転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ

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2章 幼少期編 II

44.ファンシー・ルーム

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私とヌディは練習室を出て『シュシューア王女専用控室』に向かっている。

練習室の近くに小さなお部屋をもらったのだ。
元々はあまり利用されていなかった古い楽譜を保管する部屋だったのだけど、それを他に移す代わりにニュー楽譜室を姫経費から寄贈しておいた。楽師たちの希望を取り入れた設備になっているので、大変喜ばれている。
良い気分で音楽活動をしていただくためですもの。気分いいついでに、私好みの音楽もお願いしますね。

「控室の改装はもう終わったのですか?」

私の夢が詰まったファンシー・ルームの。

「はい。家具の配置も終わりました。今日はマジーエも控えておりますよ」

マジーエとは、私の新しい専属侍女の名前だ。

ぱっちりとした青い瞳がチャーミングな17歳。ちょっと太めかな。
髪結いが得意だというので、編み込みと三つ編みのコンボをお願いしようかなと話していたら、翌日に「こんな感じでいかがでしょう?」と、自分の髪で見本を作って出勤してきた。素晴らしい出来だった。

「自分で自分の髪を編み込んだのですか? 後ろも?」…と聞いたら、旦那様にやってもらったとかいきなり惚気だした。

実は、そうは見えないけど彼女は既婚者なのだ。

文官の婚約者が法衣の男爵位を得たのを機に、春先に結婚したばかりの新妻…のような色っぽさはないけど一応奥さまである。
結婚と同時に王宮の侍女になったそうで、私の専属になったのはヌディと同じくお父さまの口利きがあったとか。

有能な彼女の夫を近くに留め置きたいという思惑(夫婦で城人になれば王政区の家族寮に住める)と、いいかげん私の専属侍女を増やしていかないと……が、合致したというか、アルベール兄さまと二人で頭を悩ませていたところにカモがきたというか……チ~ン。自分で言うのもなんだが、ご愁傷さまでございます。


「お疲れ様でございました!」

部屋の扉は既に開かれていて、入口の脇にマジーエが笑顔でスタンバイしていた。
まだ慣れなくてソワソワしているけれど、ヌディに倣って物腰を柔らかにしようと頑張っているようだ。

ヌディはそれに静かに微笑んで答えている。

彼女たちのこのやり取りが正しいのかどうかは、私にはわからない。
ふたりとも貴族の令嬢だし、それなりの心得はあるのだろうとは思う。でも実のところ、彼女たちは王族に仕える侍女のスキルを持っていないらしい……らしいじゃなくて、二人とも働いたこと自体がないから100%ノンキャリだ。

たぶん私の事情でそうなってるね。
愛娘発見具の利用頻度はなっているのに、ベテラン侍女には未だに専属をご遠慮されてしまっているのですよ。トホホ……

でも、ヌディはホワンで、マジーエはキュピッで、時折様子を見に来てくれる侍女長と遊ぶこともできるしで、これで良いのではない? 毎日楽しいよ。足りないものはないと思うのだけど。そう感じているのは私だけ?


──…で、シュシューア王女専用控室…である。

あれこれ言った我儘が全部通った小部屋は、乙女心を刺激しまくる楽園になっていた。

「きゃぁ~ん!」

毛足がモコモコの水玉模様の絨毯。チューリップをモチーフにしたシャンデリア。ストライプ模様のカーテン。猫足で揃えた白い家具たち。シプード兄弟のクッション、イティゴ姫のぬいぐるみ、カラスくんは……いた! 間接照明の柄に止まってる! あっちにも、こっちにも、羽でポーズが全部違うの! 子供っぽい演出がたまりません!

「王女殿下、失礼いたします」

ヌディが耳元でささやく。
キュンキュンしているところを軽やかにスルーされ、抱き上げられてドレッサーの椅子に運搬されてしまった。


「……あらら」


否が応でも現実に引き戻される。
鏡に映る私は酷いことになっていた。
突風に吹かれたように髪がぐちゃぐちゃで、ずり落ちたリボンが辛うじて髪に引っかかっている状態だった。

(ちょっと激しく踊りすぎたか)

アルベール兄さまがいなくてよかった。
音楽堂には滅多に顔を見せないけれど、たまにおやつを食べに来るから気が抜けないのだ。
また踊り禁止令を出されたらたまりません。


「他のリボンを使って、髪型も変えてしまいましょう」

ヘアブラシを構えるマジーエが私の後ろに立った。

汗をかいてヘタッているので、ふわふわヘアは諦めて全部後ろに流すみたいだ。
オデコ全開のオールバックにされた……おう、似合うではないの。美幼女ぶりがグッと上がりましたよ。

襟足をくぐらせて頭の上で結ぶの? アリスバンドね。

「これをこうして、こっちにもってきて……」

頭上からマジーエの漏れた心の声が聞こえる。
リボン結びに苦戦しているようだ。

結ぶのは簡単でも、きちんと形にするのは難しいものね。

「きれいに出来ました! いかがですか?」

──…あ、ごめん。カラスくんが気になって余所見してた。

「良いと思いますよ」

応えたのはヌディだ。
気もそぞろでいたお姫さまのフォローをしてくれた。

「わたくしも気に入りました。とても素敵な結び方ですね」

ちゃんと見てましたよ…というふりをしてニッコリ笑っておいた。





………続く
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