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1章 幼少期編 I

79.魔獣は魔界からやってくる

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ワーナー先生に魔力の事を質問してみた。

「魔素と魔力の違いは何ですか?」

この手の質問はシブメンにしては駄目なのだと、私のゴーストがささやいちゃったのだ。

何しろ、私はまだ100回の途中だ。
最初のファイヤーボールな勢いは偶々たまたまだったようで、まだ数回しか成功していない。

放出を自在に使えるようにならないと、次の技は教えてもらえないようだ。
庭でがんばっている私を横目で見ながら、シブメンは軒下テラスで優雅な読書タイムを過ごしているのは、まぁいいのだが……そのうち事故を装ってズルリ攻撃を仕掛けようと思っている。

「魔素と魔力の違いは波動です。波動はわかりますか?」

「音の震えのようなものですか?」

「なるほど、音に例えるとわかりやすいですね………そうすると、音には高い音と低い音があります。どちらも同じ音ですが、硝子を引っかくような高すぎる音は嫌ですね。魔素とは高すぎる音だけが集まった魔力のようなものです」

ワーナー先生はティストームの地図を広げて、北のヨーン男爵領を指す。

「この辺りに大きな『魔素溜まり』があります。魔素についての研究は、このヨーン男爵領でされていますが、結果は秘密にされています。悪用されてしまうと危険だからです。ひとつだけ隠されていないのは、魔素溜まりが魔界とこちらの世界を繋げているということです。魔素溜まりから魔獣が出てきますからね……魔獣が住む世界があるという事がわかったのです」

魔界? 魔界となっ!

「魔王がいる魔界のことですか!?」

「ははは、魔王がいるかどうかはわかりません。大昔に魔人と人間の大戦争があったと語る吟遊詩人もいますが、まぁ、建国の聖女がいたかもしれないという伝説と同じですね。おとぎ話のようなものです」

建国の聖女……存在感がイマイチすぎる。
ちょっとした遺物もないのかしら。神殿に聖女像とか……

「……あれ? わたくし、神殿に祭られている神様を知りません。わぁ、大変……内緒で教えてください」

途中から声を潜めて、誰も聞いていないことを確認。オールクリア。

「そうでした、神殿に行けなかったのですよね。残念でしたね……お勧めですか?……神殿の裏庭にある魔導灯ですかね。神秘的な虹色の光彩を放っていてとても美しいのです。先代の宮廷魔導士長が引退後に趣味で作ったそうですよ」

楽しい雑談が始まった。
神殿の様子から、王都の様子、最近の流行とヌディの惚気……まぁ、駆け落ちでしたか。
魔導士でなかったら野垂れ死んでいたかもしれない? 今だから笑って話せる? ひえぇぇ~……ハードな貧乏暮らしな体験を、面白おかしく聞かせてもらった。ほとんどサバイバルだった。
宮廷魔導部に就職した後もすぐには生活は楽にはならず、かつかつの生活を送っていたところにヌディの侍女勧誘。王政区の寮に入れて大助かりだそう。良かったですね~(夫婦そろって城人だと家族寮が与えられるのです)

廊下のガトンという何かの音でふたりして我に返り、授業の再開です。

「え~、神という存在は、大陸ごとに存在すると言われております。ここ西大陸は西神で、他に東神、南神、北神と、小さな島々にはその眷属が護っていると聞いたような…………あ~」

ワーナー先生は信心深いタイプではないようだ。
私もそれでいこう。

「先生。魔素溜りを通って魔界に行った人はいますか?」

苦しそうなので元の魔界話に戻します。

「(ほっ)逸った討伐隊が足を踏み入れた記録が残っています。体調が悪くなってすぐに引き返してきたようですよ。魔獣がこちらに来て暴れるのも不快だからかもしれませんね。いずれにせよ、こちらの生物が魔力を持つように、魔素を持つ生物の住む異界があるということを覚えておいてください」

「はいっ」


ふぅ。とっても有意義な授業だった。

午後の100回の続きも、がんばるぞ。



でも、その前に昼食です。

今日は『イワシのつみれ鍋』
豆腐と白菜と野菜もろもろと一緒にグツグツしております。

軒下テラスで箸使いが巧みな3人(私、ちい兄、シブ)が、鉢炉を囲んで待ちの状態です。
外で立ちっぱなしも何なので、ヌディには早めの休憩に入ってもらいました。

チギラ料理人が味見をして、納得のいく味になってから取り皿に盛ってくれます。

「チギラ料理人の分も取り分けてくださいね」

「ありがとうございます。それでは失礼して……」

私たちは適当な石を持ってきて座っているが、チギラ料理人はアイアンテーブルセットの椅子に座るという変な図になった。

…………………………………………
イワシのつみれ鍋の作り方
①余計なところを取ったイワシ+味噌+白ワイン+片栗粉をフードプロセッサーですり身にする。
②すり身+みじん切りにした蓮根と生姜を混ぜる。
③鶏がらスープ+塩少々の中に、スプーンですくったつみれを投入。
④ひと煮立ちしたら他の具材をいれます。
⑤最後に三つ葉をぱらり……はぁ、いい香り。
…………………………………………

「万物に感謝をっ」

いただきます。
最初はやっぱりフーフーしながらつみれにかじりつく。

「じゅわっときた! すり身の時は気持ち悪かったけど、もの凄く旨い!」
「この中の細かい根菜が良い感じの歯ごたえですな」
「ほふう」
「おっと豆腐が崩れた」
「豆腐はすくうと挟むの中間で、こうですな。もくっ」

お洒落椅子に座っているチギラ料理人もホフホフ言っている。
最近肌寒くなってきたから身に染みるよね~。外だし。

「君、お代わりを頼む」
「俺も」
「わたくしも。チギラ料理人もお代わりしてくださいね」
「いえ、自分はこれだけで」

私はここで、演技を入れたかぶりを振る。

「よろしいですか、みなさん。今食べている具も美味しいですが、決してお腹いっぱいにしてはいけません。適度にみんなで分け合いましょう。なぜなら、この後に、この世のものとは思えないほど美味しい『ぞうすい』が待っているのです!」

転生した今でも忘れられない。
つみれ鍋が美味しくて、思う存分食べてしまった忘年会……すっぽり頭から抜けていた締めのぞうすい。激うまなのに満腹すぎてちょっとしか食べられなかったあの悔しさときたら。

「冷や飯と溶き卵は用意してありますが、先日の『ねこまんま』とはちがうんですか?」
「落とした卵の甘みが加わって……あぁ、言葉にできません(熱演)」
「そんなに凄いのか?」
「凄いです」
「自制しておきましょう」
「そうしてください」


そして、来ました、その時が!


「卵は半熟が良いのです」
「魔導士長、鑑定は済んでるのか?」
「ゾウゴウ菌はいません」
「それじゃ取り分けします。はい、自分もいただきます」


……ねっ、ねっ、美味しいでしょ!?

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