虫けら転生録

65話 子供にお土産をあげるやさしい化け物

えー、こちらインセクト05。
トカゲ連れた子供がトカゲと一緒に応戦中、どうぞ。
…なんて思念に答える声はない。まぁ誰とも繋がってはいないし、声に出したわけでもないし当たり前。

さて、このトカゲと子供、案外強い。相手にしているのはイモムシだったときにやりあった、というか全力逃亡してなんとか木にぶつけさせて体内を食い荒らして倒した猪だった。
大体３mくらいで、あの時よりかなり小さく感じるが、これでも恐らくDランクはある。
それと同等に子供がやり合っているというのは中々だ。そのトカゲは多分ドラゴンか龍かの幼体なんだろう。ただのトカゲにしては大きいし、強いし。

あ、子供の槍が目を刺した。
「プギィィィ！！」
猪が悲鳴をあげ、やぶれかぶれに突撃をするが、丁度合流したリーダー格に回収されたため子供もトカゲも無事だ。そして、そのままリーダー格と子供で猪にトドメを刺す。
ナイスおっちゃん。
ただなぁ…血の匂いと戦闘の気配って魔物を呼び寄せるのよね。
この集団のすぐ近くに、獅子がいた。あのカマキリもどき時代に死闘を演じた奴と同種だと思われる。
わぁい、同窓会みたいでたのしいなぁ。
威圧全開にして獅子にまっすぐ降りていく。例の集団にも威圧が行くだろうが、この際無視だ。まぁなんとか逃げてくれ。
当然、空から未知の脅威が降りてきた獅子は上を向く。
注意をちゃんと引き付けて、向こうに行かないようにする。この威圧で逃げてくれたら楽なんだが…
あれ、去ってった。もしかすると、意外と慎重なのかもしれない。正直楽勝とは言えないしなんならそこそこ苦戦するまであると思っていたから。まぁあのときよりも格段に楽ではあるだろうけど。
まぁラッキーと思っておこう。


………えーっと。
悪かったよ。威圧のスキル発動したままだったのはさ。
だけど君等もビビり過ぎじゃない？失神したりなんだりかんだり。立ってるのリーダー格だけじゃん…
あーあー、子竜連れた子なんか失禁しちゃってる。それでも意識は保っているのは流石というか、なんというか。
でもそれでも子竜はしっかり抱きしめて守ろうとしているのか。仲いいんだなくそったれ羨ましい。

とりあえず…これ俺のせいか？俺のせいか。聞くまでもないな。それでコレ放っておいたら死ぬよな？
あー、もう。とりあえず目が覚めるまで待つかー……
まぁ気配察知には引っかからないから大丈夫だとは思うけど一応ね。
もうリーダー格も俺については諦めたのか、チラチラと気にしながらではあるが、呆けながら子竜を抱きしめる子をぽんぽんと叩いて心配をしている様子。
ま、手伝ってもいいけど、ただ怖がられるのがオチだろうから止めておこう。
とりあえず今回の件で俺がこの姿のまま人間と仲良くするのはかなり厳しいということが再認識出来た事が再確認出来たってことで収穫……言う程収穫か？

とりあえずそそくさと逃げてく彼らにせめてものお詫びとして俺の外骨格を一部剥がして渡す。ちょい痛いけどすぐ再生するだろうし、取っ手でも付ければ良い盾にでもなるでしょう。







「ぬぅ…………」
ギルドマスターと帝国鍛冶組合支部長と……偉い人達が一同に会し、ソレに重々しい唸り声をあげる。
そわそわするファフニールをそっと撫でる。
というか僕もそわそわする。こんな偉い人がこんな集まることなんてそうそう無いし。

冒険者ギルドで、オーレル大森林での探索を通じて新人冒険者に経験を積ませる、という企画があり、竜騎士になるべく教育されてきた…もとい、兄弟の付き添いだけで話を聞いていた僕も連れて行って貰うことになった。荒っぽい人ばかりだと思ってたら、身の上話…勿論転生したことは伏せてだけど話したら凄い号泣されて連れて行ってもらえる事になった。荒っぽいというより暑苦しい人達だった。有り難いけど頬ずりはヒゲが痛いのでNG…
ところで、僕がなんで呼ばれているんだろうか。
あの黒い化け物に渡された…甲羅？を鑑定して貰いに行くと言われて今回の探索のリーダーのサブさんに連れられてきた所までは覚えてる。ただ、こんな偉い人に囲われるとか聞いてない。
いや、僕は一応貴族だから僕も偉くはあるのか。一応。
でも僕これでも前世はただの小市民な訳で。

「コレは……黒いバケモンに貰ったって話だったか？」
鍛冶組合支部長がそれを手に取り、コンコンと軽く叩いて満足そうに笑うと、ガッと肩を組んできた。
う、少し酒臭い。
「俺が直々にコレを盾にしてやろう！お前さんの身の上は大体聞いてる。なに、悪いようにはせんからコイツを数日預けてくれや、な？」
「そ、そんなに良い素材だったんですか？」
揺すられながら聞くと、ギルドマスターが半ば呆れて苦笑いする。
「うーん、ま、そこそこ珍しいのは確かにだけど、素材としてもっと良いのはあるよ。ただ、コレは軽いから子どもの君も取り回しやすいんじゃないかな？」
それに、とギルドマスターがゴツンと結構強めに鍛冶組合支部長の頭をぶん殴る。
「このバカ、君の身の上聞いてから聖剣をもう一本打ってやるって騒いでてね…」
聖剣、この国の事実上のトップの実力である剣聖。そんな剣聖に国から送られるのが聖剣である。
それを打ったのはこの人の祖先らしい。
「ま、お願いして良いんじゃない？そうでもないとコイツ満足しないだろうし」
「俺も否やは無いぞ、というかそもそもそのためにお前連れてきたんだしな」
「サブさん…じゃあ、お願いします！」
「おう、任せろ！」
頭を擦りながら、がっしりと手を握ってくれる。
…強く握られすぎて痛かった。