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2章 幼少期編 II

61.研究院 10

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王侯貴族の防寒上着と言えば、フード付きのマントである。

縁をふわふわの獣毛で飾ったり、刺繍を施したり、式典用などには宝石を縫いつけたりもするそうだ。

私にとってのマントとは、冬の外遊びが楽しくなくなるという邪魔くさい呪いのアイテムである。
何としても『コート』という新しい流行を巻き起こし、マントを過去のものとして封印したい。

「じょ、上手ですね」

会議室に戻るなり、子供椅子代わりのアルベール兄さまの膝に乗っかり、ガリガリ描きましたともさ。
ベレー帽をかぶったAラインコートを着る女の子を。
……頭にお皿を乗せた、三角の服を着ている人にしか見えないけど。

それで唸っていたら、書記の人がササッと描いてくれたのだ。

黒一色の線画だけど雰囲気は伝わってくる。

私はさらに注文を付けてデザイン画を要求した。

「襟と袖周りは白兎毛をふわふわって、襟と同じ白の包みボタンは大きくね。それで中に着るドレスも裾広がりにして、コートの下にこのくらいドレスの裾が見えるようにするの。タイツも白ね。コートの色は…帽子の色は……え~と」

ルベール兄さまには、はっきりした色の方が似合うと言われたけど。

「一番お好きな色は?」

「ミエム!」

──…スミマセン、赤と言ったつもりでした。

「では、コートと帽子、どちらを取るか考えたら?」

「帽子!」

──…実は王侯貴族……は無理でも、子供だったら帽子OKの風潮にして、プードちゃん帽子をゲットするという野望があるのだ(2章15話参照)
これをその取っかかりにしたい。

「……では、帽子と靴を赤にして、コートの色は自由に。まぁ帽子と合わせた赤が無難でしょうね。ドレスは襟色に合わせた白、取り換えがきく腰帯に赤を持ってきましょう。コートを脱いだ時に帽子もお脱ぎになるのなら、髪に赤い髪飾り……結びをすると良いですね」

リボン結び! 好きですよ!……くふふ、私がリボンくんが大好きだって知っていますね?

「……帽子か」

頭の上からアルベール兄さまの苦み走った声が……

わかっています。
布の被り物は平民の間でだけ、そして上流では官人と軍帽だけ。
王侯貴族は男女とも頭を隠すことはしない(マントのフードは別よ)

「ここっ、これは帽子ではありません! ちょっと大き目な髪飾りです! 帽子に見えるのは気のせいなのです!」

ダメ出しが出る前に屁理屈で押し切ってみる。

「帽子、帽子と何度言ったか?」

「『べれぇぼー』は帽子のことだろ? それを入れたら4回だ」

ベール兄さまっ、また私の呟きを!

ちぃ兄を睨んでいると、横からサッと紙がスライドしてきた。

「裁断図、ざっとだけど、描いてみた」

型紙の素案! メンデル院生!

「こんな感じ?」

ベレー帽?! パルバッハ院生!

「一応、金属」

へ? 金属?……そうね、そういう能力者だったね。 

そっと手渡されたグレーのそれは、言われてみれば少し重いような気がする。
スチールウールたわしのような手触りだ…──あっ! アルベール兄さまに取られた。



「金属の……綿わた…か」



アルベール兄さまの顔が真剣になった……そうか、これ使い道あるよね。

「研磨、研磨……西大陸語では何て言うのかわかりませんが、擦って取るというか……錆が取れます。塗装も、木のささくれも削り取ってくれるし、鍋のこびりつきなどは一発ですよ」

ちょっ、アルベール兄さま。そんなに引っ張ったら、あ~、ほらぁ~、裂けた~。

「ふむ」

ふむ、じゃないですよっ。被って鏡を見たかったのに。

「はい、これ」

アルベール兄さまが何をしたいのかわかったメン…パル…どっちかは、木板を持ってきた。

……ごしごし擦って、細かいが出た。

続けて持ってこられた金属板も擦ってみる……簡単に傷がついた。


「ふっ」


黒王子降臨!!


「パルバッハ、今まとめて作る事はできるか?(頷く)…では、一抱えほど作ってくれ。持って帰ってランドたちに試しに使わせてみる「ランドさん、明日来る」…では渡しておいてくれ(頷く)…シュシューア、この帽子は「帽子ではありません」…はぁ、まず段階を踏みなさい。大きめの布の髪飾りからだ。これはニッポンの服飾だと広めればいけるだろう」

そうか、ちょとずつ小出しに……ファッション名は「ガーリー」でいこうかな。

「シュシュは、そういう服が着たかったのか?」

「はいっ。これならマントの前を開かなくても、雪だるまが作れるのです。帽子は「帽子?」…いいえ、え~と……」

やりづらいな……帽子っぽくて帽子じゃないもの、ヘッドドレスのような……そうだ、ボンネ! 幅広のバレッタみたいなやつ。あれはオシャレで上品よね。いけるね、ボンネ。

「このくらいの幅で、こう耳のちょっと上まで」

作れますか? パルバッハ院生。

「こんな感じ?」

金属ベレーの一部がシュワッとボンネになった。わおーっ!

「書記の人! こんな風に頭にコーム…ピンでとめます。これはコートを脱いでも外しません。色は……色は白しか見たことありません。どうしましょう」

書記の人に装着した姿を見てもらう。

少し頭を捻って書記の人は言う。

「……初めての形の帽子「ボンネです」…ボンネという新しい被り物「髪留めです」…新しい形の髪留めなので、冒険はしないで白のままが良いと思います。コートとは別に考えましょう」

え? Aラインコートがお蔵入りに!

「シュシューア、これから夏が来るのだ。コートは来年考えることにして、今はそのボンネとやらだけにしておきなさい。手持ちのドレスに合わせて作るのはどうだ?」

そう言われてみれば、夏か……ボンネも夏は暑苦しいかなぁ。

「………」

やる気がしぼんだ。

アルベール兄さまに頭をポンポンされた。
しばらく背もたれになってくださいませ、はぁぁ~。

「シュシューア」

「ん~?」

「目を開けなさい」

む~ん……何ですか?


……ふぉっ!

目の前に紙がある!

紙の中に私がいる!

書記の人がまた描いてくれた!


「これっ! わたくしですよね! 可愛い! いえ、絵がね!」

お母さまそっくりな私も可愛いですがね……じゃなくて、このマンガ絵は光ってますよ!

「ね、ね、書記の人は……」

ニッコリ笑っている書記の人と目が合った。

「………」

改めて見ると……目が合ったと確定するのが危ういほど、目が細い。
20代半ば、黒髪、彫はそんなにそんなに深くはない。元日本人の私には親しみのある顔だ。

「確か、このような白いレースのドレスをお持ちでしたよね。それに合わせてボン…ボン…「ボンネです」…ボンネとリボンを組み合わせてみました」

文字だけじゃなくて絵を描くのも早いのね。下絵なしでこれは凄いですよ。

「上手いな」

ベール兄さまも感心している。

「修繕用の共布が残っているはずだ。ドレスを作った衣装士デザイナーに作らせよう……シュシューア?」

「兄上、往きそうになってるぞ」

「またか? シュシューア?」


う~ん……しばらくお待ちください。







どうでもいい設定……………………
上流婦人の衣装基本はワンピース。子供は膝あたりの長さで、成人するとロングドレスになる。
…………………………………………

ボンネと、Aラインのコートはこんな感じです(書記の人の絵ではありません)
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