転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ

文字の大きさ
上 下
98 / 186
1章 幼少期編 I

86.アイドルの結婚

しおりを挟む
 
離宮 午後の食堂───


養蜂箱が完成したとかで、シブメンがお礼の贈り物をくれた。

─《こども魔導書》─

手作り感満載の教科書だ。

「わぁ、うれしい!」

では、早速、ペラリ。

「シプード兄妹!」

シプーくんとプードちゃんが勉強の案内役になっているイラスト入り教科書だった。
絵はもちろんヌディが描いたもの。この文字はワーナー先生よね。絵本に続いて教科書まで夫婦共同作業とは、なかなかやりおるのう。

「ヌディ、ありがとう」
「とんでもございません。ゼルドラ魔導士長に依頼を頂いて、恥ずかしながら夫婦で手伝わさせていただきました」
「うふふ、これでお勉強も頑張れると思うの。ゼルドラ魔導士長も、ありがとうございます」

やる気のスイッチ入っちゃったぞ! むん!

まずはサラッと一通り目を通して……ん? これ…あれ? 進んでいくと算数ドリルみたいになってるんだけど……でも数字じゃない。前ページのこれを覚えてから計算するんだ。うわぁ、やりたくない。計算嫌い───でも、ワーナー先生とヌディが作った教科書だし。

(うっ)

シブメンが月に一度くらいやる『ニヤッ』をいただきました。

確信犯。

ぐぬぬ、ヌディの手前、勉強するしかない状況を作りましたね。

あぁ~、でも、勉強が進まなかったら、後ろで見ているヌディがガッカリするだろうなぁ。
ワーナー先生に「お役に立てず……」なんて謝られたら、半日は立ち直れないだろうなぁ。

うぅ~……

「王女殿下。せっかく魔力の放出が上達されたのですから、次は『練り』を習得しませんとな。砂を連結させることから始めましょう」

くぅぅ。


◇…◇…◇


本日もお姫さまは頑張っておりますよ。

シプーくんの『ここがポイント!』で、理屈はなんとなくわかったのだ。

放出した魔力を霧散させないで留めておくのよね。
きっと魔導士として仕事をするプロだったら、一瞬でボンッと魔力の塊を作れるのだろうけど、私にはそれが出来ないから、ゆっくり薄~く、ポタリ……イメージは焼いたクレープ生地を重ねていく感じ。

この『もう1枚、もう1枚』…これがシブメンの言う『演算』なのよ。
私が1+1+1+1……しかできないのに対し、プロ魔導士はでやっちゃうようなものなのだ(期待されても困るわぁ)

それで作った魔力の塊を砂に対して『練り』を行い、想像力を使って『結束』させる。

イメージは小麦粉魔力を加えてネリネリネリ……砂よ固まれ。砂よくっつけ。砂よ仲良くしろ。砂よ……
何回同じことを繰り返せば…… 

「100回です」

わかってますよっ。

「シュシューア、頑張っているな」

アルベール兄さま? おやつにはまだ時間が早い……

「リボンくん!」

やった。一緒におやつするの久しぶりね。

「………」

リボンくんは、いつもと違う笑顔で頭を下げた…… あら、妙な雰囲気。

「リボンが結婚することになった。城を辞する前に、お前に挨拶をしたいそうだ」

「結婚っ!?」

私のアイドルが、結婚!?

……結婚……そ、そうね、婚約者がいるのは知って…たのよ。

オマー子爵令嬢のサハラナ……レイラお姉さまのお友達であり、悪役令嬢と共にヒロインに対抗する令嬢なのだ。リボンくんの婚約者だと聞いて喜んでいたぐらいだ。

でも、どうして、いなくなるの?

「リボンくんの奥さんは、お城で侍女になるから、リボンくんは、ずっとお城に、いるのよね?」

リボンくんはガーランド伯爵家の三男だ。
ティストームの貴族家では、跡継ぎ以外は16歳の成人を迎えると貴族籍から抜けるのだが、城人にはそういう次男次女以下の貴族出身者がたくさんいる。リボンくんもそのひとりで、アルベール兄さまの側近を3年務めると一代限りの男爵の位を与えられる予定だった。
今年16歳になったサハラナも貴族席を抜けるが、リボンくんと結婚していずれは男爵夫人となる。そうして再び貴族の身分を得て、友人である王太子妃レイラを専属侍女として支える……そういう人生設計だったはずよ。

「姫さま……」

一歩、前に出るリボンくん。

違う、みたい…… 嫌だな。

「オマー子爵と長男が事故で亡くなりました」

リボンくんは静かに言う。

………死。人が、死んだ。

「現在オマー家に残るのは子爵夫人と、私の婚約者のサハラナのみとなっています。子爵位を継げる適齢の縁者もなく……この度、オマー家に婿入りし、子爵位は私が継ぐことになりました」

