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2章 幼少期編 II
18.チーム・ルベール
しおりを挟む「あんた、マラーナ留学を早めろ。これじゃ妹がまともに育たねぇ」
ガリィさんは歯を剥き出してルベール兄さまを威嚇した。
気持ちがいいくらい無礼だね。いいなぁ、冒険者とマブダチ。
「あれ? ルベール兄さまが留学することを、なぜ知っているのですか?」
マラーナへの留学は決定事項だが、時期が未定なので公表はされていない。
たぶん出発はアルベール兄さまの結婚式が終わってからだ。
まだ先の事なので寂しくはないよ。うん。
「今日の護衛騎士と、従者と、この3人の冒険者は、僕と一緒にマラーナに行くんだよ」
おっと、人選はもう済んでいるのか。そっかそっか……
……ん? んん?
今、護りを固めている男たちの顔をクルリと見渡す。
ルベール王子の専属騎士4人。
ルベール王子の従者2人。
初対面の冒険者3人……なのに、この懐かし気な感じは……既視感…デジャヴ……?
───あっ!
この顔ぶれ! スチルにあった! うわぁ、全員揃ってる!
《秘密の恋の秘密の恋》─────
ルベール王子ルート
ミッション:危険地帯で重要な素材採取。
────────────────
重要な素材……もしやツルンの木枝?……まぁ、重要ではありますが。ヒロインが不在ですよ。
「……ユエン侯爵領の山には、黒の縞々の大型魔獣がいませんでしたか?」
ツルンの木枝の採取場所はユエン侯爵領だ。レイラお姉さまの領地だから覚えている。
ゲームでは虎型の魔獣が出没する山だったはずだ。
「大虎のことか? 大型ってほどじゃないぞ、なぁ?」
ガリィさんが仲間にお伺いを立てると、ふたりは軽く頷く。
「君たちが強いからそう思うんだよ。大虎は危険な大型魔獣だよ」
ルベール兄さまは呆れた顔で言った。
彼らは大虎を簡単に倒せるほど強いらしい。
そういえば、いつだったか高ランクだって言ってたっけ。
王子さまの専属にスカウトされるぐらいだものね。うんうん。
そもそも出会いのきっかけも、その『大虎を倒せる』だったそうだ。
紙になるかもしれないと挙げられた木枝の中に、大虎が好む香りを放つやっかいな植物があったのだ。
それを承知で採取依頼を受けられる冒険者は彼らしかいなかった。
今依頼しなければ、彼らは他の長期依頼に出てしまう事をルベール王子は知った。
ルベール王子はポンとポケットマネーから気前よく手付金を支払った。
そしてアルベール商会の金庫番は、高ランク冒険者への高額報酬をケチらなかった。
大虎が好む香りを放つツルンの木枝〈イロイの木〉……今では一番書き心地が良い高級紙になっている。彼らはいい仕事をした。
商売って面白いの?…という興味本位だけで商会を手伝っていたルベール王子は、こうして彼らと出会った。
運命だ。運命に違いない。むふぅ~、ロ・マ・ン~!
「ねぇ、シュシュ。もしかして、大虎と戦うこの3人が"予言の書"に載っていたの?」
ルベール兄さまが楽しそうに身を乗り出す。うちの家族は予言の書ネタが好きよね。
「マラーナに行く顔ぶれ全員が、出ていましたよ」
騎士と従者の耳がダンポになっている。好きなのはうちの家族だけじゃなかった。
「オマーの橋落としを防いだ"予言の書"? アタシたち出てたの!?」
みんな好きだった。
「大発生した大虎の群れに、全員で挑んだんのです」
ヒロインとチーム・ルベールが力を合わせて戦ったのだ……これは確かルベールルートが確定するイベントだったはず。あ~、やだやだ。
「魔獣大暴走が起こるのか……」
ガリィさんが不敵に笑った。
お仲間の冒険者たちも鼻息荒く身を乗り出した。
戦闘狂でしょうか。
「ルベール兄さまは(ヒロインを守って)大虎の爪で肩に大怪我をしてしまうのです。回避してくださいね」
「大虎が出るような所にわざわざ行かないよ……でも、虎猫に肩を引っ掻かれたことはあるかな。一時期離宮の庭によく来ていた大きな猫、覚えてる?」
「……いましたね。ぶにゃぶにゃ鳴く太々しいのが」
魔導の練習中にしつこくじゃれついてきた丸い猫。
ルベール兄さまが引き受けてくれて、引っ掻かれたんだっけ……あ、そういうこと。
「事実を混ぜた創作だね。なんだっけ『いべんとくりあ』?」
一応、虎柄の動物から女の子を守ったエピソードになるのか……元ネタがショボいよ、ゲームクリエイターたち。
「なんだ、スタンピードは起きないのか……虎柄の毛皮は高く売れるのに……」
冒険者の皆さんは、やる気をそがれて肩を落とす。
戦闘狂じゃなかった。お金目当てだった。
「"予言の書"に書かれていたというなら、それは国で対処するよ。大丈夫、魔素溜りの調査を魔導部に依頼するから、スタンピードなんて起こさせないよ」
ルベール兄さまは、顔色を変えている従者を安心させるように笑った。ぷふっ、どう見ても文官タイプですものね。討伐に参加するようには見えません。
騎士たちは余裕の顔をしているから、その時が来たら力を発揮しそうです。でも発揮する機会はなくてもいいんですよ。それこそ回避してください。
「大型の動物は臭いから嫌いなんだ。討伐になんか絶対行くもんか」
王子さまから、お坊ちゃま発言がポソッと出ました。
うん、危険がないのが一番です。君子危うきに近寄らず。
シナリオの強制力とか不思議現象が起こっても思いっきり避けてください。
それでも何かあったら、きっちり周囲に護られてくださいね。
「ふつつかな兄ではございますが、今後とも、末永く、よろしくお頼み申し上げます」
これは頭を下げる時です。日本の心を受け取りたまえ……ペコリ。
「シュシュ~?」
え? 何か間違えましたか?
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