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2章 幼少期編 II
32.建設現場見学ツアー6
しおりを挟む「はぁはぁはぁ………」
ふぃ~っ、頂上に来たどー--っ!
……けど、ただの資材置き場にしか見えないので感動がいまいち薄い。
床らしくなっていない足元も、歩く所に板が置いてあるだけだ。
「突風が吹いたら転がり落ちそうだな」
ベール兄さまが怖いことを言った。
確かに、捕まるところがない見晴らしのいい場所は怖い。
でも端っこに行かなきゃ大丈夫。私は絶対に端っこに行きませんよ。
でもでも、ルエ団長が手招きしている。
でもでもでも、大丈夫。あそこはまだ端っこじゃない。ここよりちょびっと端っこに近いだけだ。
「シュシューア、前に出なさい。お前が知りたかったことが直に見られるぞ」
はい、行きます。そこは端っこじゃありませんからね。
ベール兄さまと一緒に、一歩一歩しっかりと足をつけて歩きます。ほんの数歩だけど。
足を止める。
目の前には蓋がない大きな金属の箱。
中には回転台車で運ばれてきた”小ぶりの石”が、ぎっちり詰まっている。
現場監督が隣にいる線の細い男の人を紹介してきた。ギルドから派遣されてきた魔導士だそうだ。
ピーーーンときた。
石の詰まった箱と魔導士。まさかと思ったけど、絶対そのまさかだ!
シブメンを見たら、やっと気づいたか的な顔をしているし、ベール兄さまはもう笑っている。
「では、始めます」
魔導士が箱の中の石に両手を軽く触れさせる。
ズワッと彼の手から魔力が出てくるのを感じた。私の体までビリビリしてくる。魔導士ではなくても近くにいれば感じられる波動だった。だって私が手から出すズルリと似ているもの。ズルリとズワッでは密度が段違いだけど。
「王女殿下、よそ見をしないように」
皆はどう感じているのか顔を窺っていたら、シブメンに首の位置を直された。
ベール兄さまの手から『しっかりしろ』の合図みたいのが来る。
はい、集中ですね。
「………」
見てますよ、見てますけど、何でしょうかね、目が変です。
箱の中の石がプルプルしているように見えるのですけど。ゼリーのような……
「!!!!!」
ひょえっ! 合体したのか!
あの不揃いの石が1個になった! 巨大なコンニャクになった! 食べきれない! ちゃうわっ! ズビシッ!
まさかのまさかがぁーーーっ!
びっくり、ビックリ、でも大きい声を出してはいけない。任務遂行中の魔導士殿は今、集中しているのだ!
「もう二個入れるか」
現場監督が作業員に向かって顎をしゃくる。
作業員が小ぶりの石を箱の中に2個入れた。
コンニャクに触れたとたん追加した石はふにゃぁっと……コンニャクの量が増えぁぁぁぁ!
「王女さま、箱の内側にある線に量を合わせると、他の石と同じ大きさになるんですよ。見てください、少しだけ線を越えているでしょう? こういうのはこれで調整するんです」
いきなり先生顔になった現場監督が手にしているのは、使い古された柄杓だ。
その柄杓で箱の内側の線丁度になるようにプルプルを掬っていく。
ピッタリになった。現場監督が私にドヤ顔を向けてきたので、感心したようなそぶりを見せておいた。マジに感心してますけどね。
「次は隣の石と連結させますんで、少し下がっていてください」
どうやって箱から出すのだろう。持ち上げてひっくり返すなんて出来そうもないし。
口を出したいけど、邪魔をしたらアルベール兄さまに叱られるから、黙って見ておこう。
作業員ふたりが箱の前に身を屈めた。
そして箱の底の部分にある突起を掴んで……
「「せーのっ!」」
…って引き抜いた! 巨石サイズの箱底板をたったふたりの力で引き抜いた!
「王女さまの好きなミエムゼリーと同じですよ(なぜ私の好物を知っている?)…型から出しても簡単には崩れないでしょう? この箱は引き抜ぬいて解体できるように出来ているんですよ。おい、脇も引き抜け」
現場監督は私に見せる顔とは違う厳めしい表情で、作業員に指示を出す。
「「せーのっ!」」
側面の口型枠がザッと音を立てて引き上げられた。
ほえーーーっ! 崩れない! コンニャクが自立した!
そこで最後とばかりに、魔導士が『よく見ててください』と視線を送って来たので、頷いて目を離さなように凝視した。
魔力の何かが変化するのを感じた。
その変化した一瞬でプルプルは隣の巨石と同じ堅そうな石になった。
音もしなかった。
「……触っても、いいですか?」
現場監督に聞いたら、どうぞと場所を開けてくれた。
魔導士は膝を折った姿勢のまま、待ってくれている。
指先で突いてみた……硬い。
ペシペシ叩いてみた……硬い。
蹴ってみた……痛い。
隣の石との境を上から覗いてみる。
違う石が並んでいるのは色味が違うのでわかる。けれど、隙間がないように見えた。
……あ、魔導士さんが質問を待つ空気を出してる。
「え~と、これは、もう、隣の石とくっついて、離れないのですか? 下の石とも?」
「はい、そのように連結の魔術構築をいたしました。分離の魔力を流せば崩れますが、先ほどの箱の形には戻せませんね」
へぇーーーっ、そういうものなんだ!
面白いな~。本当にくっついてるんだ。凄いな~。紙一枚の隙間もないよ。
はっ! これ、あれあれ、ピラミッドもこうやって作ったんじゃないの!? 古代エジプトにも絶対魔導士がいたよね! あそこ砂がいっぱいあったし、集めて固めるだけだし~……ん?
「石からではなく、砂からは作れないのですか?」
目の前の石をペシペシやって、疑問をぶつけてみた。
「あ~、石同士の連結でしたら1日に30個ぐらいは作れますが、砂からだと2~3個が限界ですね」
へぇーーーっ、そういうものなんだ!
………続く
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