虫けら転生録

或哉

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21話 深淵の魔王 ★

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シュレディンガーの猫。或いは鬼の証明。
実際に確かめるまではそれが存在するかどうかわからない、そして、存在しない事を証明することは、何人たりともできない...

閑散とした広い城。
未だに生々しい破壊の跡が残り魔道具によってどうにかその姿を保っている状況だ。
僕は、魔王だ。
とはいえ、まだ配下は1人も居ないし、悪事も働いてないし、象徴たる居城ですらこのザマだ。
更に言うなれば、僕は人類に存在すら知られていない。先代魔王、つまりは僕のお父さんが勇者により殺されたのは僕がまだ物心付かないような年齢の事だった。
母親も、その後まもなく死んで、生き残りの元配下も、散り散りに逃げていった。
僕のことなんか誰も構ってる余裕は無かったんだろう。誰だって自分の命は大事、仕方ないことだ。

それなのに僕がまだ生きていられたのは、自我が確立した転生者だったからだろう。
幸い魔王の血を受け継いでいるからか、比較的自然に魔法でものを引き寄せたり、食べられる木の実や果物を取りに行くことができたため、手が届かなくて栄養不足で死ぬことはなかった。

そんな感じで開始した異世界孤独魔王引きこもりぼっち生活も、もう10年がたった。人里に行きたい、人に会いたいとは思うのだが、それには外見が大きく邪魔をする。
黒く、禍々しく捻曲がった二本の角。見た者に畏怖を植え付けるサイズの巨大な黒い両翼。そして、鮮血の色を思わせる真紅の瞳。本によると、これらは世界に数人いる魔王達の特徴なんだそう。
つまり、人里にいったら一発で魔王バレする=駆除キルされる。
まぁ魔王だし、魔王城近くの魔物相手に魔法の練習をしているから弱くは無いと思うが、記憶に残る勇者はそれはそれは強かった。勝てるビジョンが見えない。今戦うことになったら僕は輪切りかウェルダンステーキかルイベだ。

という訳で人里に行くのはパスとして、今度は配下を創る方向にシフトする。
勇者一行との戦いでほぼ燃えてしまった中でも、数少ない燃え残りの魔法書を取り出す。この世界では植物紙は貴重なもので、大抵が羊皮紙だった。
栞代わり挟んでおいた枯れ葉を捨て、一つのページを開く。
そのページを慎重に血で写していき、完成したら宝物庫から取り出した貴重そうな金属塊を魔法陣の中心に置く。
これから試すのは、配下の魔物の召喚術だ。
魔王のみが使える魔法というのがあり、その一つに、物質を元にゴーレムを創る物があるらしい。どっちかって言うと、召喚よりも創造の方が近いと思うが、そんな事は今は関係ないと言葉を紡ぐ。

属魔召喚アークサモン鋼人形メタルゴーレム...」
魔法陣が鈍く輝き出し、僕の身体から何かが引き抜かれてゆく感覚がした。多分この引き抜かれつつあるものが魔力なのだろう。
金属塊がカタカタと動き出すと、ぐねぐね蠢いて、ヒトの形をつくってゆく。
「汝の名は『トラスト』...我に永久なる忠誠を誓え」
その言葉を受け、魔法陣は一瞬強く光り、消える。
あとには、丁度ショッピングモールのマネキンのようなゴーレムが残った。

どうやら成功したらしい。よかった、上手くいって。
安堵から思わずへたり込んだ。魔力を使いすぎたせいかもしれない。
それを心配する様子を見せるゴーレム...トラストの仕草が妙に人間臭く、思わずふっと笑みがこぼれた。

しかし、ゴーレムというからド◯クエのレンガを積み上げたみたいなずんぐりとしたものを予想していたが、このサイズと形なら城を直させる事もできるかもしれない。
「さて、じゃあ、お前が一人目の僕の配下だ。よろしく、トラスト」
手を差し出すと、少し困った様に握り返してきて、固い握手を交わした。
握った手は、金属特有のひんやりとした感じと、生物としての温かみが同時に感じられ、なんだか不思議な感じがした。
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