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2章 幼少期編 II

46.お花畑でつかまえて

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もぐもぐもぐ………

美味しいは正義ね……お菓子の正義……お菓子の王国……魔法でお菓子を作る夢の国……スイーツマジック大会……クッキングバトル~…………じゅるっ……? お花の香りが~♪ ジャスミン茶が飲みたいな~♪ どんな花だったっけ~♪ ん~、お花畑の向こうから呼ばれているような~

ほわん、ほわん……




ほわん……




「缶詰に使われている石ガモが使えそうですな。正確にはガモではありませんが」

シブメンが帰港した。
私も帰って来た。

「なんですか? 石からガモが出来るのですか?」

「屑水晶を加工すると耐熱性の特殊樹脂がメインテルでバッフィス、ビュフォアード、フォル…×××× × ××××××………」

─…あ、難しそうな話になってきたスルーしようっと。


(それっ!)

─…ん?

(よく聞いとけ!)

─…え?


なんだろう。頭の中で……あれ? 花の香りが濃くなった……これ、媒体のお花畑の……

「王女殿下、媒体からメデュラが漏れ出てきています」

シブメンが嫌そうな顔で手をパタパタ振っている。

メデュラという言葉は知らないけど何となくわかるよ。
媒体の窓が開いたような、というより開けられたような…「それ!それ!」とまだ言っている媒体の先の情報をくれる存在……たぶん日本人…がねじ込んできているような、そんな感じよね。

「ゼルドラ魔導士長、わたくしの媒体の情報源は石ガモが気になるようですよ。しり…? しりこ?……しりこん?」

しりこん…ねぇ……耳慣れた言葉のような気もするけど……





──…はっ!





「シリコンですと?! 石ゴムって耐熱性のシリコンゴムのことなの?! この世界にシリコンがあったの?! これは凄いですよ! シリコンがあればクッキングシートが作れるではないですか! ルコート・チギラ! ゴムベラがフライパンで使えるようになりますよ! チョコレートの可愛い型がたくさん作れますよ!(途中から日本語です)」

(そっちにいくな!)

そっちとはどっちですか? うるさい媒体ですね。私はチギラ料理人にシリコンを伝えたいのです。あ~、チギラ料理人が「呼ばれたのは気のせいか」って素振りで向こうむいちゃったではないですか! むうぅぅっ!

「王女殿下、媒体を閉じなさい」

そうですね! うるさいから私も閉じたいです! イライライラ……

「魔力の放出と同じです。蓋を使いなさい──×××××× ×× ×××」

シブメンの指先が私の額に触れた。

「……っ!」

バチン…と、鎮静の綴言が弾かれた……ような?

「………」

シブメンは自分の指先を見て……そして、次に私を見る。

私は首を振って無言の問いに答えた。
シブメンに分からないことが私に分かるわけがないのです。

(そっちの媒体がいい!)

─…は?

(こっちは使い物にならん!)

─…むっ。乗り換えたいという意味ですか? 失礼な媒体ですね。

「ゼルドラ魔導士長、わたくしの媒体に……」

─…目を付けられましたよ、と言い切る前に、勘が働いたらしきシブメンが私の前に手の平をかざした。

「× ×××××× × ×× ×!!」

やや焦り気味の呪文と同時に、シブメンの手の平でバンッと光がスパークした。
放電のような青白い光が一瞬で四方に飛び散る。
その光に煽られたかのように空気が膨張した気がした……気のせいじゃなかった。シブメンを中心にいきなり風が渦巻き始めた。
部屋中に楽譜が舞った。せっかく整えた私の髪も舞った。


(……なにこの萌える展開!)


まだ終わりではない。

光が飛び散った先に小さな魔法陣が無数に生まれていた。
それを視線で追いかけたシブメンの口から短いワードが放たれる。聞き取れない。

魔法陣は魔力が込められたワードに反応して活性化し、回転し、紫色に染まったかと思ったら瞬時にシブメンの元に集まってきた。

「ドゥルーガ!」

締めのワードなのか、発動のワードなのか。輝きを強めた魔法陣は合体し、高速で回転を始め、やがて役目を果たしたかのように潔く収縮し、消えた。




もう一度言う─…(なにこの萌える展開!)




媒体から延びてきた何かをブロックしたよね! バリアーも張ったよね!
魔法でバトルした?! しちゃったの?! シブメン?! きゃーーーっ♡

ひとりドキワクしている私をよそに、静まり返った部屋では、周囲の人たちが何事かと息をのんでこちらを見つめていた。
ヌディも相当驚いたようで、震えながら私を抱きしめている。


─…あれ? これは楽しい出来事ではないの? 私、間違ってる?


「王女殿下、媒体の様子はどうですかな?」

「え?……あ~、はい、引っ込みました。もう何も主張していません」

「メデュラはまだ出ていますが?」

─…蓋ですね。はい、ぽん!

頭の上で手を叩いて媒体の扉を閉めてみた。一発で成功した。

「よろしい」

シブメンは満足げに頷いて、「問題は解決した。休憩に戻りなさい」と周囲に手を振って視線を散らせた。

「え? もう終わりですか? ゼルドラまど…ぅ……う、う~?」

何を期待しているのかとシブメンに睨まれてしまった。
ヌディも私の耳元で軽く咳ばらいをする。

だって~、気になるではないですか~。イリュージョンショーですよ~?





………続く
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