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家族の悲鳴編

家族側の悲鳴 2話

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 家族会というのもある。俺はお世話になったことはない。家族が複数人いて、交代で面倒を見る場合は参加する時間的な余裕があるかもしれない。しかしワンオペ介護は交代要員などいないのだから、家族会に行く時間があるならば睡眠時間を優先したい。
 実際に一週間で10時間程度しか眠れなかった時もあった。
 施設の方が我が家に訪問しても、誰かが訪問した記憶はあるのに顔を覚えていなかった 。ギリギリの状況で誰かに相談する時間があるならば寝たいのだ。家族の立場というものは辛い。

 介護従事者、施設職員、看護師などの給料をあげようという声はいくつも聞いたことがあるだろう。では「介護世帯、家族をいたわろう」なんていう話は聞いたことあるだろうか? なぜだろう? 簡単な話だ。

 施設は複数あり、その職員は組合を作れるほどいる。組合は組合費を集められる。弁護士なども動いてくれる。ネットニュースなどでもお金を持っている人々の方が扱われやすい。だから施設職員の悲鳴は取り上げられるが、家族の悲鳴は軽んじられる。
 権利を主張するにも組織力がなければ軽く扱われる。
 家族会は、とくに忙しい、辛い人々は参加できない。

 だからといって「職員を救うな」なんて馬鹿な話は言わない。俺も福祉大卒だ。同期は福祉系の施設職員だったりする。施設長になった者もいる。施設側の言い分もわかる。
 だが、あまりにも無視されている家族の方も見て欲しいのだ。

 職員の苦労、これもわかっていただきたい。
 大便まみれの腕で抱きつかれ、暴れて殴られる職員もいる。職員の入所者への虐待はニュースになっても、職員が被害者の場合はどうだろう? ほぼ騒がれない。
 夜勤では数十人に対して少数の職員で面倒を見なければいけない。その夜勤があけたとしても、利用者さんにインフルエンザなどの症状が出たら、部屋の消毒などをしなければいけない。
 16時間連勤、夜勤明けで部屋の消毒をしながら3時間ほどサービス残業。昼頃になっているので帰ろうかと思ったら利用者さんの誕生会がはじまる。
 帰れない雰囲気で延々と眠い目をこすってサービス残業。賞与ありと書いてあるのにでない。そもそも福祉法人は利益を重んじていない公益法人なので、営業利益が上がるということは、まずない。何年も一切賞与が出ない。その上、人員削減の流れなど論外だ。
 こんな状況でこき使われて、朝食が一切食べられなくなって激やせした同期もいた。現場職員は悲惨な状況なのだ。だからこそ報われてほしい。

 家族はどうだろう? おそらくではあるが、現場職員の方で「一人の家族に対して面倒を見るなんて楽勝」と思ってる方いないだろうか?
 まず現場と違って洗濯、食事は外部に委託していない。備品の補充などもたっぷりと整っている施設と置き場所に困る家族介護は状況が違いすぎる。車いすにのせたままシャワーができる環境と家庭での入浴は全然違う。暴れたりロウ便(便をいじる)などは家庭も同じで、包丁なども身近にある家庭の方が危ない、まである。
 施設、医療機関では暴れて手が付けられない人を(要件さえ整えば)拘束することもある。在宅世帯は基本、拘束までしてない。拘束したら虐待を疑われ通報されることもある。
 暴れて自傷する認知症患者を、一晩中、監視できますか?
 夜中叫んで眠らせてくれなくても、休みも交代もないワンオペ家族介護。終わりが見えない。何より収入がない。
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