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2章 幼少期編 II
17.ナゾナゾ
しおりを挟む背を壁にした席が私たちに用意されていたようで、護衛と侍従が左右対称に待機していた。
あれは周囲に対する『ここに座るな』ですね。
テーブルに用意されていた木製の受皿にプードちゃんを差し込んで、いつの間にやら4階から持ってきてあった子供椅子に座らせてもらう。
ルベール兄さまに「万物に感謝を」してもらって、おやつタイムの始まりです。
「可愛いすぎて食べるのがもったいないですねぇ。でも食べます。この花飾りから」
ペキンと砕けた飴はイティゴ味でした。
ルベール兄さまも最初に舌飴をパクンといった。
粉々になった飴が残っているうちに、アイスを口の中でニュマニュマするのがいいのです。おいち~。えいっ、お目々もいっちゃえ。んふ~。
時々ハンカチーフで口の周りを拭かれながら、バリバリとワッフルコーンに侵攻しております。カップはやっぱりワッフルコーンですよね~。
ワッフルメーカーですか? 作ってもらいましたとも。
……………………………………………
ワッフルコーンの作り方
①卵白+粉砂糖を泡だて器で混ぜる(メレンゲ)
②薄力粉をゴムベラでさっくり混ぜる。
③溶かしバターを加えてトロリとするまで混ぜる。
④ワッフルコーン用の圧縮フライパンで焼く。
⑤焼きあがった後は、あっという間に硬くなってしまうので、円錐の型で素早く丸める。
……………………………………………
分量を変えたり、バニラエッセンス、シナモン、乳、塩、レモン汁でアレンジして、いろんな味を楽しみましょう。
圧縮フライパンは、ワッフル用、ワッフルコーン用、ゴーフル用、ウェハース用など、型が続々と増えています。圧縮はしないけど同タイプで今川焼の型はもうあります。たい焼き型は『甘味をわざわざ生臭い魚の形にする必要があるのか?』とアルベール兄さまに却下されちゃいました。頭が固いのです。
今はチギラ料理人にウェハースにチャレンジしてもらっているところです。
材料は〈薄力粉+砂糖+水〉のみ。甘いクリームをサンドする場合は砂糖なしでもOKです。目の細かい凹凸(重要)で圧縮焼きすれば、間の水蒸気で程よく膨らむはずですよ。
あぁ、コーヒークリームを挟んでメリメリ食べたい。サクサクをわざと湿気らせるのが私は好きなのです。
あれ?……と思った。
ルベール兄さまがあまりお話をしていない。美味しいものを食べてる時は無言になっちゃうアレかな?
……違う。目が合った。ナゾナゾしている時の顔だ。
ふふ~ん、その挑戦受けますよ。
……何だろう。何を隠しているんだろう。キョロキョロしないように店内を見回す。
サプライズかな? 着ぐるみのシプード兄妹が現れるとか……ないな。あの企画は没にされたんだった。
「………」
行列がなくなってるね。
入口の前にウチの護衛が立っちゃってる。よりにもよって一番大きい人が。あれじゃお客さんが入れない。もしかして閉店した? でもイートインのお客さんに帰るそぶりがないし……ん? お客さんたちの視線がどっか行った。さっきまでこっちを見てたのに。みんな緊張しだした。怪しい。
むっ、前の席の人の背中が揺れた。その両隣の人も。
ナゾナゾの答えは、これだ!
「くくく。もう、いいだろ?」
揺れてる人が振り向いた。さっき後ろに並んでいた青年だ。両隣で揺れていた二人の青年も、体を捻ってこちらに向いた。10代後半から20代前半。3人とも笑っちゃうぐらい姿勢が崩れてる。なのにちっともだらしなく感じない。むしろ様になっていて格好いいよ。
「いいけど、仕事は終了?」
ルベール兄さまがお返事をした!
「ここの客役で依頼終了だ」
客役?
「アレな通行人の間引きは、骨が折れたぞォ」
弾いてた人たちなの?
「長いこと降りてこなかったけど、上で何してたん?」
待たれてた?
「こら、今日は姫君がいらっしゃるのだ。ひかえなさい」
ルベール兄さまの従者が間に入って私を背に隠した……知り合いみたいですね。
「シュシュ。今この店にいる客は、みんな私服の護衛だよ。半分は騎士で、半分は冒険者。外にもたくさん衛兵を見たよね。王族の街歩きにはこれだけの人員が必要なんだ。覚えておいて」
「はいっ。今日はとっても楽しい、はじめてのお出かけになりました。皆さんのおかげです。ありがとうございました」
座ったままですが、胸に手を当ててニッコリ笑う。護衛の皆様に拍手で答えてもらえた。
「きちんとお礼が言えたね。偉い偉い」
えへへ~、ちょっと照れる~。
いや、そんな事より、目の前の3人は冒険者ですよね(…というか近衛騎士には見えない)
パーティを組んだりしているのですか? ダンジョンに行ったことはありますか? レアアイテムを持ってたりします? 剣士? 斥候? タンク? 勇者がいたりして~。はぁ~、生冒険者~、萌えるぅ~。
※冒険者の偏ったイメージが暴走しています。
ドキドキドキ。ルベール兄さまっ、早く紹介してくださいませ!
私はシャンと背筋を伸ばして、兄の腕をペシペシ叩いて催促した。
「ふふっ、右からガリィ、エズバン、キト。ツルンの木の採取を頼んだ冒険者だよ……で、この可愛い女の子は僕のミエム姫ね」
うはっ、冒険者のお兄さまたちが私を見ている!
「シュシューアです! 冒険者が大好きです! 仲良くしてください!」
キリッ!
「……あんたも大概気さくな王子だが、妹は冒険者が好きときやがったぜ」
無精ひげが似合うワイルドなガリィさんは、ルベール兄さまに向かってヘッと笑った。
──うはっ、凄い態度! シビレる!
「王子ィ、冒険者はならず者だって教えとけよォ……けど、俺たちは違うぞ。い~ぃ冒険者だ」
優男風のエズバンさんは、チッチッチッと指を振る。
──チャラ男ね。嫌いじゃないわ。
「お姫ちゃんは前世持ちだったわネ。転生者は物事にこだわらないって、このコト?」
豪華な赤毛を持つキトさんは、頬に手を当てて首をかしげる。
──まさかのオネェ! お友達になって!
「僕のお姫さまは、こだわりだらけだよ。毎日毎日ミエムミエム、熱を出してもミエム、お腹を壊してもミエム……そんなところも可愛いんだけどね」
「ミエム好きのどこに可愛い要素があんの?」
何をおっしゃいます、チャラ男さん。可愛いでしょう?
『うぜぇ』とガリィさんから呻きが漏れたので、彼にも理解してもらわなくては。
「ルベール兄さまは、わたくしだったら全部可愛いのですよ」
「うん、そういうこと。誰が見てもこの世で一番可愛いお姫さまだよね」
「うぜぇ」
ガリィさんがもう一度呻いた。
………続く
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