発展科学の異端者

ユウ

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2章

32.戻る意識

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 あれから数日たった日、零は意識を取り戻した。

「あっ……あ…」
「零。良かった」
「リ……リ…」
「零。先生を呼んで来るね」

 リリはその場を、離れていく。リリの瞳を見た零は、この戦いが終わったことを悟った。

「あ……あ」

 零は、病院から外を見る。その先には、崩壊した町が少しだけ見える。

「かなり……。やられた…みたいだな」

 その時。医者の男の人と看護師数名やってくる。

「城ケ崎さん。良かったです」
「……」

 零は無言で、医者を見る。医者は、零の様子を触ったり観察したりして、その場を離れていった。

 この病室に残ったのは、リリと零だけとなった時、リリは口を開いた。

「零……。君に謝らなければいけないことがあるの」
「……?」

 その言葉に零は察する。だからリリが喋る前に、零が喋る。

「父さんを、殺せなかったんだろ」
「うん」
「ははっ。しょうがないよ。僕が何もできなかったんだ」

 零は、喜一に完敗した。だからこそ、リリを咎めることはできない。第一、あれだけの傷を負っていながら、圧倒するだけの実力を、喜一が持っているとは、零は考えていなかったからだ。

「あれは、僕の計算ミスだ。僕が強くて、命を捨てる覚悟がなかったからだ。だからリリ、君のせいじゃない」
「ごめんね」
「ああ。それで、一つ聞きたいんだけど、父さん……。いや、喜一は君を創ったのかい」
「私の存在は知っていたみたい。だけど、違う」
「そうか…。また、一から探さないとな」

 リリ・ルベール彼女は、とある実験体の完成形だった。だが、彼女一人では完成形とは言えない。もう一人必要なはずだ。だからこそ、喜一はリリの存在を知っていると、零は踏んでいた。

「だとすれば、誰が、知っているんだ」

 零の疑問は、モヤモヤのまま数日の日が過ぎた。

 それから数日後、零は退院することができるようになった。その間にも、お見舞いに事務所の人や警軍の人間も来ていた。

「良かったですね。もう退院されるなんて」
「ええ。これでも、科学武装師ですから」
「ええ。すごいです。ただ、無理はしないでください」
「はい」

 看護師とそんな会話をして、零は病院を後にする。今日は太陽の日差しが厳しい暑い日だ。どこかしら、セミの鳴き声も聞こえる。

「社長」
「ああ。タン、陽人。事務所に行こうか」
「はい」

 これから、零達はbit事務所に向かう。お金はしばらくは困らない。

「さて、パチンコでも行くか」
「事務所が先です」
「はは、冗談だよ」

 零達は歩く。明日へ向かって。


 とある廃ビルが並ぶ街。皆は立ち入らないゴーストタウン。そこに、数名の人間が集まっていた。

「なるほど、最終的に集まったのは、2人か……」
「ええ。喜一は、重体で体を休めているわ」

 それは、旧七星教会のメンバーたち。この災害の原因達だった。

「にしても、あの実験体の生き残りがいたなんて…」
「ああ、リリ・ルベールと言ったか」
「あなたは何か、知っていたの?」

 藤川冬香はグロウに圧をぶつける。それ対して、グロウは口角を上げる。

「ああ。少しだけならな」
「何を知っている」
「全ては知らん。だが、世界を変える力とだけ、言っておこう」
「ふーん。世界を終わらせる能力じゃないことだけ、祈っておこうかしら」
「そうだな」

 藤川冬香は、少しだけ窓から外を見る。この町は、数年前災害が起き人は住んではいない。だからこそ、ここに拠点を置いていた。

「そういえば、噂で聞いた話だけど……。ロジャー・モーリーが、片腕を失ったみたいね」
「ほう……。ってことは、グラジア大国でやられったことか」
「そうなるわね」
「動くとしたら、真王教団ってことか」

 グロウは少しだけ考える。真王教団の目的はいまいちわからなかったからだ。

「さて、私たちは、喜一の容態がよくなったらここから離れる予定だから、そこはよろしく」
「ああ。そうだな」
「そういえば、ウィリアムは元気かしら」
「……。いや、ウィリアムはたぶん死んだ」
「はっ?」
「メルティアと戦闘を始めて、連絡が付かなくなった。そういうことだろう」
「ってことは、メルティアが勝ったってこと?」
「そうなるな」
「……。少し、七星教会に探りを入れてみるわ」
「ああ」

 グロウは少しだけ寂しい表情をしていた。藤川冬香はその場を離れていった。

 一人残されたグロウは、薄く汚れた空を見ながら、少しだけウィリアムのことを思い出していた。

「ウィリアム……。長い間、私に仕えてくれてありがとうな」

 それは、ウィリアムに対しての言葉だった。
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