リボンくんは、もう一度頭を下げた。
だから、お別れなのだと。

「リボンくん……私の専属侍従になりませんか? 王女経費を無駄遣いしないで貯めてあるの。お給金はアルベール兄さまのより多くするから、ね? 子爵は他の人になってもらって、お城に残って?」

お別れは嫌です。

「王女殿下。本来は必要のない別れの挨拶をしてくれているのです。彼の親愛の情を蔑ろにしてはいけません。王女として身を正しなさい」

シブメンに窘められた。

わかってるよ。

わかってるけどさ……


「……っ…お悔み…申し上げます。そして、ご結婚、おめでとう…ございます」

「痛み入ります。ありがとうございます」


泣いちゃダメ。
きちんとお別れしないと、もう会いに来てもらえなくなる。

「姫さま、離宮の通用門からおいとまさせていただきます。見送りの我儘を聞いていただけるでしょうか」

「……ん」

リボンくんが手を伸ばしてきたので、手をつないで通用門まで……ゆっくりと歩いた。
アルベール兄さまの先導で。
シブメンと、遠巻きに見ていたチギラ料理人と、ランド職人長一行もついてくる。

「お手紙を書きます」
「はい、お待ちしています」
「お返事くれますか?」
「もちろんです」
「社交シーズンで王都に来たら、会いに来てくれますか?」
「もちろんです」
「奥さまも、ですよ」
「もちろんです」
「……え、と」
「……もちろんです」

じわっ。

「アルベール殿下、お世話になりました。ゼルドラ魔導士長、お世話になりました……みなは、これまでのように、姫さまを心してお守りするよう頼みます」

リボンくんが、深く、深く、頭を下げる。

「「「セーレンサス!」」」

こういう時、位下の者は無言を通すものだけど、うん、いいね。

「お元気で、シュシューア姫」

リボンくんは、もう一度私に頭を下げて、背を向けた。



初めて名前で呼んでくれた。

私の名前が特別になった。

シュシューアの名前、大切にするよ。



「きちんと見送りできたな。偉いぞ、シュシューア」

アルベール兄さまが、私の髪をくしゃりと……







「………」







「………」







──…置いてかないで……







「うわぁぁぁぁん! やっぱりだめぇぇぇ! 行っちゃいやーーっ!」

去りかけたリボンくんの足にしがみつく。

私のアイドルなのよ! 大好きなのよ! 行かせるものですか!

「姫さま!?」
「こらっ、シュシューア!」
「いやぁぁぁん!」
「やめないか、離しなさい!」

バリッと引きはがされた。

「やーーーーっ!」
「リボン、行けっ」
「しかし、殿下」
「いいから行けっ。これはしばらく収まらん、走れっ」
「はっ、では、姫さま、失礼いたします」
「リボンくーーーん! うわぁぁぁん!」

「……っ」

アルベール兄さまの手に噛みついて、腕の中から飛び出した。

走って追いかけた。

遠ざかっていく、リボンくんの背中。

追い付かない。

門兵に閉められる、無情な門の音。


行っちゃった! 行っちゃった! 行っちゃったよーーっ!


じたじたじた。
地べたを這いずりまわる。
やだやだ、誰も触るなーーーっ!

「お前は、まったくっ」

体が持ち上がった。

「いつまでたってもっ!」

ペン!

「!!!」

ペン、ペン、ペン!

お尻ペンペンが始まった!

「きゃーっ! やーっ!」

ちょっ、誰か!

目をそらさないで!

ペン、ペン!

あ”~、やだ~、やめて~。

ペン! ペン!

「あ~、ごべんなさい~。もうしません~。ごめんなさい~」

これは、お姫さまのセリフなの? あってる? 違うよね? うわ~ん!




その日のおやつは、チギラ料理人の優しさが染みる『ミエムとシプードのゼリー生クリームのせ』『ミエムの塩クッキー』『蜂蜜入りミエムジュース』だった。
もうひとつの好物の細切り乾燥芋は袋で持たせてくれた。

王宮の夕食も『ミエムときのこのポタージュ』『鶏肉のかりかりソテー・ミエムソースがけ』『角切りミエム増々の野菜ゴロゴロサラダ・サウザンアイランドドレッシングかけ』『ミエム練りこみパン』……テーブルの上が赤々としていた。
そしてデザートは乾燥芋のお洒落盛りミエムアイスクリーム。

私のお尻ペンペンが肴になって湧いているのが……くぅ、自業自得なんだけどねっ。

しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...