上 下
170 / 184
2章 幼少期編 II

51.ピンク情報

しおりを挟む
 
アルベール兄さま、ベール兄さま、シブメン、ルエ団長、ミネバ副会長、壁際にヌディと王子たちの従者が立ち、そこに新たに騎士と宮廷画家が加わった。

応接室がギュッと詰まった感じになったけど誰も気にせず、あいさつの後はアルベール兄さまの合図で全員がソファーに座る。侍女と侍従はソファーの脇に待機だ。3人掛けのソファーが2台しかないので、私はアルベール兄さまの膝に待機だ。むふん♡

「言葉使いの印象を加えたものと、雰囲気を変えて3枚描いてみました……確認してください」

宮廷画家は、いちばん間近で見て特徴を伝えたルエ団長に、紙を広げて渡す。

「おぉ、色を着けてくれたのか。うん、わかりやすいな……これと、こっちと……う~ん、これだな。これが一番似ている。王女、これがピンクだ」

ルエ団長が厳選したピンクの姿絵が、ズイッとこちらに向けられた。

同じソファーに座っているベール兄さまとシブメンも覗き込む。
脇に立っているヌディと侍従たちも、ピンクの姿絵に興味津々の様子。


「…………」


姿絵の次は、私が注目されている。

コメントを期待されているのだ……が、なんて言おう。困ったな。


──…だって、これ、ヒロインじゃないもの。


夜会にでも行くような豪華なドレス。しかも真っ赤。大きな宝石が付いたイヤリングに、揃いのネックレス。化粧が濃すぎて年齢不詳……これは走り書きで「20~30歳」となっている。

アルベール兄さまより年上? まぁ化粧を落とせば10代に見えるようになるかもしれないけど。

なにより、ピンク頭ではあるけれど、ヘアスタイルが「縦ロール」……これじゃ悪役令嬢のが近いよね。


──…この出で立ちで平民街を一人でうろつくとは、勇気あるな。ピンクもどき。



「……違うな」



アルベール兄さまが、私の代わりに皆の期待に応えてくれた。

「媒体の同調で感じたピンクの衣装は質素だ……質素だが異様に奇抜なのが特徴だ。髪の色は別にしても男の様に短くしているし、スカートも下履きパンツが見えそうな程に短い。それに10代の少女だったように思う」

──…そうそう、白いブラウスに、青いミニスカート、and 定番のゆるふわピンクボブ。

「そーだなぁ。俺も媒体で受けた印象は足丸出しだった」

ベール兄さまも彼女がピンクである説を否定した。

「じゃぁ、なんだ? 毒婦聖女じゃないなら、なんで頭がピンクなんだ? 俺がハマった罠は何だったんだ? ハマり損か?」

ルエ団長は納得できずに変顔をした。それでもハンサムだ。

「落としたハンカチを拾わされたのですから、間違いなくルエ団長は狙われていましたよ。魔素石の意味は解りませんが………はっ! まずいです、ルエ団長。その派手ピンクが『お詫び』だか『お礼』だかで訪ねて来るかもしれません。手土産が手作りクッキーだったら最悪ですよ」

「厨房に立ち入るような女には見えなかったが……いや、前にもいたな。料理人に作らせて『あなたのために手作りしましたの』と差し入れをしてくる令嬢たち・・が……しまいには団体でやってくるようになって、あれのせいでわざわざ騎士棟に検問所を作るはめになったんだ」

おかげで平和になったけどな……と思い出にひたるルエ団長は放っておいて、私はWeb小説の王道を思い出す。

「ピンクが持ってくるクッキーには、絶対に良くないものが入っています。惚れ薬は…(シブメンをチラリと見て、首を横に振られる)…存在しないようなので、他の定番はムラムラしてくる薬…(チラッ)…「興奮剤はありますが性的興奮は得られません。以前にも聞かれましたが覚えていないようですな」…(スルー)それもないようなので…「シュシューア、そこまでだ」…え~…「子供が口にすることではない」…でも~…「常習性の薬物を混入して対象を意のままに操る術は以前からある。ピンクからの差し入れには注意喚起を出しておくから、話題を他に移しなさい」…はぁい。では、え~と……あ、はい、どうぞ」

アルベール兄さまに窘められたところで、宮廷画家と一緒に入って来た騎士が手を上げたので、手のひらを向けて場を譲った。

「ピンクの追跡報告が入っています」

おぉ、仕事がはやい。

「海沿いの高級宿泊邸に長期滞在していることがわかりました。しかし、部屋の借主はガイナ帝国のデリ宝石商会で、ピンク個人ではありません」

シーサイド高級ホテル……ますますヒロインっぽくない。

「ピンクと商会の関係性は、商業ギルドに調査兵を向かわせていますので、しばらくすれば一方が入るはずです。ただ、ひとつはっきりしているのは、あのピンクの髪はカツラだと、宿泊邸の従業員からの証言を得ています」


──…う~ん。


みんな考え込んでしまった。

どうなんだろう。

ピンクのカツラを被っていただけでも危険人物認定なのだけども、ね~?




「……失礼します」

小さなノックの後、廊下に立って警護していたルエ団長の部下が顔を覗かせる。

「ピンクの追加報告だそうです。通してもいいですか?」

アルベール兄さまが頷くと、扉が大きく開かれる。

入ってきた男は平服を着ているから、たぶん調査兵と呼ばれている私が理解するところの警察の捜査官だ。

彼は何とも微妙な顔つきで、言いにくそうに頭を掻きながら

「……え~、宿泊邸のピンクの他にも、ピンクが現れたそうです」

……と、簡潔な報告をした。


応接室の空気の流れが止まった。


一拍おいて……「「「は?」」」


──…え? なに? もうひとり出たの?


「西側界隈の住民から通報がありまして、今も続々と目撃情報が入ってきております。ここ数日毎日のように、岬周辺で異様な格好をしている変なのがいるから取り締まってほしいと……どうしますか?」


変なファッションセンスをしているから……という理由だけでは建前上連行などできない。


「アルベール兄さま、見に行きましょう!」

なんか面白そうです。ワクワクしてきましたよ。

「……そうだな」

アルベール兄さまも興味がある様子。

「近く研究院に連れていく予定だった。帰り際に岬方面を回って、ついでに遠目から確認するぐらいはいいだろう」

おぉーっ、研究院! そこも行ってみたかった!

「俺も! 俺も行くぞ!」

ベール兄さまも目を輝かせて立候補する。

「お弁当を持っていきましょうね。おやつは何にしましょうか。わぁ~、楽しみ~♪」

気分はもう遠足だ。

研究院見学とピンク観察はどこかに飛んで行ってしまった。





…………………………
媚薬を話題にしたネタはどこかでやっているような気もするのですが、探しても見つかりませんでした。
もし見つけた方がいらしたら、感想欄で教えていただけると助かります。
m(__)m
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...