182 / 186
2章 幼少期編 II
63.研究院 12
しおりを挟むボソボソボソボソ……
フィカス・ベンジャミンのお話し合いは続いている。
あのボソボソが止まったら、素晴らしい『ブゥルペン』と『シャウペン』の道が開かれるに違いない。
邪魔しないでおこ~っと。
「あの、王女殿下」
アルベール兄さまの膝に戻ろうとしたら、書記の人に呼び止められた。何ですか?
「私の名は……」
あ~、そういえばこの人の名前、知らなかったな。
「待て」
書記の人の名乗りを、なぜかアルベール兄さまが遮る。
「お前は『書記の人』だ。書記官にはぴったりの二つ名だ。今日からそう名乗るがよい。なぁ、マーザスト!」
アルベール兄さまは高笑いしながら、わざわざ書記の人の元まで来て肩を叩いた。
──…なにが面白いのかわからない。ほっとこう。
「書記の人、名前を教えてくださいな」
「はい、アールベール・ナナン……と申します」
「へ?」
「アールベールと申します」
「アー……アルベル?」
「アール、ベール、でございます」
「……アールベール」
あぁ、はは~ん。
アルベール兄さまったら、名前が似ているのが嫌なのですね? ちらり。
「ふん、紛らわしいのだ。何度アールベール宛の恋文が私の机に誤配されたことか」
──…恋文?
「いいか、この男はこんな味気ない顔をしていながら、女性から異様に熱い視線を送られているのだ」
──…ふむふむ。
「出自も悪くない、頭もいい、出世も早かった。性格も落ち着いているから、まぁ、女性の気持ちもわからんでもないから、それは良しとしよう」
──…つまり、モテ男ということか。
「だが、こ奴が口説かれていてるところに遭遇するのは頂けない。扉の陰から、柱の陰から、木の陰から、熱を帯びた女性の『アールベール』とささやく声が………自分と似た名前が、興味のない女性の口から熱くもれるのは、大変気持ちが悪い!」
「……そんな理由なのか?」
ベール兄さまに呆れられていますよ。
「シュシューアに『ベーちゃん』と呼ばれたらどう思う」
「……嫌だ」
ベール兄さまが私の顔を見て『呼ぶなよ』と唇を尖らせた……ちょっと呼んでみたくなった。
「その100倍は不愉快だと理解しろ」
ベール兄さまは少し考えて理解したのか、兄に同情の眼差しを向けた。
きっと、そのささやいた女の人たちはアルベール兄さまの嫌いなタイプだったのでしょう。ち~ん、お気の毒さま、南~無~。
「………」
書記の人は反論しないね。
表情は読めないけど、苦笑いしているような気がする。
──…ってことは、本当にモテるんだ。
面白そう。口説かれているところに遭遇したい。尾行してみようか。
「シュシューア、やめておきなさい」
心を読まれちゃったよ……仕方ない、やめておくか。どうせヌディを撒けないし。
──…しかし、う~む、この人が、女の人に口説かれる。
じ~っと、書記の人の顔を見るのをやめられない。
──…口説かれても、誰にも応えてないのよね。
じ~っ。
──…だから独身なのよね。
女嫌いではなさそう。理想が高いとかでもなさそう。
う~ん……
『恋はするけど、結婚はしない』
──…独身主義! これだ!
「わたくしには、専属侍女が二人だけしかいません。わたくしの専属侍女たちは結婚しています。旦那さんとラブラブです。だから、離宮にいれば、むやみに口説かれることはありません。避難先にどうですか?」
ぴくっ……としたような気がする。
──…脈ありだ!
「今後も新しい専属侍女は結婚している人しか選びません。書記の人に恋をしたら専属から外すと約束します」
考えるそぶり! いける?!
──…押せっ! 押しまくるのだ、シュシューア!
「離宮に遊びに来てくれないと『アールベール』とささやいて、わたくしが口説きます。追いかけまわします。楽士たちに〈書記の人の歌〉を作ってもらって執務棟の前で毎朝歌います」
──…脅してでもモノにしますよ、漫画家!
書記の人の表情が固まった。
それを見たアルベール兄さまがニヤッと笑う。
──…おぉ? もしかして応援にまわってくれるの?
「そうだな。シュシューアもそろそろ、執務官を持ってもいい頃だ」
──…え?
もらえるの? 借りるのではなく?
「今まで私が代行してきたシュシューア関係の書類は……」
アルベール兄さまの視線を受けた書記の人の顔が……う~ん、読めない。読めないがあきらめない。私は君が欲しいのだ!
「アルベール兄さまのところより、1.5倍のお給金を出しますよ。アルベール兄さま、いくらになりますか?…「月に50万ドリーほどだ」…異世界の最新文房具が使い放題ですよ!(企画はこれからだけど) 異世界の最新事務事情もお教えしましょう!(役に立つかわからないけど)」
びくっ、びくっ。
「アルベール兄さま、離宮の半分を〈シュシューア王女の執務区〉として貸してください! 書記の人! あなたが使いやすい執務室に改装しますよ!(修羅場用の)仮眠が取れる休憩室も作りましょう! はっ! いっそのこと住み部屋をつくるのはどうだろう……うん、離宮の敷地を拡張して寮を建てましょう。シュシューア王女の専属専用です! 独身者も利用できるやつです! そうすれば女の人が夜に忍び込んでくることはできません! 安心安全の睡眠をお約束します!」
ぴくっ、びくっ、びくっ、
──…外堀を埋める作戦です。執務の傍ら漫画を描かせる所存であります!
あとは、あとは……
「部下は何人欲しいですか?(きりっ)」
「……3人は欲しいですね」
「はいっ! 決まりっ!! やったっ!!!」
漫画家ゲットーーー!(感涙)
「そうなると専属に侍従も必要になるな……どこかにシュシューアの面倒をみられそうな奴は……」
……そういうのは全部アルベール兄さまにおまかせします。
今はこの喜びをMy漫画家に伝えたい!
「よろしくね、マーザスト。それでね、ペンネームもこれで…「これ、面白い!」…へ?「すぐ、作ろう!」…え?」
ちょっと! いいところなのに! フィカス・ベンジャミン!
あ~、アルベール兄さまが乗っかった~。
ベール兄さまも興味を持った~。
私とあっちを交互に見たマーザストも「こちらこそよろしくお願いします」とペロッと言って行っちゃった~。
ぽつん……
部屋の中を見て回る……
侍女に御用室に連れて行ってもらう……
ぶらぶらぶ~ら……椅子に座って足を揺らす。
「ねぇ~、もうピンクを見に行きましょうよ~」
186
お気に入りに追加
1,828
あなたにおすすめの小説
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる