虫けら転生録

或哉

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32話 「絶望」の再来

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さくさくと、草をかき分けて歩く。
エルフっ子は疲れて俺の背中で寝ている。案外重くないし、俺自身のステータスもそこそこ高いから、ちびっこ一人なら余裕で担げる。
こういう寝顔を見ていれば子供っぽくて可愛いのだが、勘違いしないでほしいのが、この子俺より強いかもしれんってとこだ。木を操るのは案外自由自在らしく、道中も木の根の鞭でぶっ叩いたり、拘束したり、盾にしたり。応用力も高いっていう。この子本当に子供か?
長命種特有の年齢詐欺なのかもしれないが、取り敢えず頼もしいから良し。連携のスキルも早速役立ってくれた。味方の攻撃の飛んでくる所が大体わかるのだ。
まぁ勿論味方だけだけど。

あれから歩き続けて3日が経過している。
俺はあんまり疲れてないが、この子にとっては重労働だろう。時々飛んで、街の方向を確認しながら、のんびり歩く。食事については、例の奴隷商の携行食を食べている。俺も少し貰ったところ、フルーツ風味で酸味があって中々美味しかったのだが、エルフっ子はあまり美味しく無さそうにもそもそと食べていた。この辺になってる果物も、ちょっと味見してみた。毒あった。俺は毒無効持ちだから平気だが、まぁ苦いのなんの。確か塩基性の物質=毒あるのは苦いんだっけ?忘れた。まぁ、食えるなら俺は何でも食うけどね。
水については、なんとエルフっ子が水魔法まで使えたため、解決済み。
いよいよ本格的に俺より強い疑惑が出てきた。
既に能力の便利度では負け。
まぁ、種族特性的な問題で身体構造が違うから俺の方が防御力高いはず。実質勝ち。

...何をムキになってるんだ俺は。

ところで、ここ一日、魔物が出てこなくて平和だ。時々遭遇はするのだが、歩く草とかのが日向で寝ていたりするくらいで、見るなり襲って来るような凶暴な奴はいない。というかそうだよ。普段ファイトばっかしてんのがおかしいんだよ。飯の確保目的以外で襲ってくるとかどういう戦闘狂バトルジャンキーだよ。怖いわ。
まぁ、それはそれで俺の暴食ライフが捗るから良かったんだけどね。

兎にも角にも、平和なのは良いこと。争いは無いのが一番よ。
俺の目的はとにかく、平和に、長生きすること。
なんで平和に生きるために戦闘力上げなあかんのですかね?この世界理不尽だってばよ。


そう、この世界はいつだって理不尽。
未だに俺が死んでないのは、運が良かっただけ。
特に、あの龍。
他のドラゴンとは一線を画す化け物。
俺のトラウマであり、隔絶した存在。
街にもう到着しようと言う時に、ソレは再び姿を現した。

街との間に立ち塞がる様に鎮座し、睨むように憎しみを込めた目で睥睨してくる。
音が一切無くなった様な圧倒的威圧感は、最早物理的影響力を以て俺の体を抑えつける。
目覚めたらしいエルフっ子も、俺の足を掴んで震えている。
いや...震えているのは俺もかも知れない。
俺は一応恐怖耐性をスキルとして持ってはいるが、心は平和な世界で、戦いとは無縁の世界で生きてきた一般人なのだ。そんな凡夫が、物理的圧力までも発する威圧を前に、恐怖を感じない訳がない。
寧ろ、ショック死とか気絶とかしていない時点で凄い方だと思う。

果てしなく長く感じた沈黙は、龍によって破られた。
龍が前腕を薙ぎ払う。
その龍にとっては、邪魔な小蝿を払うに等しい行為。だが、その払われる小蝿にとってそれは、絶対の破壊力と目で追えすらしない速度を持っていた。

ぐぅ、ッ!!
痛覚耐性を突き破り、全身を激痛が駆け巡る。鉄躰を咄嗟に使って尚HPが一気に一桁まで削られた。もし発動出来ていなかったら、間違いなく即死していただろうと思うと、背筋に冷たいものが走る。
そうだ、エルフっ子は!?見渡した所で、木にもたれ掛かる様に倒れているエルフっ子を見つける。
慌てて駆け寄ると全身に重症を負って、意識を失ってはいるものの、かろうじて生きてはいた。
今までも多くの強敵がいた。何度も死にかけた。
だが、目で追うことすら出来ない、こんな絶望的な格差を見せつけられたのは初めてだった。初めて遭遇したときより、俺はずっと強くなった。
それでも、コイツにはどうやっても追いつける気がしない。
正しく絶望。
勝つ負ける以前に、戦いになっていない。逃げることすらも、叶わないだろう。
だが、俺だって、簡単に死んでやるほど優しくは無いんでね。

どうにか、この子だけでも逃がしてみせる。
ここから街までは大体目測500mくらいか。
その距離だけ、何とかすれば勝てる。

ただ、普通に走れば即、追いつかれるだろう。
だとすれば...方法は一つしかない!!

龍は、もう眼前に迫っていた。
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