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2章 幼少期編 II
11.ルベノール
しおりを挟む気を取り直して、次はルベノールで昼食だ。
神殿から歩いて行ける距離なので、ルベール兄さまと手をつないで、街のお店を眺めながら向かいます。
「誰もこちらを見ていませんね」
ルベール兄さまが言っていた通り、私たちはまったくもって目立っていない。
ガタイのいい護衛さえ、花装いの通行人に埋もれてしまっている。
びっくりだ。
だったら、気になったお店を覗きに行っちゃったりしても、いいかな?
──くいっ。
雑貨屋さんに行こうとしたら引き戻されちゃった。
……駄目かぁ。まぁ、眺めるだけでも楽しいけどね。
あ、あの角に立っている人、神殿の敷地にいた警備兵さんだ。他にもいるかな? はっ! 休憩しているように見えるあの老人、目つきが鋭い。もしかして私服警備兵? 悪漢が出たら仕込み杖でシュパッと! ふはっ、カッコいい! 弱そうな悪漢が出てこないかな。ドキドキドキ。
「期待しているところ悪いけど、騒ぎは起きないよ。毛色の悪いのは弾いてもらっているからね」
悪戯が成功したような顔で、ルベール兄さまはウィンクを飛ばしてきた。
「どこですか? どこではじいているのですか?」
キョロキョロと周囲を窺う。お行儀が悪いと叱られた。
「ほら、ルノベールだよ。先に多目的調理台の実演を見てみようか……よっと」
ショーウィンドウの前に人だかりが出来ている。チビッコの私には見えないので抱き上げてくれた。
発売から1年以上が過ぎているというのになんという人気。
おっ、実演販売の焼く係…『お手伝いをする男の子』という演出みたいだ。
「今話題の子役だよ。観客を泣かせるのが上手いらしい」
言われてみれば、健気な雰囲気が漂う男の子だ。
見物客と目が合うと『ぼく、お手伝い出来て偉いでしょ?』ってな得意げな顔をするのだ。老若男女の心は鷲掴みにされていた。
はっ!……あれは『鍋つかみミトン試作2号くん』! ランド職人長~、デビューしてるよ~。ぼくちゃんが使ってくれてるよ~(1号は離宮で活躍中。ランド職人長は裁縫も得意なのだ)
「もう行くよ」
あ~ん、まだ見てたいのに……私の乗り物はさっさとレストランの方に向かってしまった。
☆…☆…☆…☆…☆
アルベール商会が所有する会屋3号 東建物。
紺色の7階建てで、ここの壁にも花が描かれている。
飾り柱に刻まれた店名の花文字(お洒落すぎて読めないやつ)
金属の袖看板も花のモチーフ(これもお洒落すぎて読みにくい)
全ての窓の飾り棚に、人の邪魔にならない箇所に、きれいな花の植木鉢が並んでいる。
この街全体が花屋さんのようだ。
お店の配置は以前に見せてもらった図面の通り、レストラン/実演販売/売店と分かれている。
2階から上は半分に仕切られていて、レストランの上部分は事務所・倉庫・店員の寮となり、ショーウィンドーと売店の上部分は百貨店のようになっているらしい。食後に行くのでしっかり堪能する予定である。
レストランの入口は、柱だけあるテラスを通り過ぎた先にある。
店名の入ったガラス扉が店員によって開かれ、待合を兼ねた前室で確認事項の伝達をしあう。
慣れた様子で対応するルベール兄さまが、はぁ~…スパダリみたいで格好いい。
次に案内されたのは個別の控室だ。
身だしなみを整える場所として、食事中の主を待つ護衛や従者の待機場所としても使われる。
私たちが使う部屋以外にも5部屋あったよ。豪勢ですなぁ。
「お疲れ様でございました」
控室にはヌディが待機していた。ルベール兄さまの侍女もね。打ち合わせの通りだから驚きませんよ。
まずは、手洗いとうがいだ。
外出先でまでやるのはやりすぎだけど、布教のためだから、やるったらやる。
ジャパニーズ神社の御手水習慣を甘く見てはいけません。伝染病の穢れ払いとしての効果は抜群なのだ。
偉い人たちに率先してやってもらっているので、私が面倒がるわけにはいかないというのもある。
神殿にだって王様からお勧めしてもらってい……今日は何の用意もされていなかったね……どういうこと? 帰ったらお父さまに言いつけよう。
ルベール兄さまは皺の寄った上着を取り替え、私はヌディが用意したドレスに着替える。
控室の中に更衣ブースまであるのですよ───ここより高級なアルベノールは果たしてどうなっているのか! 驚愕の事実があなたを待っている!……続く。続きません。
外食するときは毎回着替えるのかと聞けば、そんなことはないと答えが返ってきた。
ただ、今日は特別なのですって。
高級レストランは小規模な社交場でもあるからして……うんうん、それで?
そうか……
私のプチデビューなのか!
……とはいっても食事をするだけなのだけど『ルベール殿下のお連れ様は?』…と、周囲のお客が思うわけだ。どう見ても『シュシューア姫』なのだけど、認識されることが大事、注目されることが大事、噂されることが大事なのです。以降、お見知りおきを……
……いや、もう、デキレースなんですどね。
この時間の予約客は、アルベール兄さま厳選のもとに選ばれた人々なのです。テーブルに案内される時なんて、待ってましたとばかりの視線を浴びましたよ。
挨拶はしません。
知り合いがいたら一声かけるのは当然としても、今日はそういうのはなし。
初めての外食を楽しむお姫さまを、そっと見守ろう会なのです。
………続く
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