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2章 幼少期編 II
39.建設現場見学ツアー13
しおりを挟む昼休みが終わって、作業員たちが持ち場に就き始めていた。
ガーンガーンとかグワシャ~とか重機のモーター音がしないと、建設現場でも騒々しいと感じないものなのですね。一番響くのは掛け声なんだもの……クスクス、野太い声の方が多いのです。筋肉モリモリでちょっと暑苦しい感じもします。そうですね。もうすぐ夏ですからね。暑さ対策をしましょうか。
「熱中症対策」
暑気あたり? 脱水症状? しどろもどろ……言いたいことはわかってもらえた。よかった。
対策の塩飴はコストがかかりそうだけど、とりあえず一度作ってもらって、あとは時間を決めた水分補給ね。建設現場で眩暈なんて起こしたら死んじゃうもの。そのための安全フックなのだけど……はっ、労災は?
「仕事中に怪我をした場合の治療費はどうなりますか? 亡くなってしまったり、怪我の後遺症で働けなくなった場合の補償とか……」
「ある程度の保証は受けられる。それは各ギルドの管轄だな」
「そう、ですか。ギルドが……」
……まずい。
授業でワーナー先生が言っていたような気がする。全然覚えてない。気付かれたらどうしよう。私の授業内容はアルベール兄さまに報告書が上がっているのだ。ぶるる。
「兄上、駅に昇降機は設置するのか?」
ナイス!ちい兄。助け船ではないだろうけど助かったよ!
「当然だ、商品館のあれが最終形態ではないぞ。王都駅の上に複合施設を作るからな。王都側と西側に1基ずつ、そして将来的な構想だが搬入用の設計も始めている」
施設? 駅ビルにでもするのかな?
「複合施設もアルベール商会が作るのですか?」
「う~ん、それがまだ未定なのだ。空中街道が稼働したとしても最初は走行重視だからな。国営と民営の線引きをどこに入れるか、それとも国の管理下で施設は貸し出しのみにするか……」
だが牛耳りたい……と唸るアルベール兄さまの顔は、目をそらしたくなるような暗黒レベルになっている。頭の中では大きな数字が飛び交っているに違いない。
とはいえ、空中街道は戦略的な国家事業なので、商会としてはなかなかに手が出しにくいのだそうだ。
何よりも街道を通すことが大前提であり、いつでもいい上物は企画の段階でとん挫する可能性もあるのだ。
……いやいやいや、その時はお父さまの執務室で盛大に泣きわめいて…は無理だから、大暴れして駄々をこねまくりますよ。
まぁ、駅の施設云々以前に”街道ルート”で未だに揉めているらしいから、複合施設どころではないのは仕方がないか。
『出入口駅を我が領に!』…他領に遅れを取ってはならずと睨み合いが続いているのですって。
『新幹線の駅は是非うちの県に!』みたいなものですかね。
利用料金はまだ決まっていないけど、盗賊や野獣…時には魔獣に襲われる危険と天秤にかけた料金設定にすると、ちらっと耳にした。
障害物がなくて時間の短縮にもなるから、これは絶対に長距離移動の主流になるよね。
だから何としても自領を通ってもらいたい気持ちはわかる。でも兵士の遠征にも使われるから回り道は出来ないのです。
戦争を無事に回避出来たら、枝分かれする街道を作ってもらえるように頼んでみるからね……じゃなくて、先にそれを公表すれば揉めないよね。いや、さすがに偉い人達はもう計画しているか。いや、そうじゃなくて……却下されてるのかも。
「その通りだ。逸れ道を作ると管理が杜撰になる。そこから盗賊が入り込んだら目も当てられん」
……却下されてました。
「保安は……最初は管理員と兵士を駅に常駐させるのが精々だな。いずれ通過料を徴収する場に一旦停止させる仕掛けを作る予定だが、いかに混雑させずにさばくのかが課題になっている」
料金所ですね。
「街道を降りた後の安全は現地の領主に一任だ。恐らく、冒険者ギルドの支店を作ることになるだろう」
駅前支店ですね。
「アルベール兄さま。駅周辺に建物が建つ前に、周回路の場所を確保しておいてください。馬車が滑らかに出入りできるようにすると便利ですよ」
「邸宅の馬車寄せのようなものだな。前世の駅前にもあったのか?」
