上 下
77 / 184
1章 幼少期編 I

65.境の森 9(Side ヨーン男爵)

しおりを挟む
 
───暫くして『ティストームは不当に森を独占している』と苦情。

そちらの狩人も商人も自由に出入りしているが、整えられた境の森が欲しくなったのだろうことは子供でもわかる。

そして、苦情が来た次の日、ノッツの関所が森の内側に移動した。
人の足で、ほんの10歩ほど。
明日はもう10歩進んでいることであろう。

「あの関所が道の中腹に来たら、森の所有を主張し始めるのだろうな」

関所が動いたら、俺たちも行動を起こすと決めていた。

これまで無条件に従ってきたヨーン男爵が怪しい動きを始める……ノッツはどう反応を返してくるか。
この計画は、前もって国に報告して了承を得ている。

「あの木も森の一部だと言い出しそうだな」

森から少し離れた場所に1本、若木が生えている。

「引っこ抜きましょう。森から見える背の高い木はすべて」

森とヨーン男爵領の境をはっきりさせるための計画が開始された。


◇…◇…◇


国境とわかる、無駄がない、ノッツには無価値なもの。

商業ギルド、皮革ギルド、冒険者ギルド。
各ギルドの〈ティストーム王国・ヨーン男爵領支部〉

立派な共同建屋を用意して組織を迎えた。
ギルドの不可侵条約を関所代わりに利用させてもらう。

こちらの動きに刺激されたノッツ領兵の武装が重くなってきた。
わかりやすい反応に、王都へ向けて鳥を飛ばす。

そして男爵としてやるべきことをする。


───暫くして『ティストームは不当に森をしている』と。

『独占』から『占拠』に移行したことで、王都に最終の鳥を飛ばした。
ガーランド領とオマー領にも警告の鳥を飛ばした。

慣れた様子で苦情書を提出したノッツの使者は、いつものように帰ろうとしていたが──今回は牢屋行きだ。

ノッツ伯爵、もしくは伯爵夫人の苦情は、事実上の『宣戦布告』となったのだ。

トルドンの国王が何も知らないはずはない。
ティストーム国からの再三なる質疑状への返答もない。

ノッツの関所が撤収した。

こちらの各ギルドも一時閉鎖する。

女子供おんなこどもは妻に託して奥の村まで避難させた。
この日を見越して集めた兵はみっちり仕込んである。
ヨーン領に住む者はみな、ノッツが大嫌いだ。
士気はこれ以上なく上がっている。

「仕掛けられたら応戦していいっすよね」

逸る者もいる。
頼もしいが国軍が来るまでは押さえてくれ。
もちろんあちらから来たら突撃許可は出すがな。


◇…◇…◇


境の森は長く中立地帯だった。

それが揺らぎだしたのは、魔素溜りが暴走を始めた頃。
そして、ノッツ伯爵領にデリネ王女が降嫁してきた頃。

思えば、あれから4年がたった。

何か引っかかる。
デリネ・ノッツ伯爵夫人は、最初から境の森を望んでいたのではないか?
魔素溜りの暴走と関係付けるのは穿ち過ぎか?

「魔素溜りに干渉して暴走させる方法は、残念ながら、あります」

結婚してヨーン領に残った魔導士が言った。

どちらにしろ領土問題に発展してしまっては、国王同士の話し合いが必要だ。
しかし、それは既に破綻している。決裂は必至だ。


カーン、カカーン。カーン、カカーン。


国軍を率いるロッド王子と将軍が到着。
王命は『境の森の中立の堅守、及び条約締結』と公示された。

ノッツ領では招集された兵が陣を構えつつあると、王子に報告する。

王子の合図で偵察兵に向けた鏑矢が放たれる。
直ぐに偵察兵からの返答鏑矢の音が響く。
次いで聞こえる二鳴りは、敵陣に近い偵察兵への合図だ。
この後、敵陣へ確実に聞こえる位置から鏑矢が三本放たれる。
ノッツへの最後通告だ。

敵陣からの反応なし、もしくは敵対行動を確認した場合は、後退しつつ連続鏑矢が放たれる。


………連続で矢が鳴った。


王子が剣を振り上げる。


「装甲隊、前へ! 進めーーーっ!」


境の森は、戦場となった。








……補足………………………………
……で、和平の証しとして、ロッド王子とトゥーラ王女の政略結婚となったわけです。
…………………………………………
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。 理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。 「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。 だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。 ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。 マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。 そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。 「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。 ──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。 その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。 けれど、それには思いも寄らない理由があって……? 信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。 ※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。

婚約破棄され、聖女を騙った罪で国外追放されました。家族も同罪だから家も取り潰すと言われたので、領民と一緒に国から出ていきます。

SHEILA
ファンタジー
ベイリンガル侯爵家唯一の姫として生まれたエレノア・ベイリンガルは、前世の記憶を持つ転生者で、侯爵領はエレノアの転生知識チートで、とんでもないことになっていた。 そんなエレノアには、本人も家族も嫌々ながら、国から強制的に婚約を結ばされた婚約者がいた。 国内で領地を持つすべての貴族が王城に集まる「豊穣の宴」の席で、エレノアは婚約者である第一王子のゲイルに、異世界から転移してきた聖女との真実の愛を見つけたからと、婚約破棄を言い渡される。 ゲイルはエレノアを聖女を騙る詐欺師だと糾弾し、エレノアには国外追放を、ベイリンガル侯爵家にはお家取り潰しを言い渡した。 お読みいただき、ありがとうございます。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

処理中です...