転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ

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1章 幼少期編 I

59.境の森 3(Side ヨーン男爵)

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オレドガの隊には、俺たちと同様に横並びで陣を張ってもらう。

魔獣討伐の経験が浅い彼らに、魔獣の種類と急所を交えて作戦を練ろうと集まった、その直後、森から中型魔獣が雄叫びを挙げながら突進してきた。
一匹なら丁度いい。実践で伝えんと手練れが進み出て構える。

しかし続く地響きに気付き、すぐさま引いて小隊の対魔獣用の配置へと移行した。
だがそれも無意味なほどの群れが泡のようにあふれ出してきた。
中型の中に超大型の角永獣が見える。
あれが魔素溜りを拡大させたのだと直感した。

「総士配置ーーーっ!」

休憩中の兵士も天幕から速攻で出てくる。訓練通りの動きだ。よく仕込んだ、俺。

「剛弓隊! 構えーっ!」

オレドガと彼の教えを受けたであろう隊の剛弓が軋む。
角永獣に狙いをつけたのはオレドガだ。瞬時に槍のような鉄矢が放たれた。

ヴォン!と唸る。
俺の知っているオレドガの矢音より随分重くなっている。
あの頃より強くなったか。さすが腕一本でガーランドの領兵長まで上り詰めた男だ。

「ガッッッ!ーーーッ!」

角永の咆哮が途中で途切れた。頭が鉄矢一発で吹き飛んだのだ。
間を置かず他の鉄矢が中型を裂き、そのまま貫通して一直線になぎ倒していった。
従兵たちは剛弓の余波を慣れた様子で躱し、なぎ倒された中型を端から回るように切ってゆく。

「凄いな……」

圧倒された俺を見たオレドガはニヤリと笑った。

負けてられん。
魔獣狩りは俺たちの方が慣れている。そこで見ていろ。

俺たちの魔獣戦は利き手に中剣、もう一方に小手剣、鉄板を仕込んだ腕膝当てを盾代わりにして突っ込む。この方が小回りが利いていいのだ。
身の軽いルエなどはピュンピュン飛び跳ねて魔獣の後頭部を突くのが上手い。

罠に誘い込むのは戦法ではなく、ただの狩りだ。だが罠が近くにあったので俺が囮になって誘い込む。

「ウリードさまーーっ! またですかーっ!」

何人かが叫んだ。
大型用の穴だから中型がゴロゴロ嵌っていった。よしっ。ルエの俺を罵る声は無視だ。怪我人も出てない。このまま行こう。


◇◇◇


討伐はもはや、やっつけ仕事となっている。
オマー領からの援軍も加わり手数は増えたが、兎にも角にも中小型獣が多すぎる。終わりが見えない戦闘に皆の疲労が蓄積していった。

ようやく魔導士団と中央領からの援軍も到着し、森の魔素溜りに魔導士を案内する先導隊を編成することが出来た。

魔導士たちが最初に施した処置は、洞穴周辺の空間を歪めるナントカカントカだ。
よくわからんが、目で見てわかる。日の光が妙な方向に屈折しているからだ。どうやら魔獣はそこから出てくることができないようで、立ち往生している。

魔素溜りを破壊する魔導具が王都から運ばれてくるまで、この処置を上掛けしてもたせるそうだ。

歪みを潜り抜けて出てくる小型は、洞穴の前に網を仕掛け、一杯になったら交換するを繰り返した。
いまの交代制はこれのみで、一気に負担が軽減した。

しかし網目より小さい毛玉のようなアレは踏みつぶすしかなかった。見た目に反して鈍かったのが幸いしたが、やっているこっちは段々と気分が滅入ってくる。見渡す限りの地面が潰れた毛玉でぐしゃぐしゃだ。

その様子を離れた場所からジッと見ている少年魔導士がいた。
到着当初『天才魔導士』と、知る者に囁かれていた記憶がある。

「なぁ、お前。見てるだけなら手伝えよ~」

年の近いルエが気安く声をかけた。

「踏みつぶすのか?」
「そうだ。こうっ!(ブチュッ)」
「こうか?(ブチュッ)」
「そう。こうこう!(ブチュッ、ブチュッ)」
「(スカッ)むぅぅ。逃げるではないか」
「あははは、とろいな~、お前」

血みどろの中でのしばしの癒し。
子供がいるだけで癒される。


◇◇◇


カーン、カンカーン。カンカーン。カンカーン。カンカーン!

『良い、来た。来た。来た。来た』

この嬉しさが滲み出ている鳴らし方は、王都からの隊だな。

果たして、宮廷魔導部隊を引き連れてやって来たのは国王陛下の一粒種、ロッド王子殿下であった。
成人したてで子供っぽさは残っているが、あの甘い顔立ちは令嬢たちに人気がありそうだ。

王子の登場に疲弊した兵士たちの顔に生気が戻る。

「ロッドである! 皆の者! 今日までよく持ちこたえてくれた! 我らは王命により、魔素溜りの破壊魔導具を持って参上した。詳細は後だ、すぐに準備に入ろう。設置完了まで、もうしばらくこらえてくれ!『王国のためにティストーム・ダン』!」

「「「ティストーム・ダン!」」」

王子は馬上から檄を飛ばし、兵士たちは呼応の叫びをあげる。

「王子殿下、発言の許可を!」

洞穴の空間を歪めていた魔導士の中から、あの天才魔導士が進み出た。

王子は馬の向きを変えて続きを即す。

「魔導ギルドから派遣されて参りました、カルシーニ伯爵が第一子、ゼルドラでございます。現在、魔素溜まりは一時的に鎮圧されていますが、観察いたしましたところ…」

「率直に申せ」

「はっ! ”境の森”の魔素溜りは、残すべきだと提案いたします!」

「はぁぁ? 何言ってんだ、このちらっかてる魔獣の数を見ろよ! でっかいのは何とかなるが、この細かいのはどうすんだよ!」

ルエが噛みついた。

「ひとつ所にまとめれば問題ない」

天才魔導士の方は歯牙にもひっかけない。

「あ”~?」

王子の前だぞ、控えろ馬鹿。
同じことを考えた周囲の大人たちが止めようと身を動かす。

「良い、続けろ」

話のわかりそうな王子で助かった。

「魔素溜りが洞穴と一体化しているのは、奇跡のような形状なのです。広がりすぎた洞穴の口を縮小させて魔導具で固定させることが出来るかもしれません」

「かもしれないじゃ、ここに住んでる俺たちが困るんだよ」

「すまん、わかっている。しかし可能ではあるのだ。時間は……相当かかるだろうが」

「時間……じゃぁお前、ここに残って管理するか?」

嬉しそうに言う。なんだ、同年代の友人が欲しかったのか。可愛いやつだな。
だがその天才魔導士も貴族だからな。言葉に気をつけとけ。

「ヨーンです。発言よろしいでしょうか」

「許す」

「魔素溜まりの仮封印は、魔導処置の上掛けを続ければ数か月は維持できるそうです。場を作りますので、まずは会議を開いたらいかがでしょう」

「……そうだな」

王子はフッと力を抜いて、馬から降りた。

王子の隊も陣を張ったあとは、魔素溜りの網番以外は全休憩となった。

肉と、きのこと、果物と、軽く酒だな。
焼き番に『とにかく肉を焼け』と合図を送り、代官邸(兵舎と兼用)に向かった。

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