124 / 184
2章 幼少期編 II
6.お花畑
しおりを挟む今日も離宮でおやつを食べた後、私は音楽堂へ直行した。
歌の練習のためだ。
私は音痴を直したい。
音痴克服バケツ法には、マガルタル楽士が根気よく付き合ってくれている。
本当に効果があるのか興味もあるのだろう。
最初は吹き出していたけど、心の広いお姫さまは気づかないふりをしてあげるよ。今も苦しそうに笑いをこらえている他の楽師たちもね。
ふん。音痴が治ったらみてなさいよ。絶対ぎゃふんと言わせてやる。
「シュシュ~、頑張ってるか~い?」
ようやく忙しさから解放されたらしいルベール兄さまがやって来た。
「お~そらのくもは、ど~こへゆく~、か~ぜがつよいと、は~やいなぁ♪」
ルベール兄さまのペイアーノの伴奏で『元気な雲さん』を歌っている。
最終確認だ。
ルベール兄さまのOKが出たら、音痴は脱出したことにする。そう決めた。
兄の素敵な笑顔を頂きました! OKってことよね。ねっ、マガルタル楽士。
『発声練習は毎日行いましょう』は答えになってないですよ。ねぇったら。
「でも……踊れないから、歌っても楽しいのは半分だけなのです」
体がムズムズして仕方がないのだ。
「シュシュが歌を作って、振り付けも考えたらいいよ。兄上に見直してもらおう」
歌って踊って雷を落とされたのバレて~ら。
「……歌。うた、うた~、うった~、うた~、たぁ」
……うん。これは歌じゃないね。
「どうしたの? いつも歌ってるみたいなのでいいんだよ」
いつも?
「あ~、無意識だったか。じゃぁ……」
何か考えてくれているようなので、待ちます。
「……窓の外には何が見えるかな?」
「……お花」
「何色かな?」
「赤と黄色」
「つぼみかな?」
はっっっ!
「咲いています……あ~かい お~はなが さきました~♪」
手の平を小さく開いて花を表現してみた。
ルベール兄さまはニッコリ笑った。
マガルタル楽士はウンウン頷いた。
♪~♪♪ ♪~♪♪♪ ♪♪♪♪♪~
自分の練習をしていた楽士が、私が歌った節を奏でてくれた。
「き~いろい お~はなも さきました~♪」
両手を大きく開いた。
先を促され、ペイアーノの合の手が入る。
「あ~おい お~はなは どこにあるぅ~♪」
額に手をかざして探すふり。
「お~さんぽ しながら さがしましょ~♪」
腰に手を当ててスキップ。
「ランランラ~ン、ランランラ~ン、ラララララ~ン♪」
回転しながらスキップ スキップ。
スキップ スキップ スキップ……
スキップ スキップ スキップ……
家族の憩いの時間にお披露目した。
拍手喝采だ。
お父さまは『うちの子は天才だ!』と親馬鹿を炸裂させた。
お母さまは感動して涙ぐんでいる。
アルベール兄さまからは『まぁ、いいだろう』を頂いた。
ルベール兄さまは縦琴での伴奏係。
ベール兄さまは予想通りの爆笑。
ルーちゃんはゆりかごでネンネだ。
特別ゲストのシブメンは、新作のお菓子に視線が行っている(聞けよ)
なぜシブメンがいるのかというと、家族立ち合いのもとで私の鑑定をするためだ。
媒体というスキルを持っているかどうか……なんか、妄想している様子がかもしれないということらしい。
ルベール兄さまも持っているという媒体。
外付けハードディスクのような、ソフトウエアのような、持っていると便利そうな媒体。
欲しいな。持ってたらいいな。ルン♪
「媒体は……ありますな」
あったーーーっ! やったーーーっ!
「しかし、媒体と繋がる条件が快楽だけというのは、残念なことです」
あれ? 残念って、言われちゃった?
「残念ですなぁ」
もう一回言われちゃった。
「ゼルドラ、使い道のない媒体など可愛そうではないか。前世の記憶はよく覚えているだろう? 因果関係はどうなっているのだ? 何かあるだろう?」
お父さま~♡
「人間を深く鑑定するのは好きではありません。不快な時もあるのです」
シブメン、そこをなんとか!
「他にもあるかもしれませんよ? 全部視てください。ね?」
「普通は視られることを嫌がるものですが」
「わたくしに隠し事はありません!(キリッ)」
「存じていますが、お断りします」
「お願いしますぅぅぅ。わたくしだけお馬鹿さんなのは嫌なのです~、ねぇぇ~」
アルベール兄さまは、婚約者にヘタレな以外は完璧なお方。
ルベール兄さまは、視野の広さと思慮深さが媒体にあったと判明=天才。
ベール兄さまは、聞いたことは忘れない質だと私は知っている。
ルーちゃんは、お祖母さまの賢さを受け継いでいるに違いありません。
お願いを聞いてくれないと足にしがみつきます。あ、気づかれた。足を組んだって諦めませんよ。くっ、アルベール兄さまにも気づかれた。睨まれているけど今回は譲れません。私の一生がかかっているのです。さぁ、シブメン、勝負です!
「……血縁者になら、媒体と同調させることは出来ますが」
簡単に打開策が出てきた。
「よし、やってくれ。良いなシュシューア?」
シブメンは小さく頷いた。
私は大きく頷いた。
「…………」
どうしました? みんなスタンバイできていますよ。早く同調とやらをやってください。
「……あ、そうか。シュシュ、おいで」
ルベール兄さまがお膝をポンポンした。わ~い。
「あぁ、快楽が必要だったな……茶を配ってくれ」
お父さまは、部屋侍女にお茶の用意を指示する。
本日のお茶請けはシブメンも狙っていた『チーズテリーヌケーキ』です。
ルベール兄さまの好きなドライフルーツをたっぷり入れた、白くて可愛いケーキなのです。
「万物に感謝を」
感謝を~っ!
