虫けら転生録

或哉

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63話 冥土よりごきげんいかが★

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はーい、お久しぶりです。
覚えている人も居ないと思われるので改めて自己紹介、冥土のメイド、セレアさんでーす。
ゲボカス剣聖の忠実(笑)なるメイドでーす。

え?口悪い?メイドの仕事と彼氏出来なさそう?
うるさいですね、『栄光の四騎士』時代の剣捌きは衰えてませんが、あなたで試してみます?
そもそも私は戦闘力を買われて先代の国王様に引き抜かれた、どちらかというと戦闘員で護衛なんですからね。国の騎士団を淫売女なんて根も葉もない噂話で追放された可哀想で可憐な美少女である私を雇って下さった先代国王様には感謝の念が堪えません。お優しい方でしたから、私の傷を気に病んでいたのかもしれませんね。
先代国王様は子育て以外はとても素晴らしい方でした。
あの様な素晴らしき賢王様からなぜあのような人類のゴミが生まれたんでしょう。転生者だからでしょうか。


「紅茶です」
「遅い」
「温い」
「………」
「まぁ…皆様…折角淹れて下さったんですから…」

平常心、平常心です。
私は今給仕をしています。これでも紅茶くらいは淹れられますよ、行軍中の物資で、場所はおどろおどろしい闇の森ですが。

家畜以下の剣聖野郎、今から魔王を倒しに行くんです。
勇者のいる国は、それだけで多大な力を持ちます。小国でも世界中の国々を動かしうる程に。
では、何故勇者にそれ程の価値があるのか?
それは、魔王を倒しうる存在である、と神から認められているからです。平たく言えば人類の旗印ですね。そう、神より選ばれた名誉ある役職なんです。
つまり、魔王を倒せば、人類にとってその人物は勇者と同等の価値を持つということになります。
新王である第一王子様はその価値を見て、帝国を強くしようと、単細胞剣聖を丸め込、げふん、説得し、魔王を倒しに行くことになりました。それは勝手に行って死んでらっしゃいなんですが、何故か私も行くことになりました。王の勅令だそうです。

それで、この行軍の主軍、つまり魔王と戦うのは私とゴミカスを含む5人。
まず帝国騎士団長。私が軍を追放される理由となった噂を流した一人で、腕は確かだけれどキモオヤジです。
私に粉かけようとされてあしらったのがそんなに気に触れたのでしょうか。
そんな訳で、わたしこれきらい。これもわたしきらい。
それから、帝国のSランク冒険者の魔法使いさん。
この人全っ然話さないんですよね。最初に「剣聖だか聖女だか騎士団長だか栄光の四騎士だか知らないけど私の足だけは引っ張んないでよ」って言ったっきり。空気悪くするだけ悪くして放置ですよ。腹立つ。
そして、聖女様。そう、聖女様ですよ、聖女様。
この中で様付けするのが唯一吝かではないのが彼女、というか彼女が居なければ、このパーティ崩壊していましたね。教会から認められる程の回復魔術の使い手であるだけにとても気配りのできるお方で、また、人を惹き付ける魅力があり、自然とパーティのまとめ役になっています。心身ともにケアを欠かさず、正に根っからの聖女様でした。
どうやらゴミと同郷でいらっしゃるようで…ご愁傷様です…

「ありがとうございます、こんな道中でこんなに美味しいお茶が飲めるなんて…」
「いえ、それが仕事ですから」
美味しいのは当たり前です。私の秘蔵の紅茶の一番美味しいところを淹れたのですから。私に出来る最大限の感謝の気持ちです。え?他の奴は前にその辺の商人から買った少し腐りかけの葉で淹れたので充分でしょう。見た目と香りにだまくらかされて買っていく人が多いんですよね。見識があれば葉を見れば分かるんですが。新人執事が間違えて買ってきたものです。
「おい、これ不味いぞ、やっすい茶葉使ってんじゃねぇよ」
チッ、飲めるだけありがたく思え、エロガッパ。


さて、小休止を挟んだ後に、護送の馬車を出ると、眼の前にはさすが魔王城と言える威容の城がありました。いるだけで圧を感じ、思わず肌が粟立ちます。
…上等ですね、この血がひりつく感じ。懐かしいです。
前線を退いて長かったですが、この感覚だけは忘れようがありません。
怖いわけではありません。冒険心といいますか、武者震いといいますか、未知にゾクゾクするこの感覚。たまりませんね…
「……飴でも?」
…聖女様は、教会で大切に保護されていました。勿論時々魔物対峙には参加しているそうですが、それでも命の危機がここそこにあるという環境にはお慣れになっていないのでしょう。
約一名、いや二名の過信バカと、一名何考えているのかよくわからないのが居ますが、この際これらは無視します。
「…ありがとうございます。頂きます…」
「おい、俺にもその飴寄越せ」
聖女様に飴をお渡しした後にドブカスにも飴を与えておき、少し勇気づいたらしい聖女様の様子を伺います。
…まだ震えています。やはり、少し焦りすぎなような気もします。
出直したほうが…

「…もう大丈夫です、ありがとうございました。
…行きましょう!」

…強いですね。
先頭を陽々と歩き出すエロ団長についていく形で、後ろを警戒しつつ、私達は魔王城へ入って行きました。
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