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 幼児期編 3話

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 俺は気弱な子供だった。両親が戦前生まれ。教育というものが田舎では重要視されてなかった時代の人だった。勉強よりも手に職をつけるほうがよい。
  父は持病で車の免許を返納していた。母は原付で買い物に行っていた。
 田舎では公共交通機関が発達していない。車社会だ。
 我が家は車のない世帯だった。同級生が親にいろんなところに連れてってもらった話を聞きながら、俺はどこにも行けていないと肩身の狭い思いをする。
 親とキャッチボールをする話を聞いても、俺の両親はすでに高齢者。キャッチボールどころではなかった。
 いくつか特殊なものも教わっていた。両親が戦前生まれなので身を守るということに関しては大切に教えられた。受け身の取り方、薙刀の基礎、そんなものを教わっても球技は下手なまま。球技においては足手まといで組わけではいつも最後まで残った。
 家では叔父さんのことを誰かが見ていなければいけなかった。なのでほとんど家の中で過ごした。
 ぼっとん便所と裸電球、使いまわしの計算・漢字ドリルがおいてある、寺子屋のような塾に行くこともあったが、それ以外で外に出ることはほとんどなかった。

 運動能力も低かったのでどんくさい子だった。当然いじめられる。泣いて帰ってくると 母は鬼の形相で「男が泣いて帰ってくるな!!」背中を蹴られ、ランドセルを外に放り投げられ「ち〇こ切り取ったる」とハサミを持って追いかけまわされた。
 母にとって理想の男の子でなければ「いらない子」だった。
 学校で何があったとしても母には相談できなかった。
 どこに怒りのポイントがあるかわからないからだ。 
 母の口癖「普通になりたい」父方の祖母に子供が出来なかったことで責められて、何度も何度も責められて、心を壊していた。
 幼い頃の母を知る人はいつも「ニコーっとしていた」穏やかな方だったという。何年も何年もいじめられて母は周囲に求められる「普通」に押しつぶされていた。その結果、俺に対する理想の押し付けに繋がっていた。
 理想通りの子供でなければいらない子「出来る限り親の言うとおりにしよう」イイコになっていた。
 今の言葉で毒親というんだろうか。

 母は「普通」になりたかった。子供のいる「普通」の家庭。
 若い頃に得られるはずだった「普通」の家庭。

 授業参観の日は痛々しいほど若作りをしていた。周りのお母さん達と一回り以上年上の、うちの母は浮いていた。それでも必死に話題について行こうとする。子供ながらに痛々しかった。見てられなかった。子供側ではうちの母を見て「おばあさんが来ている」という言葉が聞こえてくる。
 子供というものは素直で残酷だ。
 それぞれの家庭で、我が家の事をどういう風に噂していたのだろう。「もらい子って本当?」幼い俺は答えに困った。
 いつだったかそれぞれの母子手帳を持参する授業があった。俺だけ現住所から数百キロ離れた場所で生まれている。
  母子手帳のデザインも違えば、住所も違えば、そこに記されている名前も違う。俺が普段使っている名前と似ても似つかない名前が記されている。「よくあること」と教わっていたが当然違和感はあった。
 実際は、夜逃げ中に生まれて捨てられたのだ 。
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