……………………………………………………
ドライフルーツのチーズテリーヌの作り方
①白ワイン+粉ゼラチンを湯煎で溶かし込む。
②クリームチーズを湯煎で柔らかくする。
③ドライフルーツとナッツを細かく刻む。
④全部と蜂蜜を混ぜて、冷やして完成です。
……………………………………………………
白いチーズテリーヌの中に閉じ込められたカラフルなドライフルーツの宝石。
めちゃくちゃお洒落! 贈り物に最適! お茶会で出した最初の人は時の人になること間違いなし!
今日がお初のクリームチーズは、モッツレラをクリーム状になるまでミキサーにかければ出来上がります。
濃厚さを求めるなら、モッツレラを作る過程で生クリームやヨーグルトを加えましょう。これはワインのお供としてもおすすめですよ。
「お前は乳の加工品が好きだな」
「えへへ~」
「褒めていない」
アルベール兄さまが面白くなさそうに舌鼓を打つ。
美味しいのでしょう? 美味しいですよねぇ? 顔でバレていますよ。黄ヤギが足らないなんて言ってられませんよね。
「僕のために作ってくれたんだよね~」
「はい。干し果物のお菓子は、すべてルベール兄さまのためのものです。わたくしの愛情がたっぷり詰まっているのです(作ったのはチギラ料理人ですが)あ~ん」
「あ~ん」
「美味しいですか?」
「美味しいよ~、プニプニ~」
「シュシュですよぅ」
「シュシュも、あ~ん」
「あ~ん」
うふふふ、あははは……
ほわわ~ん……
お花がいっぱ~い、ひらひら~ん、らんら~ん♪
「なるほど……」
お父さまの声?
「シュシューア、こちらにいらっしゃい」
お母さま?
「この蝶……シュシューアか?」
アルベール兄さま。
「お花畑かぁ、シュシュらしいなぁ」
ルベール兄さま。
「蝶なのに歌ってる。気持ち悪いぞ」
ベール兄さま。
「すぅすぅ」
ルーちゃんはお眠です。
ひらひら~、ららら~……
私の家族は~、私のお花畑で~、お話し合いを~、していますぅ♪
そうか、あれが、これが、それは……
「………………………………………………………わかった。もう良い、ゼルドラ」
お父さまの声でハッとする。
同調が解けたの?
皆の顔を見る。みんなも私を見ている。ぬるい表情が揃っていた。
……あぁ、そんな目で見ないでくださいませ。
ううぅ……私だけお馬鹿なのぅ?……う~、えぐぅ。
「ばっ、媒体で歌っているなら、歌で記録するとか暗記するとかできそうじゃない?」
苦しそうに言うルベール兄さま。
「つながる条件が快楽なら、歌に酔いしれる必要があるだろう」
アルベール兄さまの無情な分析。
「気持ち悪いから人前でやるなよ、シュシュ」
ベール兄さま、出来そうもないと思っていますね?
「暗記項目を歌にするのは、通常人でもやっていますな」
またシブメンは~、挫けるようなことを~。
「お父さ……」
お父さま、お母さま……微笑みが優しすぎるぅぅぅ(涙)
おつむが弱い転生者なんてカッコわるすぎるよ。
チート来い、チートよ来い!
……あぁ、別の話題に飛んじゃった。トホホ……
111
お気に入りに追加
1,787
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?
柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。
理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。
「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。
だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。
ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。
マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。
そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。
「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。
──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。
その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。
けれど、それには思いも寄らない理由があって……?
信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。
※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。
蒼井美紗
ファンタジー
魔物に襲われた記憶を最後に、何故か別の世界へ生まれ変わっていた主人公。この世界でも楽しく生きようと覚悟を決めたけど……何この世界、前の世界と比べ物にならないほど酷い環境なんだけど。俺って公爵家嫡男だよね……前の世界の平民より酷い生活だ。
俺の前世の知識があれば、滅亡するんじゃないかと心配になるほどのこの国を救うことが出来る。魔法陣魔法を広めれば、多くの人の命を救うことが出来る……それならやるしかない!
魔法陣魔法と前世の知識を駆使して、この国の救世主となる主人公のお話です。
※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
前世で医学生だった私が、転生したら殺される直前でした。絶対に生きてみんなで幸せになります
mica
ファンタジー
ローヌ王国で、シャーロットは、幼馴染のアーサーと婚約間近で幸せな日々を送っていた。婚約式を行うために王都に向かう途中で、土砂崩れにあって、頭を強くぶつけてしまう。その時に、なんと、自分が転生しており、前世では、日本で医学生をしていたことを思い出す。そして、土砂崩れは、実は、事故ではなく、一家を皆殺しにしようとした叔父が仕組んだことであった。
殺されそうになるシャーロットは弟と河に飛び込む…
前世では、私は島の出身で泳ぎだって得意だった。絶対に生きて弟を守る!
弟ともに平民に身をやつし過ごすシャーロットは、前世の知識を使って周囲
から信頼を得ていく。一方、アーサーは、亡くなったシャーロットが忘れられないまま騎士として過ごして行く。
そんな二人が、ある日出会い….
小説家になろう様にも投稿しております。アルファポリス様先行です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる