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2章 幼少期編 II

3.見つめられるルーちゃん

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お父さまとルベール兄さまは、ベビーベッドを覗き込む。

「ぁ…ん~」

強い視線を感じたのか、ルーちゃんはパチリと目を開けた。

「わぁ、可愛いなぁ……ちょっとお祖母さまに似ているかな?」

ルベール兄さまは『賢そう』と言って笑った。

アルベール兄さまも、お祖母さまに似ていると言っていた。
私とベール兄さまはお会いしたことがないのだけど、ふたりの兄がそう言うのなら似ているのだろう。

前国王夫妻は現在、憧れの南大陸に移住して悠々自適なビーチライフをおくっている。季節ごとに届く手紙はいつも楽し気な内容だったから、元気でいるはずだ。

ルーちゃんが似ているというお祖母さまは『傾国の美賢女』と異名を西大陸に轟かせた、大変な偉人であったそうだ。それはもう、夫である国王が霞むほどに。
しかし、誰に聞いても『妖艶な美女だった』とは答えてくれるが、何を成し遂げた方なのか口を濁されるのは何故なのか。しつこく尋ねても逃げられてしまうので、いずれ発行される歴史書の近代版を待つことにした。

「………」

お父さまは無言で、ずっとルーちゃんを見つめている。

ルーちゃんを見つめるお父さまを、お母さまが見つめていた。
お母さまの視線はルーちゃんへ流れ、そしてもう一度お父さまに移り、ほんのりと頬を染めて微笑んだ。

私は知っている。

顔立ちがはっきりしてきたルーちゃんをあやしながら『髪がロッド~、瞳もロッド~、顔もロッド~♪』……と浮かれていたことを。


ルーちゃんを見つめるお父さまの口元が、ニヒャッとなった。

「ルシューアが私を見て笑ったぞ!」

それを待っていたんかい! ズビシッ。

「ルシュ~ア~、おと~さまだぞ~、よしよしよ~し」

慣れた様子で抱きかかえると、何かの儀式のように部屋の中を練り歩き始めた。

「父上!?  顔が酷いことになってるぞ!」

ベール兄さまは、デロデロな父親の顔に驚愕して後ずさった。

「あ~、また父上のこれが始まるのか……」

アルベール兄さまは頭を抱える。

「僕も覚えていますよ。ベールとシュシュが産まれた時も緩々でしたよね」

ルベール兄さまは仕方なさそうに肩をすくめた。

「あなたたちが産まれた時もですよ。宰相に人前に出るのを禁じられるほどでした」

お母さまはクスクスと笑う。

「ルベールも抱いてみなさい」

ルーちゃんを抱くお父さまは、ルベール兄さまにズイッと迫る。

「くっ、首が据わってからでいいです。ふにゃふにゃしてて怖いですよ」

それでも、恐る恐ると指先で頬をつんつんと……

「ルシュ……もうちょっと大きくなったら、お兄さまと遊ぼうね」

つんつんつん。

「きゅ……うぅ」

……あ、泣く。

「ぎゅわぁぁぁあぁぁん!!」

「うわわわ」

ルベール兄さまは仰け反った。

「ルーちゃん、ルーちゃ~ん」

私はベビーベッドをばふばふして、ルーちゃんを戻すようお父さまに要求する。

「ん? なんですか? ふんふん。そうですよね~。ほら、皆さん、ルーちゃんも抗議の声を上げていますよ。ルーちゃんはわたくしと一緒に中央塔に登りたいそうです。ね~」

「ぎゃぁぁぁぁぁん!」

「いいこ~、ルーちゃんはいいこ~、ル~ル~ル~ちゃ~ん♪」

ぽん、ぽぽん。

「うぎゃぁぁぁぁぁ!」

ぽん、ぽぽん、ぽん、ぽぽん。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

ぽん、ぽん、ぽん、ぽん、ぽん、ぽん。

「ル、ルーちゃん、もういいですよ。泣かなくてもいいですよ」

ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ。

「うぎゃぁぁぁぁん!」

……泣き止んでぇ。

「ルーちゃぁぁぁん……うぇぇぇ」



「ぶはっ……うははははは!」

ベール兄さまは大爆笑。

「妹に頼らず、素直に反省しなさい」

アルベール兄さまはため息交じり。

「シュシュ、そろそろお転婆はやめようね」

ルベール兄さまは頭をなでてくれる。

「うちの子たちは可愛いなぁ」

誰も返答しなかった。

「お腹がすいたのかもしれませんね」

ひとり冷静なお母さまの声で、あっさり解散となった。

「ぎゃぁぁぁぁぁん!」

私は女の子だから部屋に残れたけど、本心では逃げたい。ルーちゃんの魂の叫びは強烈すぎる(泣)


「ぎゃ……うく、んく」

……泣き止んだ!


飲んでる、飲んでる、飲んでる。


「も、もう、泣きませんか?」

「飲み終わったらすぐに寝てしまいますから、大丈夫ですよ」

ほぉ~~~っ。



そして、飲み終わったら本当に眠ってしまった。

おっぱいは偉大なのだと、新しい発見をしたのだった。



「シュシュ~、まだぁ?」

「はぁい」

ルベール兄さまは帰って来てから、私をずっと切なそうに見ている。

視察中に何かあったのかもしれないし、なかったかもしれない。
でも、きっと、今のルベール兄さまは、淋しくなっている。

大丈夫。ずっと一緒だから淋しくありませんよ。
ずっと、ずっと、一緒ですよ。

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