「はい、乗合馬車の発着場を兼ねたものがありました。乗り換えがとても楽なのです」
これは高速道路より鉄道駅のイメージですが。
「時計塔があったら発着の時間がわかって便利ですな」
「じゃぁ、俺は喫茶室でココアを飲んで待つ」
「わたくしはお土産屋さんを巡りながら待ちます」
「飯屋も必要だろう。駅でチャーハンを広めるといい」
「王都駅名物『コメ麦飯店』……アルベール兄さま、出店しましょう!」
馬車利用のうちは”ドライブイン”や”道の駅”みたいになるのかしら。わくわく。
「王都駅の複合施設は、各方面の事務所がほとんどだと思うのだが……」
アルベール兄さまが無粋な横やりを入れてくる。
自分でもわかっているのか、語尾が小さくなっていた。
「勿体ないですよ。そんなもの西側の余った土地に、共同会屋でも建てておけばいいのです」
「異世界でもそうだったのか?」
「鉄道の駅はそうでした。車道としての駅は、元々は御者たちの休憩所だったのですが、休憩所そのものが行楽地になっていきました。凄い人気でしたよ。人気がありすぎて渋滞するという……あ~、そうでした、渋滞……」
高速道路が渋滞したら高速道路の存在意義が、という兼ねてからの疑問点があったねぇ。
……道の駅はだめそうだ。がっかり。
「でもでもアルベール兄さま、せめて街道利用者のためだけの、休憩室と軽食の売店を」
「まだ未定だと言っている。だが問題点があるようだな、先に聞いておこう」
そう改めて言われると、う~ん……そもそも私は電車派だったから車道に詳しくないし。
事故が起こった時の非常駐車帯は……一応言っておくか。
違反行為も決めておいた方がいいかも。追い越し禁止、煽り運転禁止、速度規制…?
電車は、電車の駅は……”駅ナカ” ”駅チカ”で、現地商店との訴訟があったよね。
あ、駅がまだ出来てないから駅前商店街がないか。いやいや、その前に電車通勤ありきの思考やめいっ。毎日駅を利用する人なんていないからっ。利用する人作っちゃいけないからっ。満員電車反対!
あ~でも、そうなると駅のショッピングモールはどうなる……王都駅だけでも作れないかなぁ~。
「そうだな、現実的ではない問題だが、記録は残しておこう……で『えきべん』とは何だ?」
アルベール兄さまがニヤリと笑う。
「……そんなこと言いましたか?」
「言ってたぞ。旨そうな顔してた。”べん”ってことは『オベントウ』の仲間だな?」
鋭いですね、ベール兄さま。
「そうです。”えき”は駅の事で、駅でしか売っていない携帯食を『駅弁』と言います。馬車内では食事をする習慣はないようですけど、揺れの少ない…少ないはずの鉄道の車内では、落ち着いて食事が出来るのです。竹皮に包んだ”おにぎり”と”調理パン”から販売してみたいですね」
プラットホームでの立ち売りがいいかしら。それとも車内販売? いずれは食堂車?……おっと、空中街道の建築はまだ始まったばかりでしたね。クールダウ~ン♪
建設現場の追加案はもう出てこなかったので、午後は回転台車で特別に遊ばせてもらった。
地面に平置きしてもらって、私とベール兄さまが運ばれるのだ。私は両手を取られた補助付きであります。
「あまりにも長い廊下には、人間用のこれがありました」
水平エスカレーターのことです。
アルベール兄さまに『必要ない』と速攻却下された。
水平台車の初代は手回しハンドル、次代は足踏み回し車、そして私が生まれる前から魔導具として定着したと、現場監督が教えてくれたところで撤収の合図が出される。
楽しかった~。また来たいで~す。ダメだって~。
採石場にも行きたいとねだったけど、遠いうえに罪人の労役場だから、それこそダメだと却下されちゃった。
まぁ、今そこに行っても大した案は出せないので、粘りませんがね……ふっ、ふふっ。
黒色火薬が出来上がったら驚かせて差し上げますわ。
岩壁に筒穴掘って、詰め込んでダーーーン!!
適度な大きさに破砕して運びやすくするのです。
昔は発破って言ったっけ? 今も?
………………………………
社会科見学は終了です。
お疲れさまでした(^▽^)
………………………………
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