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2章 幼少期編 II

42.授業中2

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───まだ授業中です。



「ティストームに魔導士が集結しています」

国防において、最も国費を投じる先は空中街道である。
子細を挙げるなら、巨石の形成役である魔導士の人件費である、とワーナー先生は言った。

通常人の力だけでも空中街道の建設は可能なのだが、魔導士の行う石連結は、「スピード」も「形の正確さ」も段違いなのだそうだ。

のんびりしていたら侵略されちゃいますもの。
そうならないためには、魔導士を掻き集められるだけ集めて、兎にも角にも道を一本通す!
ティストームの国土はビロ~ンと長いですからね。急げ、急げ~。

そういうことで、ティストーム王国から西大陸中の魔導ギルドに、過去に例を見ないほどの高額依頼が出されたのだった。

ギルドに国境はないことから、多くの魔導士が一攫千金を狙ってやってくる───このドキワクな題材でドラマがゴロゴロ生まれてくることでしょう。私のイメージはゴールドラッシュかな。前世だったら映画化されること間違いなしの歴史的出来事になるはずです。


この魔導士招集に対して、件の三国同盟は『魔導士まで独占』と騒ぎ立てた……のは想定内。
諸外国からも苦言の書状ぐらいは送られてきたのも想定内。

それに対してティストームが行ったことは3つ──

①【空中街道 建設現場説明会】の招待状を送付。
②【空中街道 建設現場説明会】の招待客に援助を呼びかける。
③援助の返礼として、には技術と運営方法の提供と援助金分の建設協力か、もしくは返金を確約する。

──『戦後』を強調することで、三国に対する牽制とした。


資金援助の形で協力してくれた国は、濃い縁戚関係にあるお隣のマラーナ海洋王国。
そしてガイナ帝国に隣接する数ヶ国……こちらは『明日は我が身』…でしょうかね。

結果として〈援助=同盟国〉となった。

一応同盟国であるトルドン王国は沈黙を守っている。
お母さまは『そろそろでしょうか』なんて言って美しく微笑んでいた。
『何がそろそろなのですか?』……聞いてみたけれど、頭を撫でられただけでお返事は頂けなかった。

「………」

───…あ、ちょっと待って。
もしかして、デリネ・ノッツ伯爵夫人がまたやらかしてる? お母さまに見放されちゃった? 私がお嫁に行く前に同盟国じゃなくなっちゃう予感がしてきたよ。

トルドンからだったら空中街道でビューンと里帰りが簡単なのに。リボンくんの領地が近いから遊びに行くのも簡単なのに。オマー領の谷を通って、簡単にマラーナのルベール兄さまに会いに行けるのに。

嫁入り先としては最高の立地なのに~。困るよトルド~ン。


──…わかってる。こういう所がいけないのだ。


せっかくワーナー先生が、優しくわかりやすく教えてくれているのにね。
聞いた傍からポロポロこぼれてしまうのは、この集中力のなさが原因……だけじゃないけど、単純に物覚えが悪いというのもあえるけど、ええ、だけどね、5歳児にしてはまぁまぁなのではないかしら?…なんて思っちゃうわけですよ。

私に対する周囲の期待が高すぎるのではないの?(大丈夫、期待されていません)

前世の5歳とこちらの5歳は、きっと脳の成長過程が違うのよ……いや、異世界と比較しても意味ないか。

じゃぁ、私の周りにいる人たちが……兄さまたちが特別に賢いだけではないだろうかと、そう考察するも、子供の知り合いがいないのでデータが足りず、立証できない苦しい立場のお姫さまは、いかんともしがたく……

一度シブメンにブチブチこぼしたら、どうやらこちらの一般5歳児のほうが賢いような事を言われちゃいましたよ。

むっ。一応、私、こちらの人間なのですが?


──…はい、授業は続いております。


ワーナー先生の口からは、まだ空中街道の資金関係の深堀りが、専門用語でなされている。

ふむふむ、ほほう、うちの宮廷魔導士たちも、休日になるとお小遣い稼ぎに行っているとな。

「ワーナー先生も?」

「私は連結が苦手でして……」

おーっ、私と同じだ!

例の100回をやっても見込みがなさそうだったので、シブメンにそう判定されたのは先週のことだ。
でもね「連結」とは反対の「分離」を教えてもらったら簡単に出来ちゃったのです。石がパコッと割れたのですよ。小指の先ほどの小石だったけど。

ふっ…『破壊の魔導姫』とか二つ名がついちゃったりして(小石が割れただけです)
格好いいコスチュームとか作ってもらおうかな。サテンシルクで。うはーっ。

レイラお姉さまのウェディングドレスもサテンシルクで作れたらいいのに……間に合わないかなぁ。素敵だろうになぁ。

真珠色の艶やかな髪と、シルクの流れるような煌めきがドッキングしちゃうのよ。
あの凛とした絶対的な美少女の隣には、美王子のオプションまで付いているのよ。

どうしよう、眩しすぎて目が潰れちゃうかも。

(きゃーっ!)

ドキドキしてきた!


──…はいはい、授業中であります。


しかし解せぬ。

ワーナー先生に質問したのは『空中街道でリボンくんの領地に遊びに行けるのは、いつ頃になりますか?』…だったはずなんだけどな。



☆…☆…☆…☆…☆



後に──…正確には次年の夏の社交期。

若い令息令嬢の間で、サテンシルクの必然的な流行が起こった。
空中街道建設支援の一環として、むちゃくちゃ割増しされている金額にも関わらず、バカ売れした。

空中街道への実質的な投資を親世代に任せた令息令嬢たちは、あえて高額なサテンシルクを購入することで貴族の義務と精神ノブレス・オブリージュを示し、胸を張って身を飾るようになるのだ。

女性はリボン型の髪飾りやブローチ……宝石付き。
男性は(どう流行らせたのか)シルクネクタイ……輝くネクタイピンとセット。

仲間内で小さな事業を起こしたり、催しを開催したりと、親に強請らず自身の裁量で購入するのが粋とされていた。

第一王子の国婚儀の経済効果と相乗して、ティストームの流通は大いに湧き、お父さまとアルベール兄さまの笑いは止まらなかった。


シルク飾りを身に着ける令息子息の姿を見て、これはどこかで……と思ったら、色のついた羽根募金と似た雰囲気だと気が付いた。


……まぁ、来年のことなのですけどね。





どうでもいいエピソード…………
ワーナー先生は植物との相性が抜群によかったとかで、魔導ギルドを経て、国の魔導部薬草課にヘッドハンティングされたそうです。
ヌディと駆け落ち後に生き延びてこられたのは、まさに植物成長魔法のお陰だったのは言うまでもありませんね。
………………………………………
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