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1章 幼少期編 I
60.境の森 4(Side ヨーン男爵)
しおりを挟む会議と言っても、食事(肉!肉!肉!)をしながらのんびりと。
卓を囲むのはロッド王子、近衛騎士団長、宮廷魔導士長、ヨーン代官陣3人、援軍代表者+俺……たちは、議論する少年二人を肴にちびちびワインを飲んでいた。
カルシーニ伯爵令息と、なぜか同席が許されているルエ平民。
天才魔導士が案を出し、ルエが突っ込みを入れ、上手く修正されてゆく。
それを王子が楽しそうに聞いているので皆それに倣っている。言いたい放題のルエを止めようとするも、王子の『良い』が出たので、俺も観客になった。
「ノッツが魔獣被害はこっちのせいだって、いちゃもん着けてくんだよ」
……それも問題だな。
「その報告は聞いている。困ったことではあるが、陛下より国境の問題は全てトルドン側の意向に沿うよう指示が出ている」
王子が側近に合図して、王命書と仮予算を代官に渡した。
「陛下は『見極める』と仰っておられる。腹立たしいであろうが収めてくれるな?」
代官、俺、今にも暴れ出しそうなルエを、王子はしかりと見据える。
国交を広く開くか、断絶するか、友好を結ぶか、敵対するか。
面白い、と思う自分がいる。
この策に乗れることに喜を感じる。
「………」
へそを曲げたルエの後頭部を、ペシリと叩く。
「背を向けたときに舌を出してやればいいんだよ」
「そういう腹芸は苦手です………あ~でも」
ちらりと天才魔導士を見る。
「なぁ、お前。宿に戻らないで暫くここにいろよ」
『こいつと一緒なら、ノッツを揶揄うのも楽しいかも』……見え見えだぞ。
「……ふむ」
誘われた天才魔導士は暫く考え込み、どんな結論を出したのか頷くことで答えた。
「可能であればこの狩場は残したいというのが陛下の意向だ。誰もがそう思っているはずだ。ここの魔獣の肉は実に旨い。他所で狩った魔獣肉と違うのだ」
王も王子も「残したい派」か。
「旨味が違う」
「臭みも少ない」
「脂の乗りもいい」
「焼いても柔らかい」
全員「残したい派」だった。
「不安定な魔素溜りに嵌った魔獣は、微波動によって体液が消削します。魔力は血脈筋に沿っているため、不協重低運動による……」
天才魔導士が講釈を始めた。
「率直に」
王子はクスクス笑いながら頬杖を突く。
「洞穴から負荷なく出てくる魔獣の肉は、上質です」
「よし、決定だ」
王子が決裁した。
天才魔導士とルエとの掛け合いから、いくつかの案を拾い上げて肉付けをしてゆく。
具体案と予算案、そして工程。残っていた村人にまで発言を許した王子は、広く多くの意見を取り入れた。
魔素溜りの口の大きさは5倍以上になってしまっているが、洞穴の奥は以前のままだ。
元の2倍程度の大きさになる位置まで、魔導具で押し込む処置に半月。
固定するまでの魔導士たちの処置に1ヶ月。
馴染ませるのに1ヶ月。
微調整はこの魔素溜りがある限り半永久的に。
魔導士の常駐が必要になりそうだ。
固定は魔導士の仕事としてまかせるとして、俺たちの方は穴掘り作業の準備だ。
王命による『トルドンの要求にすべて答える』の準備として、ノッツに魔獣が行かないようにしなければならない。
そこで、洞穴の口をティストーム側に向けて深い坑道を作ることになったのだ。
出てきた魔獣が進めるのは地下の1本道。
途中から二股に分かれて出口は二か所。分岐に誘導鉄門扉を設置して調整する。
出口のひとつは要塞のように隔離した討伐場。
こちらは魔獣の体表面を損傷を少なく捕獲するためのもの。
もうひとつの出口は海側という立地を生かした崖。
討伐しきれない場合は崖下の岩場に落とせば勝手に死ぬ。
落ちるだけだから手間はないが、食えなくなるのは惜しいので何かしら工夫を凝らすつもりだ。
……が、土木の専門家が来るまでは調整可能な穴掘りだけに留めておく。
陣の後ろにずらりと並んだ仮設小屋で、肉の燻製を作りながら待機だ。
氷室は疾うに満杯でどうしようもない。
塩漬け。干し肉。肉、肉、肉。
避難した村人を呼び戻し、避難先だった村人たちも呼び寄せた。
『旨い肉を腐らせたくない』で一致団結。王子までが手伝いだした。
たまに仮封印をすり抜けた中型が、たまにでも数が多く、はぁ……減らない。
早くも噂を聞きつけた商人たちが、荷馬車を何台も引き連れてやってきた。
出荷して戻る時には、商業ギルドに話をつけて傭人を連れてくるようにも頼んだ。いったい何往復してもらっていることか。
一番近い鉱山から坑道の専門家が来て見分に入り、掘削のための傭人を集め、食い扶持が増えても、肉は増え続ける。
この騒動に商業ギルド、冒険者ギルド、皮革ギルド、魔導ギルドの派遣員も増えていく。
皆がみんな『雪が降るまでに終わらせたい』一心で、団結力はさらに増した。
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