180 / 186
2章 幼少期編 II
61.研究院 10
しおりを挟む王侯貴族の防寒上着と言えば、フード付きのマントである。
縁をふわふわの獣毛で飾ったり、刺繍を施したり、式典用などには宝石を縫いつけたりもするそうだ。
私にとってのマントとは、冬の外遊びが楽しくなくなるという邪魔くさい呪いのアイテムである。
何としても『コート』という新しい流行を巻き起こし、マントを過去のものとして封印したい。
「じょ、上手ですね」
会議室に戻るなり、子供椅子代わりのアルベール兄さまの膝に乗っかり、ガリガリ描きましたともさ。
ベレー帽をかぶったAラインコートを着る女の子を。
……頭にお皿を乗せた、三角の服を着ている人にしか見えないけど。
それで唸っていたら、書記の人がササッと描いてくれたのだ。
黒一色の線画だけど雰囲気は伝わってくる。
私はさらに注文を付けてデザイン画を要求した。
「襟と袖周りは白兎毛をふわふわって、襟と同じ白の包みボタンは大きくね。それで中に着るドレスも裾広がりにして、コートの下にこのくらいドレスの裾が見えるようにするの。タイツも白ね。コートの色は…帽子の色は……え~と」
ルベール兄さまには、はっきりした色の方が似合うと言われたけど。
「一番お好きな色は?」
「ミエム!」
──…スミマセン、赤と言ったつもりでした。
「では、コートと帽子、どちらを取るか考えたら?」
「帽子!」
──…実は王侯貴族……は無理でも、子供だったら帽子OKの風潮にして、プードちゃん帽子をゲットするという野望があるのだ(2章15話参照)
これをその取っかかりにしたい。
「……では、帽子と靴を赤にして、コートの色は自由に。まぁ帽子と合わせた赤が無難でしょうね。ドレスは襟色に合わせた白、取り換えがきく腰帯に赤を持ってきましょう。コートを脱いだ時に帽子もお脱ぎになるのなら、髪に赤い髪飾り……リボン結びをすると良いですね」
リボン結び! 好きですよ!……くふふ、私がリボンくんが大好きだって知っていますね?
「……帽子か」
頭の上からアルベール兄さまの苦み走った声が……
わかっています。
布の被り物は平民の間でだけ、そして上流では官人と軍帽だけ。
王侯貴族は男女とも頭を隠すことはしない(マントのフードは別よ)
「ここっ、これは帽子ではありません! ちょっと大き目な髪飾りです! 帽子に見えるのは気のせいなのです!」
ダメ出しが出る前に屁理屈で押し切ってみる。
「帽子、帽子と何度言ったか?」
「『べれぇぼー』は帽子のことだろ? それを入れたら4回だ」
ベール兄さまっ、また私の呟きを!
ちぃ兄を睨んでいると、横からサッと紙がスライドしてきた。
「裁断図、ざっとだけど、描いてみた」
型紙の素案! メンデル院生!
「こんな感じ?」
ベレー帽?! パルバッハ院生!
「一応、金属」
へ? 金属?……そうね、そういう能力者だったね。
そっと手渡されたグレーのそれは、言われてみれば少し重いような気がする。
スチールウールたわしのような手触りだ…──あっ! アルベール兄さまに取られた。
「金属の……綿…か」
アルベール兄さまの顔が真剣になった……そうか、これ使い道あるよね。
「研磨、研磨……西大陸語では何て言うのかわかりませんが、擦って取るというか……錆が取れます。塗装も、木のささくれも削り取ってくれるし、鍋のこびりつきなどは一発ですよ」
ちょっ、アルベール兄さま。そんなに引っ張ったら、あ~、ほらぁ~、裂けた~。
「ふむ」
ふむ、じゃないですよっ。被って鏡を見たかったのに。
「はい、これ」
アルベール兄さまが何をしたいのかわかったメン…パル…どっちかは、木板を持ってきた。
……ごしごし擦って、細かいおがくずが出た。
続けて持ってこられた金属板も擦ってみる……簡単に傷がついた。
「ふっ」
黒王子降臨!!
「パルバッハ、今まとめて作る事はできるか?(頷く)…では、一抱えほど作ってくれ。持って帰ってランドたちに試しに使わせてみる「ランドさん、明日来る」…では渡しておいてくれ(頷く)…シュシューア、この帽子は「帽子ではありません」…はぁ、まず段階を踏みなさい。大きめの布の髪飾りからだ。これはニッポンの服飾だと広めればいけるだろう」
そうか、ちょとずつ小出しに……ファッション名は「ガーリー」でいこうかな。
「シュシュは、そういう服が着たかったのか?」
「はいっ。これならマントの前を開かなくても、雪だるまが作れるのです。帽子は「帽子?」…いいえ、え~と……」
やりづらいな……帽子っぽくて帽子じゃないもの、ヘッドドレスのような……そうだ、ボンネ! 幅広のバレッタみたいなやつ。あれはオシャレで上品よね。いけるね、ボンネ。
「このくらいの幅で、こう耳のちょっと上まで」
作れますか? パルバッハ院生。
「こんな感じ?」
金属ベレーの一部がシュワッとボンネになった。わおーっ!
「書記の人! こんな風に頭にコーム…ピンでとめます。これはコートを脱いでも外しません。色は……色は白しか見たことありません。どうしましょう」
書記の人に装着した姿を見てもらう。
少し頭を捻って書記の人は言う。
「……初めての形の帽子「ボンネです」…ボンネという新しい被り物「髪留めです」…新しい形の髪留めなので、冒険はしないで白のままが良いと思います。コートとは別に考えましょう」
え? Aラインコートがお蔵入りに!
「シュシューア、これから夏が来るのだ。コートは来年考えることにして、今はそのボンネとやらだけにしておきなさい。手持ちのドレスに合わせて作るのはどうだ?」
そう言われてみれば、夏か……ボンネも夏は暑苦しいかなぁ。
「………」
やる気がしぼんだ。
アルベール兄さまに頭をポンポンされた。
しばらく背もたれになってくださいませ、はぁぁ~。
「シュシューア」
「ん~?」
「目を開けなさい」
む~ん……何ですか?
……ふぉっ!
目の前に紙がある!
紙の中に私がいる!
書記の人がまた描いてくれた!
「これっ! わたくしですよね! 可愛い! いえ、絵がね!」
お母さまそっくりな私も可愛いですがね……じゃなくて、このマンガ絵は光ってますよ!
「ね、ね、書記の人は……」
ニッコリ笑っている書記の人と目が合った。
「………」
改めて見ると……目が合ったと確定するのが危ういほど、目が細い。
20代半ば、黒髪、彫はそんなにそんなに深くはない。元日本人の私には親しみのある顔だ。
「確か、このような白いレースのドレスをお持ちでしたよね。それに合わせてボン…ボン…「ボンネです」…ボンネとリボンを組み合わせてみました」
文字だけじゃなくて絵を描くのも早いのね。下絵なしでこれは凄いですよ。
「上手いな」
ベール兄さまも感心している。
「修繕用の共布が残っているはずだ。ドレスを作った衣装士に作らせよう……シュシューア?」
「兄上、往きそうになってるぞ」
「またか? シュシューア?」
う~ん……しばらくお待ちください。
どうでもいい設定……………………
上流婦人の衣装基本はワンピース。子供は膝あたりの長さで、成人するとロングドレスになる。
…………………………………………
ボンネと、Aラインのコートはこんな感じです(書記の人の絵ではありません)
76
お気に入りに追加
1,811
あなたにおすすめの小説
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる