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認知症、ワンオペ、在宅介護編

認知症、ワンオペ、在宅介護編 7話

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 ろう便(便をいじる)が増えていく。
 ある日、せん妄状態の時にろう便が始まった。
「これなーカステラぞー」
 大便を紙パンツから指で取り出してベッドの横にいた俺に差し出してくる。
「これ弟に送らないかんなー」
 遠くに住んでいる母の弟に送りたいというのだ。ニコニコしつつ「そうやな」と母の指についた便をふきふき。
 こんな状態になっても弟のことが気になるんだな、と心温まる人もいるのだろうか。
 なぜか便とカステラが頭の中で結びつくことが何度かあった。理由は全くわからない。

 ポータブルトイレで紙パンツをおろすと大便が少し出始めている時があった。早く座ってもらって便器の中でしてもらう。本人が抵抗してなかなか座ってくれない。便器の中にしてくれたらいいが地面に落とされたらまた仕事が増えてしまう。
 落ちてくる便を紙パンツで受け止めたこともあった。尿の時はどうにもできず足首まで汚れた。感覚が鈍くなっている。排尿排便はコントロールできなくなってきていた。

 お湯が足りない。
 給湯器から持ってくるのでは遅すぎる。その間に紙パンツの中の便をいじってしまう。手元にお湯がなければいけない。
 いろいろと工夫した。
 最初はウォータージャグを購入した。お湯を溜めておける。だが一晩もすれば、ぬるくなってしまう。
 そこで蒸気レスポットを買った。トイレが近かったので蛇口はある。お湯さえあれば水で薄めるだけで温水ができる。
 なぜ蒸気レスなのか? 最初は普通のポットを使っていた。すると家の中にこもる蒸気のせいで壁紙にカビが生え始めた。
 古い鉄筋コンクリートの家なのだ。東京オリンピックの年に建てられた。
 清潔にしないとすぐ熱を出す。女性の場合は性器の形状的に尿道炎、膀胱炎になりやすい。炎症が起こった場合、尿の匂いですぐにわかる。
 病院に連れて行くのだが、介護保険のおかげで介護タクシーを安く利用することができたた。車いすごと乗り込める。いつもなら車いすを折りたんだり、嫌がる本人を助手席に乗せたり、大変だったのだ。
 ただ、空いてるとは限らない。そしてデイサービスはお休みとなる。病院で付き添いに行くのだが寝不足なので辛い。

 この時期、家の雨漏りがひどくなった。鉄筋コンクリートとはいえ木材も使われている。このままでは家の中から腐ってしまう。業者さんは塗装の塗り替えとともに防水工事をしたら150万円以上かかるという。そんな余裕は我が家にはない。
 介護が厳しくなってから収入などほとんどない。仕方がないので自分で修理をして塗装し直すことにした。
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