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認知症、ワンオペ、在宅介護編

認知症、ワンオペ、在宅介護編 4話

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 最初、母はデイサービスにバッグを持って行った。
 財布はいらないと言っても、持って行こうとする。ティッシュを無茶苦茶に詰め込み、耳かきも持って行く。耳かきは本人がどこに置いたかわからなくなるので何度も購入した。少なくとも家に5本はあった。
 なぜか車椅子にはおかしや魚の切り身が挟まっていたことなど、細かいトラブルはあったが。こんな小さい事ではクレームなど入れない。職員さんも懸命にがんばっているのだ。

 困ったことは何度も起きる。入れ歯を洗浄したいから夜外してもらう。外させてくれないことが多々あった。
 総入れ歯なので洗浄剤につけておきたい。外さないというのなら一晩ぐらいなら問題ないのだが、入れ歯が空を飛ぶ。
 当然だが入れ歯に羽があるわけではない。夜、口に手を突っ込んで本人が投げてしまう。ベッドの横どころか廊下まで飛ばしてしまうことがあった。

 外してもらおうとすると「もうええ」と強く抵抗される。壊れるからやめて、と言ったところでわかるはずがない。異食にも気を付けなければいけない。異食とは食べられないものを口にしてしまうことだ。
 ボタン、ビニール、草、目に見えるものは全て危険だ。髪留めを使う習慣があったので少しずつ手元から遠くに移動させた。気をつけないと、人によるのだが「大便」を口にする人もいる。

 1時間に1回は叫んだり、トイレで起こしたり、ベッドから落ちそうになってたり。トラブルのたびにおきて、20分ずつ細切れに睡眠をとる。
 まとまって睡眠が取れないのはきつい。
 常に睡眠不足なので頭が回らない。
 施設に持っていくお薬は一回分ずつホッチキスで止めた。ショートステイ利用の場合、朝昼夜と油性マジックで書き込んでおく。100円のクリアポーチに入れて持っていく。施設によるだろうがこれは地味にきつかった。服にも名前を書いておく。これはどこの施設病院でも同じことだろう。
 交代要員がいる介護世帯とワンオペ介護では負担が違う。認知症でも薬が効いておとなしいタイプの方ならここまできつくはないだろう。我が家は運が悪かった。
 ポータブルトイレに座らせた状態で夜、隣でできることはほとんどない。ラジオを聴くか電子書籍を読むか。疲れているので難しい書物は読めない。ラジオも日曜夜は放送休止だ。病院の待ち時間でも電子書籍は重宝した。人気の病院は4時間待ちが当たり前だ。音も出る動画サービスやゲームは病院内では控えてしまう。

 読書家の方で電子書籍を好まない方はいるのは知っている。
 介護世帯の場合は油断するとそこら中に大便が転がる。紙の本で読みたいとは思えない。使い捨て手袋を使っても破れてたら指も汚れる。
 夜中、母が叫んで眠らせてくれなくても、明かりをつけると余計に眠ってくれない。あかりのいらない電子書籍はとても便利だった。生活が変われば読書体験も変わってくる。
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