虫けら転生録

或哉

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12話 子育て日記(どっちがとは言わないが)★

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なんだか、ぷかぷかと何か漂っているような不思議な感覚。
意識がハッキリとしなくて、でもなんだかそのままでもいいと囁かれているような暖かさ。

手を伸ばす。
その手は、何か硬いものに当たった。
何も見えないし、出られそうもない。
...その前に、身体の感覚がおかしい。
指先が硬い...ツメかな。
背中に何か生えている。何かに覆われているから僅かにしか動かせないけど、私の身体の一部だと嫌でも理解してしまう。

混濁していた意識が段々はっきりしてきた。
私は高校生、添染そえぞめはるか、微妙に陰気臭くてオタクっぽいけど、ただの人間だった。
決して、ツメとか羽とか生えてない、はず。
私、もしかして、人間やめた?
え?なぁんでぇ...?
もしかして、転生ってヤツなのかな?
え...なんで人間じゃないの...

いや、そりゃ確かに魔物転生は面白いなってよく読むよ?
読むけどさ!!!!
したいかと思えば違うと思うんだ!!!

はぁ...はぁ...
なんか疲れた。
異世界とか興味無い訳じゃないけど、なんかどうでもよくなってきた。
このまま殻の中で死んでも良い気がする。
正直、期待より不安とか絶望とかの方が大きい。

こんな望んでも居ない転生なんかさせられたって、嬉しくもなんとも無い。
転生は神からのプレゼントだ、だったっけ。
こんな気の利かないプレゼントなら、そのまま死んだままで良かったのに。
このまま殻の中で死んじゃおうかなぁ。
そもそも殻が堅くて割れそうにない。
...楽になれるかな。

どれくらい経ったのか分からない。
まだ...?まだ、楽になれないの...?コツコツと何度か、無情に躰を包む、嫌になるほどに硬い殻に頭を打ち付ける。
でも殻はびくともしない。
知らぬ内に、雫が伝った。涙が出るみたいで良かった。
少なくとも感情はまだ持ってるみたいだから。

ふと、その感情が温かさの存在を告げた。
段々と冷えていた身体が、少しずつ、だが確実に。再び熱を取り戻していた。
卵の殻を内側からそっと撫でる。
...あったかい。
すると、理由は分からないが、私の中で今までは静かにしていたキモチが一気に開放された。

...死にたくない。死にたくない。

...死にたくないッ!!

ガンガン、一心不乱に殻に身体をぶつける。
ツメで叩いて、殻を出ようと、必死に藻掻いた。
ピシッ、と、今までは何も音沙汰が無かった殻にヒビが入った。
出られる...!!
一層激しく殻を叩く。

バキン。

殻にあるまじき音が響き渡った後、殻は割れた。
目を上げると、目を見開いた子供が居た。
これから絶対イケメンになってチヤホヤされるタイプの子だこれ...
まだ1歳か2歳かそのくらいだが、既に美形だ。黒髪の中に、真紅の目が映える。
何より...この子が私に生きる勇気と温かさを与えてくれたんだ。
その子の手が触れた。
そっと撫でてくれる。
気持ちが良かった。あの時...死ななくてよかったと心から思う。

この時、決めた。
私がこの子を守る、と。
その為に、今は...安心したら睡魔が襲って来た。
今は...この子の腕の中、眠るとしよう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


寝ちゃった、か。
僕の腕の中で眠る子供の銀色の龍を撫でる。
僕は元高校生で、今は異世界で龍騎士として成り上がってきた貴族、ファスト家の三男坊として生まれてきた、グレイ・ファストっていう...んだが。
黒髪赤目はどうにも縁起が悪いらしく、差別を受けている。
この一家には、生まれた子供に龍の卵を送るという風習があったのだが、その時だって、中で死んでるかもしれなく、孵化は絶望的だと診断された卵を押し付けられたくらいだから。
それでも、僕は卵を抱いて、温め続けた。本当に合ってるか分からなくて、不安になったりもした。
でも、孵ってくれた。
「...あぃあと......」
な、なんだよ、まだ1歳だから舌が回らないんだよ。
こほん。とにかく。
僕のもとに来てくれてありがとう。
メイドさんの検査魔法で雌個体だと分かった時から名前は決めてあったんだ。
『ファフニール』...
変な名前だって嫌われないと良いけど、神話から取った。
...なんだか、眠たくなってきた。
そういえば、卵が激しく動くようになってからは一睡もしてなかったっけ。
うげ、外が真っ暗。こりゃ眠いわけだ。
ファフニール。ありがとう。
僕が絶対、守るから。
そんなことを考えながら、眠りについた。
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