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2章 幼少期編 II
51.ピンク情報
しおりを挟むアルベール兄さま、ベール兄さま、シブメン、ルエ団長、ミネバ副会長、壁際にヌディと王子たちの従者が立ち、そこに新たに騎士と宮廷画家が加わった。
応接室がギュッと詰まった感じになったけど誰も気にせず、あいさつの後はアルベール兄さまの合図で全員がソファーに座る。侍女と侍従はソファーの脇に待機だ。3人掛けのソファーが2台しかないので、私はアルベール兄さまの膝に待機だ。むふん♡
「言葉使いの印象を加えたものと、雰囲気を変えて3枚描いてみました……確認してください」
宮廷画家は、いちばん間近で見て特徴を伝えたルエ団長に、紙を広げて渡す。
「おぉ、色を着けてくれたのか。うん、わかりやすいな……これと、こっちと……う~ん、これだな。これが一番似ている。王女、これがピンクだ」
ルエ団長が厳選したピンクの姿絵が、ズイッとこちらに向けられた。
同じソファーに座っているベール兄さまとシブメンも覗き込む。
脇に立っているヌディと侍従たちも、ピンクの姿絵に興味津々の様子。
「…………」
姿絵の次は、私が注目されている。
コメントを期待されているのだ……が、なんて言おう。困ったな。
──…だって、これ、ヒロインじゃないもの。
夜会にでも行くような豪華なドレス。しかも真っ赤。大きな宝石が付いたイヤリングに、揃いのネックレス。化粧が濃すぎて年齢不詳……これは走り書きで「20~30歳」となっている。
アルベール兄さまより年上? まぁ化粧を落とせば10代に見えるようになるかもしれないけど。
なにより、ピンク頭ではあるけれど、ヘアスタイルが「縦ロール」……これじゃ悪役令嬢のが近いよね。
──…この出で立ちで平民街を一人でうろつくとは、勇気あるな。ピンクもどき。
「……違うな」
アルベール兄さまが、私の代わりに皆の期待に応えてくれた。
「媒体の同調で感じたピンクの衣装は質素だ……質素だが異様に奇抜なのが特徴だ。髪の色は別にしても男の様に短くしているし、スカートも下履きが見えそうな程に短い。それに10代の少女だったように思う」
──…そうそう、白いブラウスに、青いミニスカート、and 定番のゆるふわピンクボブ。
「そーだなぁ。俺も媒体で受けた印象は足丸出しだった」
ベール兄さまも彼女がピンクである説を否定した。
「じゃぁ、なんだ? 毒婦聖女じゃないなら、なんで頭がピンクなんだ? 俺がハマった罠は何だったんだ? ハマり損か?」
ルエ団長は納得できずに変顔をした。それでもハンサムだ。
「落としたハンカチを拾わされたのですから、間違いなくルエ団長は狙われていましたよ。魔素石の意味は解りませんが………はっ! まずいです、ルエ団長。その派手ピンクが『お詫び』だか『お礼』だかで訪ねて来るかもしれません。手土産が手作りクッキーだったら最悪ですよ」
「厨房に立ち入るような女には見えなかったが……いや、前にもいたな。料理人に作らせて『あなたのために手作りしましたの』と差し入れをしてくる令嬢たちが……しまいには団体でやってくるようになって、あれのせいでわざわざ騎士棟に検問所を作るはめになったんだ」
おかげで平和になったけどな……と思い出にひたるルエ団長は放っておいて、私はWeb小説の王道を思い出す。
「ピンクが持ってくるクッキーには、絶対に良くないものが入っています。惚れ薬は…(シブメンをチラリと見て、首を横に振られる)…存在しないようなので、他の定番はムラムラしてくる薬…(チラッ)…「興奮剤はありますが性的興奮は得られません。以前にも聞かれましたが覚えていないようですな」…(スルー)それもないようなので…「シュシューア、そこまでだ」…え~…「子供が口にすることではない」…でも~…「常習性の薬物を混入して対象を意のままに操る術は以前からある。ピンクからの差し入れには注意喚起を出しておくから、話題を他に移しなさい」…はぁい。では、え~と……あ、はい、どうぞ」
アルベール兄さまに窘められたところで、宮廷画家と一緒に入って来た騎士が手を上げたので、手のひらを向けて場を譲った。
「ピンクの追跡報告が入っています」
おぉ、仕事がはやい。
「海沿いの高級宿泊邸に長期滞在していることがわかりました。しかし、部屋の借主はガイナ帝国のデリ宝石商会で、ピンク個人ではありません」
シーサイド高級ホテル……ますますヒロインっぽくない。
「ピンクと商会の関係性は、商業ギルドに調査兵を向かわせていますので、しばらくすれば一方が入るはずです。ただ、ひとつはっきりしているのは、あのピンクの髪はカツラだと、宿泊邸の従業員からの証言を得ています」
──…う~ん。
みんな考え込んでしまった。
どうなんだろう。
ピンクのカツラを被っていただけでも危険人物認定なのだけども、ね~?
「……失礼します」
小さなノックの後、廊下に立って警護していたルエ団長の部下が顔を覗かせる。
「ピンクの追加報告だそうです。通してもいいですか?」
アルベール兄さまが頷くと、扉が大きく開かれる。
入ってきた男は平服を着ているから、たぶん調査兵と呼ばれている私が理解するところの警察の捜査官だ。
彼は何とも微妙な顔つきで、言いにくそうに頭を掻きながら
「……え~、宿泊邸のピンクの他にも、ピンクが現れたそうです」
……と、簡潔な報告をした。
応接室の空気の流れが止まった。
一拍おいて……「「「は?」」」
──…え? なに? もうひとり出たの?
「西側界隈の住民から通報がありまして、今も続々と目撃情報が入ってきております。ここ数日毎日のように、岬周辺で異様な格好をしている変なのがいるから取り締まってほしいと……どうしますか?」
変なファッションセンスをしているから……という理由だけでは建前上連行などできない。
「アルベール兄さま、見に行きましょう!」
なんか面白そうです。ワクワクしてきましたよ。
「……そうだな」
アルベール兄さまも興味がある様子。
「近く研究院に連れていく予定だった。帰り際に岬方面を回って、ついでに遠目から確認するぐらいはいいだろう」
おぉーっ、研究院! そこも行ってみたかった!
「俺も! 俺も行くぞ!」
ベール兄さまも目を輝かせて立候補する。
「お弁当を持っていきましょうね。おやつは何にしましょうか。わぁ~、楽しみ~♪」
気分はもう遠足だ。
研究院見学とピンク観察はどこかに飛んで行ってしまった。
…………………………
媚薬を話題にしたネタはどこかでやっているような気もするのですが、探しても見つかりませんでした。
もし見つけた方がいらしたら、感想欄で教えていただけると助かります。
m(__)m
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