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元世界最強が行く地獄の世界大戦〜後編〜
最後の戦争 その14 ~命を懸けた戦い~
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「アルベータの姿を確認、こちらに接近してきている模様」
それは突然だった。数時間何も動きを見せなかったのに、突然動き始めたアルベータに驚きが隠せていなかった。
「なら、敵の姿を捉え次第、魔法準備。一斉砲撃と同時に、切り込み部隊は、この砦を守ってください」
「おうよ」
「了解です」
この指揮を執っているのは、ジル・レガーストだった。ジルは、この戦況を覆す方法は何も持ってはいない。ただ、時間を稼ぐという意味では、かなり優秀な人間だった。
「……」
ジルは切り込み部隊を見る。すると切り込み部隊のリーダーであるチャームズが少し微笑みながら、ジルに声をかけた。
「おいジル。少しは自信を持て。この計画を立てたのは私ではなく君だよ。ジル」
「ですが……」
「私はね、もう、この世界にはうんざりなんだ。だって考えてみろ。私の周りには誰がいた」
この時ジルは気が付いた。チャームズ・ヴァン・ドラゴンはここで死ぬ覚悟があるということに。
そして、ジルはここ数年間を振り返り始める。
「エモン、ディアル、ミーファそんな化け物たちに囲まれて、私は自身の弱さを確認したんだ。それでも、今私は逃げずに、ここに立つことができている。それは、彼らから学んだことかもしれないけどね」
エモン・ヴァン・ヴィクトリアは、世界最強とまで言われたヴィクトリア家の天才だった。だからこそ、ディアルの夢を壊さなければいけないという使命感を抱いていた。だから、エモンは戦争を始めた。それでもエモンは、ディアルの夢を壊すことはできなかったが……。
ディアル・ラミールフェールは、幼き頃から抱いていた、この世界の理を逸脱する人間に会ってみたいという子供じみた夢を叶えるために、様々な方法でそれを実現して見せた。その結果、その夢に食われてしまったが、それでも幸せだったと思う。
ミーファ・ラミールは、アルベータ・ヴァン・エンシェント・サマエルの力を知っていた。だからこそ、ミーファはエモンに力を貸したし、エモンについていくことを選んだ。その結果、アルベータに殺されてしまった。
チャームズは、そんな仲間たちの時代を生き抜いた最後の人間だった。
「なあ。もしだ、私が死んだら、…………」
「分かりました」
それで二人は持ち場に歩いていく。ジルの後姿は少し寂しそうだった。
「敵確認。あと少しで射程圏内に入ります。ジル様確認を…」
「ああ。確かに確認した。だが、まだ距離はあるな」
「ぎりぎりまで引き付けるのですか」
「普通ならそうしたいところだが、今回ばかしはそうはいかないな」
「と言いますと?」
部下の問いに、ジルは少しだけ間ができた。そしてジルは引き付けない理由を話し始めた。
「今回の作戦は、大魔法で吹き飛ばせる相手ではない。だからこそ、切り込み部隊が必要になる。大魔法でできることは、アルベータの一瞬を奪える程度だ。なら、次の手を考える必要がある。それが切り込み部隊だ。切り込み部隊が崩れた時、私たち後方部隊は、再度魔法を展開する。それが近かったら、一瞬で全滅だろう」
「なるほど……」
「総員魔法構ええええええ」
ジルの声に、魔法発動部隊の人間が一斉に魔法を展開し始める。だがその魔法はすぐに飛んでいくのではなく、皆が揃うのを待っていた。そしてジルの次の一言で、魔法がアルベータに向かって飛んで行った。
「放てええええええ」
ドゴオオオオオンン
それは聞いたことのない音が、辺り一帯に鳴り響く。それがこの戦いの開戦の狼煙となる。
「この程度では死なないよなああ。アルベータアアアア」
「ふっ。これは面白いな。全人類と敵対するのも」
