虫けら転生録

或哉

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55話 毒は塩基性のが多いから苦いんだってよ

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岩壁を凹ませて、龍がその動きを止める。
が、これで倒せたとは思わない方が良いだろう。経験値も入っていないし、まだ生きている。
それでも、まず一発。食らわせたぞオラァ!!

ただ、その分俺のダメージもデカい。炎をマトモに食らった分のダメージは勿論、転がるの分のダメージ、再生したばっかの拳で殴った分の反動ダメージで、身体中そこかしこが鈍く痛む。
痛覚耐性が無ければ泣くほど痛いんだろうし、痛覚耐性様々だ。苦味くんにも是非とも見習って頂きたい。同期の捕食くんは成長に大いに役立ってくれたし、噛みつくくんも鋼身体に統合されて存分に役立ってくれている。同期の中でも苦味くんだけが微妙に役立ってないんだよな。まぁ、仕方ないとはいえ。

龍がむくりと起き上がり、怒気を孕んだ双眸でこちらを見据える。
が、そこまで甚大なダメージは与えられて無いようだし、このままやってたらダメージレート的に負ける。こっちから奴のHPを覗き見る事は出来ないが、この程度でやられる程軟弱でもないだろう。精々が1割削れたかどうか…って所か。ソレに対して、俺のHPはもう半分を切っている。やはり転がるの反動と、再生させたばかりの腕で思いっきりぶん殴ったのがかなり効いている。
あの炎を吐いていたのは牽制程度だったのか思ったよりダメージは少なかったが、それでも無視できるほどじゃない。これだけやってようやく与えたのがこんなしょっぱいダメージとかキツイ。

このままやっても、先に俺のHPの方が先に切れる。しかも、意表を突いてコレだからなぁ…次も同じ様にさせてもらえるなんて甘い考えにはならない。

何かしら手を打たないと行けないが、打ってコレなんだよなぁ…


「グ……アアアアアアアア!!!」
バサリと荒々しく暴風でマグマと岩石を散らして吼える。翼を一振りしただけでまるで台風でも直撃したのかっていう爆風が吹き荒れる。洞窟の絶対王者として、納得させられる様な風貌、強さ、そしてプライド。
生きるのに精一杯な俺にとって、見習うべき点は多いと思う。
かっこいい。そう思った。

吹き荒れる暴風の気配が変わる。危険察知は反応しないが、絶対になにかある。
バックステップで、暴風の範囲から逃れ、足で岩石の大地を踏みしめる。暴風に曝された岩石が破壊され、破片が風に乗り舞い上がって座塵旋風の様になっている。
視界が砂塵で埋まり、互いの姿は完全に遮断される。

…さて…決めに行くか。

四肢に鋼身体を発動させる。防護目的も勿論あるが、基本的には威力増強目的だ。
砂塵の中、真っ直ぐに駆ける。全身を砂塵が打ち付ける。が、大したダメージにはならない。暴風の謎の破壊も、予兆がある。避けられる。
ぼんやりと影が浮かぶ…そこだな?

極度に力を込められた拳からミシミシという音がする。鋼身体による硬化も影響しているのだろうか。
拳が空を切り裂く。そして、同時に爪の空気を切り裂く音がした。

ズドォンッ!!!

爆発したかのような音がして、弾き飛ばされる。互いの爪と拳がいい具合に入った。俺のほうがダメージは大きそうだが、これでいい。
猛風タイフーン』でなんとか勢いを殺し、連続使用で無理矢理追撃に出る。向こうもこっちの攻撃食らって崩れていた体制を慌てて立て直すが、こっちが接近する方が早い。龍の頭部の真ん前に出る。

龍が一瞬笑った様に見えた。そりゃそうだ。龍にとって、眼前は数多攻撃手段がある。魔術吐息をはじめ、噛みつき、首での薙ぎ払い等。
しかも、至近距離だと避けられない。

この龍は思っているだろう。マヌケめ、と。
だから、魔術吐息を吐こうと大口を開けた龍に、俺もこう言う。

マヌケめ。

死毒の楔シェーデル・ヒュポスケシス』の毒の鎖が絡み合いながら龍の口の中に雪崩込む。
「グゥゥゥウウウ!!!ガァァアアア!!!!」
明らかに苦しみ始める龍。眼は血走り、焦点の合わない眼で俺を睨みつける。



勝った…………



そんな油断が、一瞬、俺の脳裏を駆ける。
その代償は、重かった。

気がつけば、左肩が吹き飛んでいた。
コイツ…まだやる気なのか!?
顔を歪ませ、龍が死に者狂いで襲いかかってくる。決死の覚悟を前に、僅かに怯む。

爪が眼前を掠め、ミシミシと身体が悲鳴を上げる。

痛みで身体の動きが鈍り…龍の牙が俺の足先を抉り取った。

不味い…死んだ…これ…


「ガギャアアアアアアア!!!!アア!!アアアア!!!」


と、突然、龍が何か極度に恐れるようにのたうち回る。
ドクドクと血が流れるのも気にせず、呆然とする。



…龍は、一度、死毒を受けていた。

…死毒は、極度にのだ。



そのまま力なく横たわり、ぐったりとする龍。
そうか…苦味10か…
俺の身体が苦いのを毒だと勘違いしたわけだ。

……えっと……なんか釈然としないけど…苦味のお陰で生きてるってことでいいのか?
…役立たずって言った途端にコレってなんか悪意感じるぞ…?


…とりあえず…油断は禁物ってことで。
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