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2章 幼少期編 II
20.芸術でトリップ
しおりを挟むルベール兄さまが旅支度で忙しくしているので、今日は大人しくお勉強です。
でも、明日にはマラーナ行きの船に乗って行ってしまうことを思うと、そわそわして授業に集中できそうもありません。嫌だなぁ、淋しいなぁ。
ワーナー先生がしょぼくれる私に『兄上さまに土産をおねだりするといいですよ』と、マラーナの貝細工のお話をしてくれた。
白くて清楚な装飾品は、海に重きを置いていないティストームでは流通していないそうだ。
他にも虹色の真珠や色とりどりの珊瑚など、巧みなワーナー先生の語りに乙女心が刺激されてしまう……アクセサリーはそんなに欲しいわけではないけれど。
ああいう芸術品は美術館とか博物館で観るのがいいのだ。どちらもないのだけど。なぜないの?
「絵画や工芸品を公開する、催しのようなものはないのですか?」
「歓談会を開いてお抱えの芸術家の作品を紹介したり、収集家たちが仲間を集めて持ち寄ったりしているようですよ。しかし、王女殿下が仰るのは平民でも観に行ける事が出来る『場』という意味でございますね?」
頷くと、あっさり『ございません』と言われてしまった。
「王女殿下が大きくなられましたら、お好みの物を展示したサロンをお開きになってはいかがでしょう。公開の方法は今は思いつきませんが、平民も入場できるよう工夫して……そうですね、有料にするのもひとつの手ですね」
おおっ、それは面白そう!
「わたくし、前世ではいろんな趣旨の展示館を巡ったのですよ。お手頃な料金で気軽に入ることが出来て、まったりと展示品を眺めることが出来たのです。楽しんだ後は併設されている喫茶室で夢想することもできましたし、それはもう楽しい時間を過ごせたのです……そうですね、大人になったら素敵なサロンを作ります。どんなふうにしましょう。楽しみだなぁ……」
一番好きだったのが、アンティークな自動人形が演奏するオルゴール館。あれはどこの県だったっけ。歴史を感じさせる雰囲気が、ため息が出るほど素敵だった。
時計台の鐘が音楽になっているのも憧れるなぁ(学校のチャイムじゃないやつ)
王都でも時間を知らせる鐘は鳴るけど、自動ではない。係の者が鐘突き塔に登って1日6回三時間ごとに鳴らしている人力だ。
そんな鐘突きの正確な時間は、日時計と振り子時計で計っている。振り子時計の方は凄く高価だから、王国管理の建物か、お金持ちしか持っていないらしい。
言うまでもないけど王城の大広間にもある。お父さまより大きいのが。あれがからくり時計だったらすっごく楽しいのに……
ワーナー先生がクツクツ笑ってる。
……机の上が藁紙だらけになっていますね。
「鼻歌が始まったら、ペンを握っていただくよう言われていましたので……本当にこうなるとは、クスクス」
「ただいまです……ははは」
……自動書記みたいでカッコ悪い。自動書記……自動書記じゃん! ガビーン!
「これは自動で音楽を流すのか?」
おっと、アルベール兄さまが既に数枚持って見分しておりました。お迎えに来てくれていたのですね。
「オルゴールという楽器の図面ですね……あ~」
簡単な手巻きオルゴールは、ぜんぜん簡単じゃなかった。いやいやいや、こんなに複雑なの? 地道に演奏したほうが早くない? この切符切りみたいのは何に使うの? ワカンナイ……ひっ、これ自動人形? なぜ日本人形をチョイスした? どうしてリアル絵? 私の画力じゃない。骨組み気持ち悪っ! こっちは? 鐘が並んでるのは時計台の裏側ね。ぐはっ、歯車だらけ。ん? 何この図面『三重振り子が面白い!』って誰のお勧めよ。
……もう見たくないので、藁紙は全部裏返した。
「重要な情報は一個もありません。新城と空中街道を優先してください」
もっと言うなら、空中街道を北に伸ばすのを優先して欲しい。
リボンくんの領地に遊びに行きたいし、将来トルドンに嫁いでも里帰りしやすくなるから。
「そうか。では父上の執務室に行くぞ」
やった! お父さまの執務室に行くのは久しぶりです。
黒色火薬についてもありますが、飢饉回避のご褒美も用意してあるらしいのですよ。らん、ららん♪
「よく来た、シュシューア。さぁ、おいで」
お父さまのお膝ポンポン。私の指定席! わ~い!
……今日はもう一度、お花畑に往っちゃうかもしれません。
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