上 下
71 / 130
アルベータ

アルベータVSミーファ 後編

しおりを挟む
 辺り一帯に甲高い金属音が鳴り響く。それと同時に、ミーファの口角が上がっていた。

「なんで笑える」
「ふっ。面白いから笑えるんだよ」
「何が面白い」

 アルベータの悪魔の剣が、ミーファの顔に近づく。ギリギリと音を立てながら、ミーファの体に近づく。それでも、ミーファは笑っていたのだ。

「この戦いは、いつから一人だと思った」
「何だと……」

 アルベータは一瞬だけ、アーティが参戦してくるのかと考える。だが、この辺りには、アーティは居なかった。

「アーティはどこ行った。ミーファアアアアアア」
「はあ。はあ。ああっと。さーてねえええ」

 アルベータは叫ぶ。確かにそこにいたアーティ・ヴァン・ヴィクトリアがその場に居なくなっていたからだ。その叫びを待っていましたと言わんばかりに、ミーファは、笑い始める。その笑いと同時に、アルベータの攻撃が少しだけ緩んだ。

「ふん」

 ミーファは、アルベータの攻撃が緩んだすきに剣を受け流した。

「くそ」

 アルベータは、一瞬だけ体勢を崩す。その間にミーファは、アルベータと距離を取ることに成功する。

 アルベータは、辺りを見渡し現状を一生懸命にアーティの姿を探す。だがそこには、アーティもいない。

「まさか、アーティを逃がすため、あなたは死を選ぶってことかな」
「まさか~。そんな人間はいないよ」
「……」

 アルベータは黙り、ミーファを睨み続ける。

 だからミーファは答え始めを始める。

「アルベータ。あなたは2つ間違いを犯した」
「間違いだと」
「そう。一つ目は、私を殺そうとしたこと。私を殺そうとしたところで、あなたの計画は計画通りにはいかないわ。私はあくまでも、ラミール家だからね」
「なるほど。なら、ヴィクトリアを先に殺すべきだったのか」
「そう、それが二つ目の答えかな。アルベータ」

 そう語りながら、ミーファは目で圧をぶつける。

「なんのつもり。ミーファアアア」

 その言葉の瞬間、アルベータは、悪魔の剣を投げ捨てる。すると悪魔の剣は姿を消した。そしてアルベータは、剣を捨てると同時に、血の呪いを展開する。しかも今までとは違って、体に巻き付ける。

「なるほど、面倒な攻撃ね」
「お前を、殺せば、私の勝ちでしょ」
「あはっ。そうかなあ。アルベータ」

 ミーファは魔剣グラムを構える。そして、アルベータは特攻の構えを取る。

「死ね。ミーファ」
「死ぬのはお前だ。アルベータ」

 まず、アルベータはミーファの視覚を奪いに行く。体に巻いているブラットチェーンの一つが伸びる。

 ミーファは、その攻撃を避けることができなかった。いやもう、避けれなかった。体力の限界だった。

 だからミーファは、その攻撃を目を開いたまま受ける。その攻撃は体を貫く。そして、体から血が流れ始めるが、ミーファは、無言で、アルベータを見つめていた。

「何見ているんだよ、テメー。気色悪いんだよ」
「あはッ」

 アルベータの放った言葉に対して、ミーファは笑って見せたのだ。

「死ね。ミーファ」
「ガハッ。……」

 アルベータのブラットチェーンは、ミーファの体を捉えた。心臓にもダメージを与えた。もう、致命傷だった。それでも、ミーファは笑って見せたのだ。

「何だ」

 アルベータのその言葉は、とても自然なものであり、アルベータに対して恐怖を感じさせた。

「ようやく、覚醒してなくて君を捕まえることができた」

 それは、ミーファが命の炎を最後まで燃やしていたからこそできた特攻。

「なっ」
「どうせ、私は、ここまでみたいだしね。なら最後に、少し……で…も…ねええええ」

 魔剣グラムが、アルベータの左目を捉える。

「グアアアア」

 その攻撃を左目で受けてしまう。その痛みが来ると同時に、アルベータはバックステップで追撃を避けようとする。そっからアルベータは左目に左手を当てて血が出ていることを再認識する。それと同時に、ミーファの追撃が来ないか右目で確認をしていた。だが、数秒経っても追撃は来なかった。

 ミーファ・ラミールは、剣を握ったまま、さらに立ったまま、息絶えていた。しかも、その表情は、少しだけ、嬉しそうにも感じた。

 ミーファ・ラミールは、この戦いが始まる前から、肉体的限界に直面していた。万全な時なら、行わない行動を取り続けた。その結果、ミーファ自身あり得ない選択を取り続けた。

 それでも、目的はあった。アーティ・ヴァン・ヴィクトリアの顔をもう一度見たかった。それが死になったとしても……。だから、ミーファは、この戦いを最後まで楽しめたのかもしれない。

 でも、ミーファの最後の作戦は、実行には移されなかった。

 それもそのはず。その作戦を実行するには時間が足りなかった。ただそれだけだった。

 だがそんなことは、アルベータは知るわけはない。

「くそ、強くなりすぎだろ。死ぬ前に左目を殺るなんてな」

 アルベータは、もう一度、ミーファの姿を確認する。

「はは、お前は、すげーよ。あんなに小さかったのに、今は……。最後の最後まで戦って、何つーか……。とっても美しかった」

 アルベータは、ミーファに手を合わせ、頭を下げる。

「安らかに眠れ、ミーファ・ラミール。シャバと、タートに、よろしく頼むぞ。あの時代の仲間として……」

 そしてこの戦いは終結した。

「じゃあーね。ミーファ。お前と共に戦いたかったよ」

 その言葉は悲しみを含んだ言葉となり、この場に響き渡った。そして数分後、この場には、ミーファの死体だけが残された。


ーーーーーー
 場所は変わり、アルベータとミーファの戦いから少し離れたところにて

「くそ……遅かった……」

 そう呟いて、遠くから眺めて涙を流す者がいた。それは、チャームズ・ヴァン・ドラゴンだった。チャームズは、アーティを連れて距離を取ること、さらに戻ってこれるようであれば、戦いに加勢するという計画だった。

 だがそれは、叶わなかった。チャームズが加勢する前に、ミーファは息絶えてしまったからだ。

 じゃあ、なぜ今からでもアルベータを殺しに行かないのか。それは、ミーファとの約束もあった。

 ミーファはこの作戦の大事な部分はこう伝えていた。

「私が生きて戦えるうちは、あなたを守ることはできるけど、私が死ねば、あなたを守ることなんてできない。そして悲しいことに私一人では、あの化け物を殺せない。エモンも、ディアルも死んだ今だから言えるけどね。私の体も完璧じゃない。なら方法は一つ。共に戦う。そして片方が欠けた時、まあ主に私が欠けた時は、あなたは逃げて、あの化け物を、あなた一人では対応できない」

 その言葉は、今のチャームズには深く刺さっていた。確かに、私一人ではあの化け物を殺すことはできない。しかも、今の私達には気付いてもいない。なら、この場を離れるしか方法は残されていなかった。

「ミーファ・ラミール。あなたは、とっても強かった。ありがとう。君が残したものは、私達で、払拭する」

 そう言い残しチャームズはその場を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...