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メンヘラストーカー編

11話

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 メンヘラはストレスに弱い。
 痛みの許容量は、個人差がある。

 嫌なことは他人に任せて楽なことだけしていたい、と心から望んでいる。それはメンヘラじゃなくても誰もが持っている願望だ。
 願望が暴走している。常に自分のことで精一杯なのだ。
 なんだか「おかしい」人って、自分の痛みには敏感で、他人の痛みには鈍感なんですよ。

「今からどこかに出る用事ってありますか?」
「今から買い物だけど」
「ついて行ってイイですか」
「は?」
「ご一緒したいです」
「今から行くのは君の家と反対方向で、なんでわざわざ遠回りせにゃならんのだ?」
「どうしても駄目ですか」
 そしてしつこく食い下がる。

 介護記録を書き進めようとしている時に何度も邪魔が入った。
「今、忙しいんだよ」
「息抜きしませんか」

 なんで休むタイミングまで指示してくるんだ、こいつは?

 共依存と言ってくる人もいるだろうから、はっきり違うと断言しておく。通り魔に粘着されてるだけだ。
 共依存の場合は「私がいないとダメなんですこの人」という感覚だ。
 むしろ俺は鬱陶しくてたまらなくて、早く逃げ出したい気分だった。なぜ逃げられないのか。近所に住んでいて警察が味方になるかどうか怪しいからだ。

 お金が足りない時、たまにバイトに出ていた。そこで知り合ったのがヘラ君だ。
 その時はガチの精神障害2級だとは知らなかった。
 ヘラ君は車の免許持っているし最低限会話ができていた。ただ遊びに誘われる時、強引なところがあった。4つほど年下だったので、最近の若い子はこんなものなのか? と思っていたが全く違った。

 介護中でも迷惑だといっても深夜1時2時に電話がかかってくる時があった。
 介護体験で書いた通り母はなかなか夜眠りについて来れなかった。やっと眠ってくれたタイミングで着信音が鳴ったら、母がまた起きてしまう。
 すぐに取るしかなかった。電話番号を確認する暇もない。父は入院して何度も危篤状態になった。知らない電話番号からかかってくることなどしょっちゅうだった。
「今起きてますか」
「お前に起こされたんだよ」
 ヘラ君は何度も電話番号を変えていたので拒否しても、まるで意味がない。ほとんど毎日のように連絡が来て返事をするまで止まらない。返事をしたら要求に応えるまで数10分おきに連絡がくる。
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