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名もない不思議な町

ヴィクトリア家

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「ミアアア‼」

 そんな声と同時に、パーンと乾いた音が鳴り響いた。

 その弾は、ミアには当たらなかった。

「ミア」

 アーティはその名を口にする。

「なんで、その名を……」
「なんでだろうな。私にもわからん」
「……」

 ミアは、視線を下に向ける。名前を呼ばれたことが少し少しだけ、嬉しかった。

 こんな世界でも誰かが見ているんだって、気づくことができたから……。

「アーちゃん」

 ミアはアーティに抱き着いた。アーティはゆっくりとミアを、抱きしめる。

 あの時と一緒のように……。

「ねえ、ミア」
「……なに、アーちゃん」
「ミア。あの時、助けられなくて……ごめん」

 アーティは過去ミアを助けに行こうとしたことがあった。でも、助けることは不可能だった。

「うん。知ってるよ」
「知ってたのか」
「うん。だって、アーちゃんは……」

 静まり返ったこの部屋に響く一つの声。それは、きれいな声であり、アーティが昔助けることのできなかった声。

「ヴィクトリア家の当主候補だよね」
「……。ああ。そうだ」

 そうだ。私は、ヴィクトリア家の人間だ。最悪の戦争の始まりを起こしたものだ。

「恨んでいないのか」
「なんで?」

 ミアは不思議そうな顔で、アーティを見ている。

「この状況を作ったのは、私だ。ひと時の感情に任せた結果、貴族の大半が領土を失い、兵士は多くの民を殺し、民からは、貴族を恨むことが多かったはずだ」
「そうかもしれないね」

 ミアは優しい笑みを浮かべていた。それが、私にとって一番つらい。

「ミア。戦争をして、戦争を通して、何か感じたか」
「私はね、アーちゃんと会えなくて、辛かったことかな」

 胸が痛む。原因を作ったのは私達、ヴィクトリア家だ。

「そうだな。私もお前と会えなくて辛かったよ」
「やった。同じ気持ちだあ」

 私にミアとゆっくりと唇を重ねた。


ーーーーーー

 時は少し前にさかのぼり ドラゴン家の屋敷(隠し部屋にて)

「頭が痛いわね」

 この町の監視ルームにいるのは、ミラ・ヴァン・ドラゴンだった。

 ミラの心臓は今は動いていない。つまり死んでいる状態と同じである。なのに、ほかの人間と同じように動き続けることができている。

「シラモンのやつ。侵入者を許すなんてね」

 ミラが見ているのは、先ほど起きた事件現場の動画だった。

「ようやく見つけた。まさか、ミアが持っていたなんて」

 その目は普通の目をしていない。生きているって感じることができないそんな目をしていた。

「さっさと。回収しなくては。私の計画が壊れちゃう」

 ミラは重い足取りで、その場を後にする。

 ミラの前に立つ警官が驚く表情と同時に、死体に変わっていく。

「まずは、アーティ・ヴァン・ヴィクトリア。あなたから殺す」


ーーーーーー

 時は戻り アーティとミアの居る場所にて

「ねえ。アーちゃん」
「どうした。ミア」
「私と一緒に、あの時みたいな貴族に戻らない?」

 その言葉を聞き私は、ドキッとする。

「なんで、そんなことを……」
「なんかそんな目を、しているなーって思って……」

 その通りだ。私は、古代兵器を手に入れ、世界を壊したいって考えていた。

 そんな時期もあった。

「ミアは戻りたいのか?」
「アーちゃん。どっちでもいいかな。今の私は幸せだから……」

 きっと私は勘違いをしていた。できるならあの時、あの日からゆっくりとやり直したい。

 でも、叶わない。時は何があっても戻らない。なら、今を生き抜くしかない。

「ミア。僕も幸せだ」

 その言葉を言った、次の瞬間入口の壁が吹き飛ぶ。

 その中から現れたのは、ミラ・ヴァン・ドラゴンだった。だが、知っているミラではなかった。

「ミラ様?」
「いや。お母さんじゃない」
「えっ⁉」

 笑えない。ミラなのにミラじゃないなんて。勘弁してほしい。

 しかも強い。

「アーティ・ヴァン・ヴィクトリア。あなたには、今ここで死んでもらいます」
「しかも、逃がしてくれないと……」

 勘弁してほしい。僕はまだ死ぬことはできないんだから。

「悪いですけど、死ぬのは、あなたですよ」

 その言葉を皮切りに、戦闘が開始された。
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