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認知症、ワンオペ、在宅介護編

認知症、ワンオペ、在宅介護編 16話

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「子供を産めんかったうちの親の前で子供を産まんなら追い出すと言っとったな!! よおもそんなこと言えたもんやな!! 毎度毎度呼んでもないのに来やがって!!」

 人生で最も苦しい時期により多くの苦しみを俺に与えた鬼ども。
 当時、本気の殺意を覚えていた。この怒りは永遠に忘れない。
 噂では俺のことを「ヤクザの子」と広めているようだ。ヤクザで良かった。人の血が流れてるじゃないか。俺はお前たちのような鬼ではない。

 追い出した後から、俺は母方の祖父母の墓参りをしなくなった。
 何十人の孫に囲まれていたが墓参りしていたのはおそらく3人程度。
 お世話になったし、よくしてくれたがもう鬼一家とは関わりたくない。

 2014年頃、愚痴を聞いてくれるおじさんもいた。年2回ほどだが助かった。このおじさんは遠くに離れて住んでいる。

 母方の血筋について誤解されたくない。この鬼たち以外は優しい人達だ。

 アンガーマネジメントという考え方がある。
 怒りをコントロールするという考え方だ。6秒我慢して怒りを鎮める。社会人として必要な技能だという。

 俺はまったく本末転倒だと思う。
 いつもイライラして周囲を無差別に攻撃するような奴は怒っている自覚がない。本当に必要な人には、怒っている自覚がないから気をつけようとは思わない。

 むしろ俺のような男は、その場で「怒れない」ことで被害に遭い続ける。譲ったら譲った分だけ厚かましく振舞われる。我慢したらその分余計に被害にあう。
 付けあがった加害者は、反撃しないお人好しを攻撃し続ける。
 気を付けよう、と思う善良な人間には一切必要ない理屈だ。

 俺がある施設系列の病院で大激怒した時に「怒りが積み重なってるだけじゃありませんか」と冷静になるように促してきた看護師さんがいた。
 その看護師さんは皮肉ではなく、穏やかな常識人だった。
 それでも怒っていた俺に怒りをコントロールするように指示してくる。

 なぜ被害者に全てを背負わせる?
 なぜ被害を受けて、苦しくて、叫んでいる人間をさらに追い詰める?
 我慢して、我慢して、死ぬまで殴られ続けろというのか?
 怒ることそのものを、悪いことであるとする風潮は大反対だ。
 人間から人間らしさを奪わないでほしい。
 そもそも怒りが積み重なるのは当たり前だ。
 違うというのならば密室に監禁されて、顔面がトマトみたいに膨れ上がるまで殴られてみると良い。それで怒らない人間なんて、感情のない、自立できてない、人形と同じじゃないか。
 怒りの制御。誰かを救うための言葉が、別の誰かを傷つける。
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