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1章 幼少期編 I
24-2.シャーベットの試食会
しおりを挟む今日は離宮でシャーベットの試食会が行われる。
商業ギルドに特許を申請する前段階の試食会だ。
そう……先日、待ちに待った冷凍庫が届いたのだ。
またもやシブメンが自ら抱えてやって来たのには笑った。
取り扱いを聞いていたチギラ料理人の興奮する様子も面白かった。
「えっ!? 氷が作れるんですか!? 水を入れておくだけで!? ただ冷やす冷蔵庫だけでも凄かったのに!? 氷が!?」
……そうだった。
これまでの冷蔵庫は氷を利用して冷やすものだったね。氷は他から運ばれてくるものだという事を忘れていたよ。
ん? だったら魔導冷蔵庫からして、もしかして大発明?
案の定、アルベール商会から『魔導冷蔵庫』『魔導冷凍庫』が販売されるそうだ。
まぁ、商売のことはさておき、シャーベットの試食会が始まりました。
完全予約制(笑)で、私、王子3兄弟、ミネバ副会長、ゼルドラ魔導士長。
チギラ料理人の給仕に、ランド職人長の裏方助手。
今回リボンくんは来られなかったけれど、身内だけの試食会はだいたいこの9人が常連だ。
「万物に感謝を」
イケボのアルベール兄さまの声で、いただきま~す。
今回チギラ料理人が作ったのは3種類のシプード・シャーベットだ。
小さな陶器にそれぞれが盛られていて、少しずつ食べられるようになっている。
3つの小鉢は横長の平皿にのせられて出された。
はっ、としたのは、ティストームではありえない、食べるためではない色どりが加えられていたことだ。
平皿の隅にシプードの若葉が添えられていていたのだ。控えめに、そっと、涼し気に……
チギラ料理人には、異世界の食文化について、主には日本料理についてよく聞いてもらっているのだが、葉を飾ったこれは懐石料理の雰囲気を出したものではないかと思う。
彼を見て「はっぱ」と口パクしたら、小さく笑ったので間違いない。
……嬉しい。
今はまだそろわない食材の料理や、国ごとの食器の形、盛り付け方、祝い事の特殊な飾りつけなど、話しても話してもまだ伝えきれていないのだが、これからも思い出せる限りアウトプットし続ける所存である。私のために!
「さっぱりとした左から順にどうぞ。左は蜂蜜。真中は卵白と砂糖。右は生クリームを混ぜたものです」
余計な部分を取り除いたシープードを凍らせてから分離具にけたものと、ジュース状にしたシプードを凍らせてから分離具にかけたものと、チギラ料理人がどちらを使ったのかわからないけれど、メレンゲのシャーベットが食べたくて、それはリクエストした。
メレンゲとは泡立てた卵白のことで3種類の作り方がある。
フレンチメレンゲは常温で砂糖を加えて泡立てたもの。
イタリアンメレンゲは高温のシロップを加えながら泡立てたもの。
スイスメレンゲは湯煎しながら泡立てたもの。
熱を加えれば卵の生臭さが消えるので、今回のシャーベットにはフレンチメレンゲ以外で作ったのではないかと思う。
「ぱくり」
チギラ料理人の言う通り、シンプルな左のものから食べてゆく。
これは確か、すり鉢で滑らかにしていたものだ。
うん、はちみつレモン風味で美味しい。
みんなも普通に美味しいと思っている顔だ。
次はメレンゲでふわっ。しゃりっ。
おや?って顔になった。
最後はつぶつぶアイスクリームに近いもの。
うんうん、右に行くほど濃厚になるようにしたのね。
「旨ぁーーーっ!」
シプードはベール兄さまの好物ですものね。
「卵の白身がこうなるのか? 腑に落ちん」
「僕は生クリームの入ったこれが気に入りました」
「シプードと蜂蜜……合いますね」
「全部旨いぞ。毎回全種類食べたい」
「同感ですな」
チギラ料理人は嬉しそうに聞いていた。
「ねぇ、ベールにいさま。ふたりでつくったシプード・シャーベットより、ずっとおいしいですね」
生垣に隠れて食べたやつ(10話参照)
「当たり前だ。あれは凍らせたのを割っただけだ……っと」
ベール兄さまが、不味い…という顔になった。
どした?
「盗み食いのような真似をしたと、城の料理長から報告を受けている。次は拳骨だぞ」
アルベール兄さまは、残りのシャーベットを食べながら憮然と言う。
ベール兄さまは肩をすくめて「はい」と返事をした。
──…? ? ?
「シュシューア、返事は?」
「なんですか? わたくしは、まんなかのが、いちばんすきです。アルベールにいさまは、どれがきにいりましたか? あ、いやです。これは、わたくしのぶんです。あげません」
「ゴフッ!」
シブメン?
急にせき込んで、変なところに入っちゃった?
「………はぁ、言うだけ無駄か…… 全て旨い。レストランに出すなら3種並べてだ。食べ比べるという趣向が気に入った。チギラ、このまま出せるか?」
「生卵を使うのでゼルドラ魔導士長の鑑定が必要になります。それと、そろそろシプードの時期が終わります。レベで作るのがいいかと」
レベ? 知らない名前。果物?
「アルベール王子殿下、卵は冷蔵庫内なら2週間程もちます。この離宮でまとめて鑑定しておきますので、それをレストランでお使いください。菌除去魔導具の納品は未定です」
「わかった。卵は卿に任せる。チギラはレベで試作してみてくれ。ミネバ、特許はメレンゲだけを申請する。用意を頼む」
う~む、私にシャーベットで出来ることは他にあるかな。
果物を使わないシャーベット……は、チギラ料理人が考えるか。
だったら違うアイス。アイスクリームか。アイスクリームも食べたいなぁ。
あとは道具かな?
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