煙の中からアルベータに向かって、チャームズは戦闘態勢に入った。
これは、死を覚悟したものだけが立ち入ることができる、最悪な戦争だ。
それは突然だった。数時間何も動きを見せなかったのに、突然動き始めたアルベータに驚きが隠せていなかった。
「なら、敵の姿を捉え次第、魔法準備。一斉砲撃と同時に、切り込み部隊は、この砦を守ってください」
「おうよ」
「了解です」
この指揮を執っているのは、ジル・レガーストだった。ジルは、この戦況を覆す方法は何も持ってはいない。ただ、時間を稼ぐという意味では、かなり優秀な人間だった。
「……」
ジルは切り込み部隊を見る。すると切り込み部隊のリーダーであるチャームズが少し微笑みながら、ジルに声をかけた。
「おいジル。少しは自信を持て。この計画を立てたのは私ではなく君だよ。ジル」
「ですが……」
「私はね、もう、この世界にはうんざりなんだ。だって考えてみろ。私の周りには誰がいた」
この時ジルは気が付いた。チャームズ・ヴァン・ドラゴンはここで死ぬ覚悟があるということに。
そして、ジルはここ数年間を振り返り始める。
「エモン、ディアル、ミーファそんな化け物たちに囲まれて、私は自身の弱さを確認したんだ。それでも、今私は逃げずに、ここに立つことができている。それは、彼らから学んだことかもしれないけどね」
エモン・ヴァン・ヴィクトリアは、世界最強とまで言われたヴィクトリア家の天才だった。だからこそ、ディアルの夢を壊さなければいけないという使命感を抱いていた。だから、エモンは戦争を始めた。それでもエモンは、ディアルの夢を壊すことはできなかったが……。
ディアル・ラミールフェールは、幼き頃から抱いていた、この世界の理を逸脱する人間に会ってみたいという子供じみた夢を叶えるために、様々な方法でそれを実現して見せた。その結果、その夢に食われてしまったが、それでも幸せだったと思う。
ミーファ・ラミールは、アルベータ・ヴァン・エンシェント・サマエルの力を知っていた。だからこそ、ミーファはエモンに力を貸したし、エモンについていくことを選んだ。その結果、アルベータに殺されてしまった。
チャームズは、そんな仲間たちの時代を生き抜いた最後の人間だった。
「なあ。もしだ、私が死んだら、…………」
「分かりました」
それで二人は持ち場に歩いていく。ジルの後姿は少し寂しそうだった。
「敵確認。あと少しで射程圏内に入ります。ジル様確認を…」
「ああ。確かに確認した。だが、まだ距離はあるな」
「ぎりぎりまで引き付けるのですか」
「普通ならそうしたいところだが、今回ばかしはそうはいかないな」
「と言いますと?」
部下の問いに、ジルは少しだけ間ができた。そしてジルは引き付けない理由を話し始めた。
「今回の作戦は、大魔法で吹き飛ばせる相手ではない。だからこそ、切り込み部隊が必要になる。大魔法でできることは、アルベータの一瞬を奪える程度だ。なら、次の手を考える必要がある。それが切り込み部隊だ。切り込み部隊が崩れた時、私たち後方部隊は、再度魔法を展開する。それが近かったら、一瞬で全滅だろう」
「なるほど……」
「総員魔法構ええええええ」
ジルの声に、魔法発動部隊の人間が一斉に魔法を展開し始める。だがその魔法はすぐに飛んでいくのではなく、皆が揃うのを待っていた。そしてジルの次の一言で、魔法がアルベータに向かって飛んで行った。
「放てええええええ」
ドゴオオオオオンン
それは聞いたことのない音が、辺り一帯に鳴り響く。それがこの戦いの開戦の狼煙となる。
「この程度では死なないよなああ。アルベータアアアア」
「ふっ。これは面白いな。全人類と敵対するのも」
煙の中からアルベータに向かって、チャームズは戦闘態勢に入った。
これは、死を覚悟したものだけが立ち入ることができる、最悪な戦争だ。
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