転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ

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1章 幼少期編 I

52.商2(Side ミネバ副会長)

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冬の社交シーズン中『多目的調理台』は身分に関係なく王都中で話題となった。

決め手は実演を見せた事と、に人気俳優を起用させたことにある。
プリンアラモードの流行の後押しも多少はあったかもしれない。

注文は調理台だけではなく、厨房の改築を含めたものが多い。
改築の注文をした客は調理器具や食器もまとめて購入してゆく事もあり、アルベールブランドの滑り出しは好調と言えるだろう。

しかし、これに一番喜びそうなルベール殿下は、売り上げには全く興味を示さなかった。
好きなのは企画だけなのだと、会長から辛口な評価をされている。本人は笑っていたが。


社交期に入って1ヶ月ほどした頃、最初は笑いが止まらなかったアルベール商会の傭人と職人たちは、あまりの忙しさに会長と私に泣きつくようになった。問い合わせの多さに限界を感じていた会長も、計画を変えざるを得なかった。

レストランと持ち帰り販売はそのまま続けるが、厨房器具の製造販売は商業ギルドに委託することが会議で可決。反対する者は一人も出なかった。

紙の製作も皮革ギルドに完全委託し、革職人たちへの紙漉き指導も終わった。
販売に関しては、皮革ギルドと商業ギルドの間で話し合ってもらうことになっている。

ジャガの手配と宣伝もできる限りのことは済ませた。

区切りをつけた会長は本業の併結に戻り、社交期が終わった今は離宮の昼食に新しい味を求めて足しげく通っている。
もう次を考えているのだ。

「シュシューア。社交で私がいない間、王宮では『イティゴ』が流行していたようだな」

『イティゴ』は姫さまの希望で品種改良された新種の果物だ。

ゼルドラ魔導士長が、商業ギルドへの仮登録を済ませてくれてはいる……が、彼から直接の報告は受けていない。離宮の二階事務所に置いてあった契約書の控えに『正式な手続きは商会でお願いします』との伝言が紙の端に小さく書かれていただけであった。しかし仮登録が済んでいるのなら、アルベール商会としての問題は何もない。閉じてある離宮に入った方法は、この際考えないことにした。

「イティゴ? なんですか?」

問題はこれだ。
本人が覚えていない。報告する気もない。金になると思っていない。

「お前が今描いている、その下手くそな絵だ」

「あぁ、苺ですね。かわいいでしょう?」

下手くそと言われたのは気にしないのか。

「料理長に勧められて味見してみたのだが、悪くない……その、レイラに食べさせたい。上手いこと見目のいい菓子にならないだろうか?」

え? 叱るのではないのか?

「レイラお姉さまに? かしこまりました!」

そうだった、会長は色ボケ中だった。

「アルベール兄さま。フォークですくってア~ンでよろしいですか?……はい、了解です。苺はすっぱいので上にかざれませんが、生クリームを苺色に染めましょう。離宮以外ではレイラお姉さまにしか作りません。アルベール兄さま、そこを強調して『ふっ、君のために作らせたんだ』とか言って落としてきてくださいませ!」

子供がなんてことを……前世の影響だろうか。

「こんなこともあろうかと、イティゴを用意してきました」

ゼルドラ魔導士長?

「勘だ」

何も聞いていませんよ。

「チギラ料理人! 苺ジャムの出番ですよ!」

チギラの返事と、厨房の方からカチャンカチャンとまとめる音がする。

「ごめんなさい。こちらから行きましょう。アルベール兄さま」

小さな手が会長へと延ばされた。
手をつないで厨房へ行こうとしている。
この思い付きで走り出さないところは評価できる。最近では行方不明騒ぎもなくなったと聞くし、成長したものだ。

「姫さま。何本必要ですか? あぁ、味見ですね」

大瓶から容器に小分けにしようとしていたが、察したチギラは小皿に盛ってスプーンを渡してきた。
白い皿に赤が鮮やかな……砂糖煮のようだ。

「イティゴの香りは絶品です。菓子の世界が広がりますよ」
「冷めたパンを『とーすと』して、バターと一緒に塗ると旨いですぞ」

魔導士長は試食済みか。

会長と私は、チギラの言う絶品の香りをゆっくり吸い込みながら口に含ませた。

「あぁ、これは確かに……」
「どの菓子にも合いそうですね」

「こちらもどうぞ」

チギラがもうひとつ壺を出し、黄色の砂糖煮を小皿に出す。
果肉だけのものと、細切りの皮が入ったもの二種類だ。

「ベール殿下の希望でシプードも煮てみました」
「それも『とーすと』して塗ると旨いです」

こちらも試食済みか。

「旨いな……甘液ではなく砂糖を使った理由は?」
「甘液で煮たのはこれですが、家庭用ですね、色が美しくない」

見せられたそれは、黒に近い紫と茶色のものだった。甘液自体の色だから仕方がないか。

「赤と黄色か……可愛らしい瓶に入れて並べたら映えるな。日の光に透かして……」

いかん、貢ぐつもりだ。

「会長、砂糖煮は長期間もつ保存食です。新しい高級調味料として国外に輸出できますよ。君のためにうんぬんをやってしまったら販売も出来なくなります」

果物の砂糖煮は、小麦粉の固焼き棒ですくって食べるのが定番だ。茶会に出される贅沢品である。
イティゴの香りは素晴らしいし、シプードのあの少しの苦みも人気が出るのではないかと思う。埋もれさせるのは惜しい。

「おふたりとも、逢引きデートのア~ンは砂糖煮ではありません。今日のおやつ用のケーキを試作にしますので味見をしてくださいませ。チギラ料理人、今日の昼食は後まわしです。ケーキの仕込みに入りましょう……まずはスポンジケーキです」

チギラの解説によると「『すぽんじけーき』は酵母パンより柔らかくて、焼き菓子とパンを合わせたような……柔らかい菓子です」…うまく言えないようだった。

材料からして焼き菓子なのはわかるから気にするな。

しかし魔導泡だて器がなかったら相当苦労しそうな菓子だな。

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