131 / 186
2章 幼少期編 II
13.デパートメント
しおりを挟むレストランを出てショーウィンドーを通り過ぎ、建物の角を曲がると売店の正面入口がある。
東ビルは中主通りに面しているうえに、左右に2車線路地というお誕生日席のような立地なのです。
魔導冷蔵箱の販売時に培った人脈でね、併結業に莫大な利益が出たからってね、バーンと買ったビルなのだそうですよ……凄いね。やっぱり本業が一番儲かるんだ。
「相変わらず混んでるなぁ。早く新店舗を作らないと暴動が起きそうだ」
呆れるルベール兄さまの声につられて、背伸びして窓から店内を覗いてみた……背伸びしても見えなかった。むぅ。
抱っこをねだろうと思ったら、背後から脇に手を入れられて持ち上げられた。これは抱っこではない。むむぅ。
(……おぉ、客層がルベノールと全然違う。カフェチェーン店のランチタイムみたいだ)
混んでいて見えないけど、生菓子や軽食を販売しているであろう奥から凄い行列ができていた。
テイクアウトの人が店外に出て行っても、たいして変わらない。焼け石に水状態だ。
食べられるコーナーもあったはずだけど、ここからは見えないね。満席だろうけど。
「どうぞ、中へお入りください」
従者が呼んできた店員が、私たちを丁寧に迎えてくれた。
列に並ぶ人々を横目に『横入りじゃありませんよ~、わたくしたちは上の階に用があるのですよ~』と全身で語ったのは伝わっただろうか。
こういう時に堂々としているルベール兄さま……流石です。輝いています。王子さまです。はっ! 周囲にバレました。女の子たちの目がハートになっています。
「いらっしゃいませ」
案内されたのは、きれいなお姉さんがいる受付カウンターだ。
その後ろの扉はたぶん階段室。受付を通さないと上に行けないという事ですね。
アルベール商会【商品館】
───────────
7階:倉庫/事務所
6階:事業案内室
5階:改装築案内
4階:商品展示室
3階:贈答用雑貨
2階:贈答用食品
1階:食品/飲食
───────────
……う~む、難しくて読めない。
「6階と7階は面白くないから……いや、5階もいいか。館長、4階に頼むよ」
「かしこまりました」
館長と呼ばれた中年の男が、丁寧な動作で階段室の扉を開けた。
護衛が先に入って安全の確認。それが済むと階段を二段飛ばしで駆け上がっていく。色々重そうなものを装備しているのに機動力が半端ない。手摺の繊細な花彫刻を壊さないように気を付けてね。
そんな様子を眺めながら入った階段室は、全員が入っても窮屈に感じないほどの広さがあった。小休憩用の椅子まで置いてある。見覚えがあるぞ。離宮で使ってなかったやつだ。
え? あれ? ちょっと待って。
この階段室……階段もあるけど、この蛇腹の引戸は何ですか? とっても機械チックなものが天井を突き抜けているようなのですが。もしかして、もしかして……
「シュシュ~、これ何だかわかるか~い?」
わかりますよ! どう見ても『昇降機』ですよね! 重りと巻上機のやつ! 藁紙に描きましたよ! 適当に!
「うっ、動くのですか? 乗るのですか? 安全対策は出来ているのですか?」
ちょ~っと不安だなぁ。あんまり乗りたくないかなぁ。
「ゼルドラ魔導士長の魔法陣が、乗籠の床裏に設置してあるから安全だよ。たとえワイヤーが切れても緩やかに着地するようになっているんだ」
……そっか。シブメンが関わっているなら大丈夫かな。ほっ。
「この魔導昇降機も売り物なんだよ。高価すぎて1基も売れてないみたいだけど、兄上は新城に設置するんだって息巻いていたなぁ……さぁ、乗ろうか」
「はいっ」
手をつないで元気に乗り込んだ。
「もう、魔導士長の名前を出すだけで信用しちゃうんだから……」
「んふっ、やきもちですか?」
「プニプニィィィッ」
「あはははは(初めてのお出かけでハイになっております)…はっ!」
館長が居心地悪そうに昇降機の前でたたずんでいた。
私はサッとアルベール兄さまとの間隔を詰めて、操作盤の前を開けた。
手動ですよね、一緒に乗り込むんですよね。どうぞ、どうぞ。
素敵な笑顔らしきものを浮かべてごまかしてみた。わざとらしすぎたのか、隣の兄が吹き出した……むぅ、館長はごまかされてくれましたよ。いい人です。お城に帰ったら『館長は感じの良い方でした』とアルベール兄さまに報告しておきますね。
蛇腹の扉が締められ、操作盤の蓋が鍵で開けられた。
館長は操作盤の中を見やすくしてくれて説明までしてくれる。嬉しい。
「上の摘まみは右に捻ると魔力が流れるようになっています。下の摘まみは早さの調節ですね。本日はゆっくりの上昇に致しましょう。それでは危険ですので、金属扉には手を触れないようお願いいたします」
昇降操作に使われる握り棒の誤操作防止金具が外された。
階数表示がないという事は館長の腕次第という事ね。たぶんたくさん練習したはず。動作が危なげないもの。
それにしても、この鳥籠のような骨組みにガラス張り……スチームパンクみたいで格好いいな(動力は魔力オンリーだけど)
「シュシュ、こちら側からは外が見えるようになっているんだよ」
ガラス張りの謎が解けた、けど、う~ん。
強化ガラスは、あることはある。
700度以上に熱して急速に冷やす……魔導具を使えばそんな芸当も可能なのだ。シブメンが超高温と超低温の発動は簡単だと言っていたもの。
逆に、繊細な微調整が必要な冷蔵具/冷凍具/保温具/エアコンは難しくて、天才魔導士であるシブメンにしかできない魔法構築なのです……って本人が自慢していた。今でもしている。
……いや、シブメンはどうでもよくて、とてつもなく高価なはずなのですよ。いったいどれだけお金をかけているのでしょうか。う~ん、ん? 1基も売れてないって聞こえた?……うん、空耳ですね。うん。
「起動いたします」
カチッ。魔力注入は無音。ちょっとつまらない。
「4階まで上昇いたします。外の景色をお楽しみください」
レバーがゆっくり上げられる。
巻上機のウィーンって音と、足元でブンと魔導具が作動する音がした。
前世では気にも留めていなかった久しぶりの上昇感覚……胸が躍る。
パッと乗籠内に外の陽が差し込んだ。
外壁がガラス張り! マジでシースルー! やっちまった感が半端ない! じわじわ来るぞ。いくら飛んでったぁ~。
何処からか『わぁぁぁ』と歓声が聞こえてきた。
「シュシュ、手を振ってあげて」
ルベール兄さまは王子の微笑みで手を振っていた。
見ると、裏手にある馬車止めから沢山の人たちが大きく手を振っている。
私もあわてて手を振り返す。
注目の的だ。みんな魔導昇降機を観に来たんだ。遊園地のアトラクションを眺める子供のように目を輝かせている。
「こうやって外から見えるようにしてあるのも、宣伝なんだよ」
「……これも実演販売なのですね」
多目的調理台の次は魔導昇降機が狙い目ですよ!
早く手に入れてお友達に自慢しよう!
金持ちカモン!
………続く
136
お気に入りに追加
1,828
あなたにおすすめの小説
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる