転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ

文字の大きさ
上 下
101 / 186
1章 幼少期編 I

88.北の視察2(Side ロッド王)

しおりを挟む
 
──【時系列現在】──


アルベール商会から販売開始されたばかりの、新式乗馬車《アルベ》六輪-黒 重型。

今期の視察には、衝撃と揺れを抑える三段階構造の馬車に乗っている。

「乗り心地が良いと眠くなりますねぇ……あふぅ」

車輪にガモの木の樹液が使われているおかげで振動音が少ない。
そして席室キャビンを吊り下げる型を取り入れ、座面は渦巻き型に巻いた針金スプリングを使った椅子を設置してある。
『ダンパー』なるものを取り付ければ更に振動が軽減されると娘は言うが、本人は作り方がわからないという。技術系の転生者がいればと唇を尖らせていた。

「寝ても良いが、顔に寝皺だけは作ってくれるなよ」

「了解で……ぐぅぅ」

ルベールは座席を変形させると、気を失うように眠ってしまった。
この次男は身内の前では締まりがなくて困る。

それをイルゲ王女に、あの夜会の庭園で、寝不足だとうそぶいて、膝枕をしてもらい、事もあろうかそれを父親に自慢してくるものだから、こちらが赤面して何も言えなくなってしまった。

子は親の背を見て育つ。
妻の膝枕でうたた寝する憩いの時間を、見られていたのだな。


ルベールには、これから起こるであろう征伐戦を恐れる様子が全く見られない。
出立前に念を押し、それでも今回も同行したのだから驚きはしないが、感心できるものでもない。

勤勉で読書好きな息子が変わったのは、植物紙の件で冒険者ギルドと関わりを持ってからだ。

良い出会いがあったのだろうことは察しが付く。
本を片手に何時間も動かなくなるのは相変わらずだが。ただ近ごろ、字を見つめたまま項がめくられない姿を見かけるようになった。

何を考えているのか、一度聞いてみたことがある。

『組み立てているのです。良いように収まるには何を嵌めこめばいいのか……文字を見ていると拾えるのですよ』

質問の意味を正しく理解したはずの息子は、こう難解に答えた。

それを『媒体』所持者の言葉のようだと、偶々その場にいたゼルドラが言った。

雑多な記憶を保管したり、何通りもの考えを同時期に進めることが出来るなど、天才と呼ばれる者は大抵がこの媒体を持っているのだとか。

ルベールに了承を得て彼が鑑定したところ、やはりそうであると判明した。

私の息子が天才らしい……ふっ。

横でゼルドラ本人も所持者なのだと当然のように宣ったが、それはどうでもよかった。

『兄君にこの才があるのなら、妹君にも可能性が出てきました。媒体の才は遺伝するのです。王女殿下が喜びを感じたときの様子……妄想しているようにしか見えませんでしたが、媒体に気を往かせていたのかもしれません。時期を見て鑑定いたしましょう……宝の持ち腐れでなければよいですがな』

どういう意味だと一瞬腹が立ったが、シュシューアだからな。いや、まだ子供なのだ。これからなのだ。私の子供たちには無限の可能性が待っているのだ。

……そう、ベールもまだ子供だ。
しかし、嬉しいことに良い方向に成長している様子がうかがえるのだ。気ままで暴れん坊だった少年が、何をしでかすかわからない妹を追いかけ、守り、励ましている。

あのシプード兄妹の絵本には笑った。そのものではないか。

ワーナー魔導士はよく観ている。
専属侍女もあわよく得られたことだし、娘の教師にして正解であったな。


アルベールに関しては何も言うことはない。
期待以上に大きく育ってくれた。こちらが感心させられることも度々あるほどだ。

将来的に朽ち落ちることのない石の道橋……全国に架ける計画案を出してきた時もそうだ。

『高速道路』『鉄道』
……シュシューアのよくわからない絵を解読した建築物が原案であった。

新城と同じ石を使うことで同時進行が可能だとし、他を妨げることない計画を見事に練り上げていた。
更には、「駅」をつくると確約した領地から、推定予算以上の支援金を掻き集めてくるということまで成し遂げた……正直唸るしかなかった。

何という才能であろう。

ティストームの未来は明るいと思わずにはいられなかった。


◇…◇…◇


娘が心配するような自然災害による大飢饉の兆候はない。
芋…ジャガの収穫は、三領とも好調だと報告も受けている。

国家間の戦争の疑いは昨年のうちに消え、新たな火種も起きていない。
主だった組織の大きな動きも見当たらなかった。

大臣衆・貴族院とも、昨年のうちに協議は済んでいる。
これまでの王女の功績を鑑み、予言の書についても軽視はできないとの結論は満場一致であった。

結果、やはり北で起きる飢饉の原因とするならば『橋』の警戒がいちとされた。
そしてオマー子爵と子息の事故死も、無関係だと捨て置く浅慮者もいなかった。

──狙いはオマー領。
飢饉を起こすには、橋を落として孤立させ、収穫前の麦畑と備蓄を焼く。
事は同時に起こさなければ成されない。

オマーを落とすのであれば、この時期が最適なのだ。
収穫祭という無警戒な好機を利用しない手はない。

仰々しい視察や警備による抑止も考えたが、起こして収束させる方を我々は選んだ。

怪しい影がないのであれば、故意に隙を作り、引きずり出す。
今、この時、オマーに居る者は、事が起きたら決して谷の外に逃がしはしない。



「もうすぐ橋守り村です。準備をお願いします」

御者が小窓から知らせてきた。

王都からオマー子爵領に直行して9日と半日。
通常であれば村で一泊するところであるが、今回は素通りする。

そして北の三領地を分断するコースト大峡谷を渡る。

「ルベール起きろ。そなたの出番だぞ」

御者の声にも反応しないほど寝入っている息子を小突く。
ムニャムニャしているが、それが可愛いのはベールまでだ。

「は…ぃ…女の子たちが待っていますね」

この言いよう……
冒険者ギルドで何があったのか、本当は詳しく聞き出したい。


橋守り村が遠くに見えてきたところで隊列は一旦停止し、整えが始まった。

今期の騎馬隊は50程に抑え、祝い品を積んだ幌馬車を多く配備した。
その幌は祝色の黄に花蔦を這わせてある。騎馬兵は花刺繍の外套、馬にも花装束。我ら王と王子も騎乗し、目立つ位置に着いて再出発する。


昔から村と呼んでいるから村のままだが、東コーストの橋守り村は立派な温泉宿場を構えた大きな街である。人口もそれなりに多い。
昨年の視察で通った際、ルベールは若い娘たちに大層な人気を得た。
今季もルベールを同行することは村長に通達を済ませ、村娘たちにも遠慮なく広めさせた。

主役はルベールだ。
この日のために用意した白馬に乗り、白兎毛の襟付き外套をなびかせ、まるでルベールの婿入りのような行列に仕立てた。

道なりに待ち構えていた村人たちから歓迎の声が上がる。

まず王が手を振る。

次に王子が手を振る。

「「「きゃーーーーーっ!」」」

黄色い声が上がった。
『綺羅王子』と妙な呼ばれ方をしている。
ルベールはそれに答えて華やかな笑顔を振りまく。
自然にやっているのだから恐ろしい。
私には到底真似が出来ん。

沿道に並ぶ数人の男たちと目が合う。
昨年去り際に置いてきた密偵は、すっかり村人の一員として馴染んでた。


溺愛する幼娘に懇願され『大好きな新オマー子爵への結婚祝い』を届けにやってきた父親。

『ジャガの収穫祭』を楽しみにやって来たティストーム王。

──腑抜けた噂を流させておいてある。


「………」

見られている気配がする。
決して好意的ではない視線。

気付かぬふりをして、東コースト橋を渡った。

王隊が通った後の村での動きは、程なく密偵から届く事であろう。

しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...