転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ

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1章 幼少期編 I

84.お餅

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アルベール兄さまが、だいぶ萎れて帰ってきた。

「あの兄妹は、手紙でやり取りしていたから上手くいっていたに違いない」

ユエン兄妹は双方とも拳で会話するタイプだったらしく、ぶつかり始めると仕事が進まないため『王子の権威』を仕方なく振るいまくってきたらしい。

その様子を見ていたユエン侯爵夫人イーデンの新妻から『アルベール殿下は猛獣使いのようですわね』と感嘆を受けたことから、彼女にもその筋があると判断。
アルベール兄さまは彼女の隠れた才能を磨いてみた……と乾いた笑みを浮かべた。

あっという間に自分以上の鞭を振るうようになったので、戻ってこれたのだそうですよ。

「同じ質の優秀な人間が、一つ所ひとつどころにいると駄目な例だ。レイラは早めにこちらへ呼び寄せよう」

結婚式は次の冬だ。その前となると……わくわく。

「夏の社交シーズンで王都に来たら、そのまま入城させる。私はもう絶対ユエン領には行かないぞ」

………お疲れなのですね(泣)慰労の昼食会を開くことに致しましょう。



☆…☆…☆…☆…☆



離宮の食堂───


メインディッシュは『お餅』です。
杵と臼は脱穀で使っていたものを流用して、ランド職人長一行が頑張っていてくれました。

そうして食堂のテーブルに並べられたのは、澄まし汁のお雑煮。あん入りきな粉餅。蕪の甘酢漬け。

お雑煮の具は、大根+人参+ほうれん草+塩+昆布だし……に、リクエストが多かったイワシのつみれが入った料亭風です。

もち米は大量の白玉粉になって『伸びるお菓子』『太らないありえないお菓子』として城下でまぁまぁの人気。
『お餅』は、私自身が白玉粉で満足していたこともあって、やっと今日のお披露目となったわけです。

「旨い!」

箸使いがそこそこ上手くなったアルベール兄さまが、ベール兄さまより先に唸った。

アルベール兄さまは、まったり、もっちりが割と好きだ。
甘味の中では洋菓子系よりも和菓子が好き。甘い物が好きというより『求肥』が好きなように見えたので、すあまを出してみたらてき面だった。

だからお餅料理を作る気になったのはアルベール兄さまがきっかけなのです。
お雑煮が気に入ったようなので、餅好きも決定しました。
何かお願い事がある時は餅で勝負だ。レシピストックは沢山ある。ふふっ。ちびちび小出しにするで候。

「箸が使えて良かったと思う瞬間ですな。ふむ、ふむ」

口と箸で器用に餅を伸ばし切り、モグモグしながら汁をすする心得た食べ方。
シブメンみたいに食べる人は、日本にしかいない気がする。

「魚のすり固め……美味しいね、シュシュ。何て食べ物だっけ?」

ルベール兄さまは、ベール兄さまに旨い自慢をされてから、ずっとこれを食べたがっていた。

「ベール兄さまが丸めるアガーのは全部『団子アガン』と呼ぶとお決めになったので『魚団子ラナ・アガン』です」

「肉団子、魚団子、餅団子……わかりやすいですね。次の団子にお勧めはありますか?」

ミネバ副会長がニュー団子をご所望です。
思わず笑いがこみ上げる。
集まる期待の視線が心地よい。
なんとかボール……たくさん作ってご覧に入れましょう。

「チギラ料理人。余り気味の在庫は何がありますか? 」

ちょっと得意げに聞いてみた。
何でも丸めてみせますよ。

「余り気味じゃなくて、大量にカカオニブの搾りかすがあります。とりあえず、こことレストランに冷凍してありますけど」

そういうのじゃなくて、もっとこう野菜とか……

「……… っ…ん? 搾り、かす……カカオ、ニブ……う~、ん~?」



……… はっ!!!



「うわぁ~ん! チギラ料理人! 捨てないでくれてありがとーっ! ココアなのです! それはココアという立派な飲み物とお菓子になるのです!」

ホワイトチョコレートを作った後のことを忘れてたよ! 抜けてるっ、私っ。
(ホワイトチョコはカカオニブから絞った油分で作ります)

「粉にしときますか?」
「はい!はい!はい!」
「シュシュ~、お行儀」
「はいっ……きゃふふ」
「気持ち悪くなってるぞ」
「だってベール兄さま~。ココアなのです~」
「語尾を伸ばすのはやめなさい」
「はい、ごめんなさい。くふふ……いろんな味のお菓子団子を作りますね。ココアも使って……」

団子リクエストはおからドーナツボールから始めましょう。ココアはまずドリンクからね。春だからホット。夏はアイスココア。夏にココアはくどいかな。やっぱりアイスコーヒーかしら。

「そういえば、コーヒーはどうなっていますか?」

こういうことは普段はあまり聞かないけど。

「貴族の間で飲まれている。ルベールが企画した『豆砕き』コーヒーミル『専用漏斗』ドリッパー揃いセットを出したら、その日のうちに豆と一緒に店頭からなくなった。レストランに出す分のコーヒー豆の在庫も残り少ない」

アルベール兄さまはそう言いながら、あんこきな粉餅に移りました。ビヨ~~~ン。
シブメンを見習って、箸で挟んでいる部分を一度小皿に置き、伸びた部分を箸でちぎった。お上手~。

「コーヒーが足りていないなら、カカオの搾りかすの粉を溶かした飲み物があります。お菓子に混ぜてチョコレート風味にする事もできます。チギラ料理人、今日のおやつで飲み物として飲んでみましょう。しょっぱいお菓子もお願いします」

「はい、用意しておきます」

「餅汁のおかわりはあるかね」
「僕も。あんこ餅食べたら次は餅汁だよね」
「そうだな。しょっぱいと甘いは交互が良いな」
「チギラ、魚団子を2個頼む」
「俺、あんこ餅のおかわり!」


ティストームでは『豆』はスープで煮て食べる…という認識だ。
最初は甘い豆と聞いて嫌な顔をされたけど『ピーナッツバター』と『あんバターコッペ』で魅了されてくれたから助かった。小豆は『こしあん』のみだったけどね。豆の皮が残ってると口の中で邪魔に感じるのですって。つぶあん、美味しいのに。

庭では餅つきメンバーの食事が始まったようです。
伸びる触感が面白いみたいで盛り上がっていました。

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