックスとはそれについてくる「おまけ」のような存在だ。行動を起こした人には「ご褒美」が必要だとTVでもいってた。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ!
コバひろ
大衆娯楽
格闘技を通して、男と女がリングで戦うことの意味、ジェンダー論を描きたく思います。また、それによる両者の苦悩、家族愛、宿命。
性差とは何か?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる