九龍城砦の君は笑う

北東 太古

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第四章 酒場は大体鉄火場に

初めての経験

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「ハル~居るんだろ?人に酒ぶっかけて逃げるなんて問屋が下ろさないぜ?」

ウンランの声だ。
何故ここがバレた?
簡単な話だ、深夜に全力で走ってる奴なんて嫌でも目立つ。
通行人を恫喝すれば場所を特定するなど他愛もない話だろう。

「ハル、誰?知り合い?」

小声で問いかけるシュエメイの顔が先程とは打って代わり、真剣な顔付きになる。

「さっき話した男だ。相手は銃を持ってる。」

「そっか…。ハルはシャオランと一緒にベッドの下に隠れてて。」

「大丈夫なのか?だって相手は銃を」

「知らない?拳は銃より強し!だよ。」

「そっか…頼んだ。」

「うん!頼まれた!」

怯えるシャオランを抱え込みベッドの下へと潜る。

「ハル。俺は手荒な真似はしたくないお前の事は割と気に入ってんだ。出来れば殺したくないだから扉を開けてくれ。」

シュエメイは扉の左へと移動する。

「わかった三秒数える、三秒数えて出てこなかったらお前を殺す事にする。殺したくは無い出てきて欲しい。」

シュエメイは目を瞑って構えている。
震えてるシャオランを強く抱き締めながら
息を殺す。

「さん」

「にい」

「いちっ!」

一を言い終わると同時に扉が蹴破られる。
銃を構えたままウンランが部屋の中へと入ってくる。
瞬間シュエメイがウンランの死角から持ってる銃を蹴り飛ばす。

「うぉっ、!なんだ小娘!部屋間違えたか?」

「うるさい。何の用?なんで師匠を追ってるの?」

「師匠って…あぁそういう事ね。お前が一人弟子のシュエメイか。」

「なんで知ってるの?」

銃を弾き飛ばされたウンランとシュエメイはお互い睨み合いながら一定の距離を保っている。

「知ってるぜ勿論、お前も追うべき対象の一人だからな…家は留守だったがこんな所にいた訳か…。」

「なんで私達が追われないといけないの?」

「お前の師匠に聞いてみな。あいつはどこにいる?」

「知らない、私も探してる。」

そう言いながらジリジリとお互い間合いの探り合いをする。

「知らない?一番弟子のお前にも行方を知らせず消えたのか。用意周到な野郎だ。」

「そうね、貴方とのお喋りも飽きてきたわ。もういいよね。」

「あぁ…俺もちょうど飽きてきたところだ…。俺は何時でも準備出来てるぜ小娘!」

その声を皮切りにウンランは腰からナイフを抜き、シュエメイへ襲いかかる。
刺突を胸向けて繰り出す。
手でいなすシュエメイ

「もう少しでかかったら当たってたんだけどなぁ…?豆乳は嫌いか?」

「黙って。」

そう言いながらシュエメイから攻撃はしない。

「ほーん…小娘お前もしかして、刃物を向けられるのは初か?」

「だったら何…?」

ウンランは大声で笑い始める。

「ままごと拳法しか知らん小娘か!それともお前の師匠が見込みないと思ってしっかり教えなかったのかもな!?」

そう言って笑う。
シュエメイは怒ることなく冷静に相手を見据える。

「洪龍拳は人の為にある拳。人の命を軽々しく奪えるのは、人じゃなくて獣だ。」

「じゃあ世の中の奴の大半は獣だな!人ってのは争いが好きだ。それは社会でも女でも男でも変わらねぇ、どんな奴だって他の奴を蹴落とし、奪って生きてんだよ。」

「そうだな…。それでも正しく生きようとする人も居る。私が師匠から受け継いだこの拳はその人達の為にあるものだ。」

「俺は…俺はなぁ!綺麗事言うやつが一番嫌いなんだ。お前らは揃いも揃って同じ事を言いやがる。だから気に入らねぇんだ!」

もう一度胸への刺突。
それを手でいなすとその反動を使い横に切り掛る後ろにさがり避けるシュエメイ。
遂に壁まで追い詰められてしまう。

「次で終わりだ小娘、その控えめな胸にぶっ刺して少しはボリュームアップさせてやるよ。」

「…」

もう一度胸に目掛けて刺突が飛んで来る。
しかし、シュエメイは前へと出た。
刺さりそうになった瞬間に、彼女の体が下へと下がる。
ナイフはそのまま頭上の空を切り、ウンランの無防備な腹を目掛けてシュエメイの掌底がめり込む。

「破ッ!」

ぐふっと言い後ずさりするウンラン。素早く手に持つナイフを取り上げ腕を掴みあげ下に屈服させるシュエメイ。

「しっかり防弾スーツ下に着てんだぜ俺は…なのにこの威力かよ…!」

「師匠は言ってた。ピンチの時ほど力を抜け前へ行けって。」

「そうかよ…。まぁさっきの発言は撤回してやるよ、しっかり教わったんだな…」

「別にいい、お前に認められた所で何も嬉しくないから。」

「そうかよ…でもな詰めが甘いぜ…!」

ボキィッと骨の外れる音がした。
シュエメイに掴まれてる腕を思いっきり逆方向に動かしウンランはそのまま足払いをし素早く立ち上がる。
転ぶシュエメイ。

「命さえとられなければ、腕の一本安いんだよ小娘。生きてたらどーせ治るしな。」

「シュエメイ、次は確実にお前の胸に風穴開けてやる。あとハルお前は絶対に逃がさない。それじゃあな!」

そう言うと四階から下に飛び降り近くの民家の屋根へと移り成都の街へと消えていった。
事が落ち着いたのを確認し、急いでシャオランと共にシュエメイの元へ駆け寄る。

「シュエメイ大丈夫か!?怪我は!?」

「んーん、大丈夫…。」

「転んだ時頭は打ちませんでしたか!?どこか痛むとことかないですか!?」

「平気だよ2人とも、心配かけてごめんね…。あいつ、そこそこ強かった。攻撃する隙が見当たらなかった。」

「ナイフも銃も持ってたし堅気の人間じゃないんだからそんな気負わなくても…」

「あいつが慢心しなかったら多分負けてた。そしたら、二人の事守れなかった。」

「シュエメイ…。」

今まで見た事ない程の落ち込み方。
シュエメイだって拳法家である以前にまだ成人してない少女なのだ。
それにこんな重荷を背負わせて…。

「シュエメイ俺強くなるよ。」

自ずと言葉が口から出た。

もうこの子にこんな顔をして欲しくない。
いつも明るく居て欲しいんだなと思っている事を感じた。
こんな顔で生きるのはこの子の役目じゃない。

「わ、私も強くなります!だからシュエメイ落ち込まないでください!」

「ありがとね2人とも…。…よし!落ち込むの終わりー!少しお腹減っちゃった、残ってる点心食べよーっと!」

そう気丈に彼女は振る舞った。
その後三人で点心を食べながら談笑し朝を迎え宿を後にした。

「ごめん少し俺寄るとこあるから。」

「もう今度は面倒事を持ってこないでくださいね。」

「本当に一人で大丈夫なの…?私も着いていくよ…?」

「今回は本当に大丈夫だから!五分で戻る待ってて。」

そう言って俺は裏路地の屋台で銃と弾薬を買った。
せめてこれで自分の身とシャオランくらいは守らないと。
そうじゃなきゃまたあの顔をさせてしまうから。
五分きっかりに戻り二人と合流しながら街を歩く。

「いやーにしてもドタバタだったね成都!あの麻婆豆腐は暫く忘れられなさそうだよ!」

「そうだな…あれは本当に辛かった…。」

「それだけじゃないですよ!潰れかけで帰ってくるわ、謎の男が襲ってくるわで…あれ、そう言えばなんで潰れかけてたんですか?」

「あ、確かにー!なんでなんで?」

「だからそれはー」


潰れかけで帰った釈明をしつつ成都を後にした俺達。
この成都での出来事が後々大きな問題になる事を俺達は知らない。
三人は次の目指す街洛陽へと向かっていく。
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