虫けら転生録

43話 神の掌★

巨大な森林の奥底の、世界から孤立したような、小さな空間。

事実、そこは外界と一切の関わりを持たず、その存在のみが有った。

その存在は、深き眠りから目を覚ます。
ただ、彼...か彼女かは分からないが、その存在はその場所から動くことを許されなかった。

狭く、暗いその空間だけが、その存在が存在を許されている場所だった。
だが、それももうすぐ終わるだろう。

この世界は、度々異世界と座標が重なる。
座標はランダムで周期性は無いものの、大体は予想が出来る。
座標が重なったその時に、時折異世界の魂が紛れ込み、こちらの世界に定着する事がある。

ソレを成した生命体を、転生者と言う。

最も、コレが人間とは限らないが...
しかし、別の意識が介入した、この世界とは異なる魂は、この世界で生きていくのは難しい。
だから、神はこれに『スキル』を与えた。

すると、呼応するように、この世界の生物もスキルを得た。
初めにスキルを得たのは動物だった。
スキルを使い人を襲う動物は増えていった。

コレが、原初の「魔物」だ。
それに抗い、生存する為に、神はヒトに「スキル」を与えた。

こうして、世界は自らの命を掛けた戦いを始めた。



その存在は目を閉じて、脳裏に浮かぶ景色を視た。

獅子が腹を裂かれ、命を落とした。
視界の端では、一匹の虫が疲れた様にぐったりとした後、喜んだように飛び跳ね...あ、転んだ。
その存在は目を開き、呆れたような仕草をした。

間抜けだ。
神の掌の上で踊らされているとも知らずに、滑稽な戦いの舞踊を続ける道化...
その存在は笑う。どこか諦めた様に。

だが、その存在には希望が有った。
転生者、この世界の理から外れた者。

この世界を覆しうるのは、転生者、それも偶発的な者しか無いのである。


再び目を閉じれば、一匹の虫が映った。
不味そうに獅子の遺骸を頬張っている。
...頑張ってくれよ。元勇者様。
その存在は、思わず綻ぶ口元から言葉を零す。


その存在は、かつて大罪を犯し封印されし神であった。