虫けら転生録

或哉

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68話 つまらない★

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転生者が、蟲が消えた。
比喩等ではない。忽然と、煙の様に消えたのだ。
転生者がいた場所からは、その証と言わんばかりに粉塵が立っている。

『…逃げられましたか?あなたともあろう者が、随分と迂闊だったのではないですか?』
どこからか声がして、龍にどこか親しげにしかし無機質に話しかける。
「……主よ」
それだけ呟く龍に、やれやれ、といった様子で声は言う。
『ええ、あなたのお察しの通りですよ。あのような力を、あの虫は持っていませんでした。』
その虫がいたところを見る。
まるでそこに何も無かったように空白だが、しかし、まだ新しく生々しい破壊の跡が、それは存在したと明々と証明している。
「申し訳ございませぬ。儂の不注意でありました」
『いやいや、向こうも奴が出張って来たなら、こちらは私が出るしかありませんよ。あなたはこの世界から充分に逸脱しているとはいえ、まだ神の領域には届きませんからね』
淡々と感情の起伏を感じさせない声は、ソレが何でもない事のように呟く。それに、龍は悔しげだ。
「儂も、力不足という事でありましょうか」
『そうですね』
にべもなく言い放つ声。無情な様にも思えるが、それは何のことはない、純然たる事実であった。
この龍とこの声の間には、確実な、隔絶した差がある。

神。それは明確にこの世にありうるモノを逸脱した力を持っている。
『過去、か…』

フフッ、面白そうに嗤うと、声は言う。
『えぇ、えぇ。ソレくらいしてもらわないと困りますよ。そうでないと、ですからね』
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