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1章 幼少期編 I
70.タケノコと豆の来襲
しおりを挟む来た、来た、来た、来た!
コーヒー豆! カカオ豆! キターーーッ!
「多すぎるのではないか?」
豆が詰められた大きな麻袋の山を見て、アルベール兄さまは腕を組む。
隣に立つミネバ副会長も腰に手を当て、損失の計算をしている顔つきだ。
良いでないか、良いでないか、お代官様。あ~れ~。
「ランド職人長~、茹で網に振っても取れない網蓋を作ってくださ~い」
「お弟子さ~ん、黄ヤギの乳を買ってきてくださ~い」
「チギラ料理人~、鉢炉(七輪みたいなの)を用意してくださ~い」
カフェオレ、カフェオレ~♪
「……姫さま」
ひっ! リボンくん!
「は、や、えと、これは、あの……う~、ごめんなさい」
浮かれすぎました。はい、お行儀良くします。
「殿下、お叱りにならないのですか?」
「お前が叱っているではないか」
アルベール兄さまは揶揄うように言った。
「何をおっしゃいますか。私ごときが王女殿下を叱れるはずがございません。兄君である殿下がしかりと正さねばならないのです」
アルベール兄さまのこと、叱ってますよね。
「それで? 私に何か用があって来たのではないのか?」
笑いながら言われちゃったリボンくんはチラリと私を見て(てへっ)ため息をつきながら本題に入った。
「演習を終えた近衛騎士団が、タケノコとやらとその皮を大量に持ち帰ってきております。離宮にお持ちしてよいのやら迷いまして」
2~3本でよかったのに……演習隊全員で掘りまくった?
「タケノコの食べ方はシュシューアしか知らん。全部運んでくれ」
「よろしいのですか? 木箱3つですよ?」
「「…………」」
どうか小さい木箱でありますように……くぅ、大箱でしたっ!
「う~ん、う~ん、う~ん」
冷凍して、焼いて、炒めて、揚げて……
……よしっ!
「チギラ料理人、タケノコのあく抜きをします。一番大きな鍋を出してください!」
……………………………………………
タコノコのあく抜き方法
①皮を2~3枚むいて上下を切り落とし、縦半分に切る。
②水+米少々+唐辛子と一緒に煮る(落し蓋をして1時間)
③火からおろして鍋のまま冷ます。
④冷めたら外側の堅い皮をむく。
【2~3日中に食べる分】水に浸して冷蔵庫で保存。
【冷凍】食べるサイズにスライスして、鶏がらスープに浸して冷凍庫へ。
……………………………………………
準備OK!
お弟子さんが来ている今日、タケノコステーキを食べまくってもらいます。
……………………………………………
タケノコステーキの作り方
①タケノコを1cmくらいにスライスして、布で水気を取る。
②平鍋で、油+ニンニク+タケノコを焼く。
③焼き色が付いたら味をつけて、味がなじむ程度に少し焼いて完成です。
……………………………………………
「味付けは、コンソメ、塩、白ワイン、バター、なんでも。鶏がらスープでスープにしてもいいですね。唐辛子に、練がらしに、ネギをパラパラかけてもいいですね。あ~、てんぷら。てんぷらはあく抜きしなくても……え~と」
私、テンパる。
「だいたいわかりました。あとは自分にまかせてください。今日は、姫さまの好きなものを作りましょう」
いいの?
「そうしろ」
アルベール兄さまにお許しをもらえた。
「それじゃぁ、鉢炉に平網で焼いて、お塩をパラッと」
「さっきのより簡単じゃないですか」
「旬のものはそれが美味しいのです」
「私の昼食もそれにしてくれ」
「タケノコだけだと飽きそうですね」
「魚の開きを干していますけど、焼きますか?」
干物好き~!
「お願いします! おにぎりも!」
☆…☆…☆…☆…☆
「万物に感謝を」
むふふ~、やっぱりチギラ料理人だなぁ。
タケノコと、小ぶりなアジのひらきに、茄子焼きもつけてくれた~。
茄子には鳥そぼろあんかけがかかってるのよ~。
おにぎりはジャコ入りよ~。タケノコスープもあるの~。
「あの堅い竹と同じとは思えませんな」
シブメン、来ています。
「姫さま……美味しいです」
美味しいね、リボンくん。
「旨っ、俺、このオニギリが気に入った」
「家畜の餌が旨いと思える日が来るとは」
「会長、前にもそれ言いましたよ」
「タケノコはどうですか?」
むっちゃ美味しいけど、西洋的異世界人にはどうだろう。
「旨い。父上も好きそうな食感だ。チギラ、一箱王宮の方に持っていく。あく抜き方法と、適当な調理法を書いておいてくれ。この塩焼きもな」
塩焼きに調理法?……あ、お城には平網がないかも。
「シュシュ、タケノコって中華麺に合うんでしょ?」
「はい。五目あんかけに入れるととても美味しいのです」
「なに? それ知らないよ……」
ルベール兄さまの悲しげな顔。
あわわ、外遊視察でいない時に作ったんだった。
「明日は『五目あんかけかた焼きそば』を作ってもらいましょうか。タケノコをたくさん入れましょう。チギラ料理人、かた焼きそばは中華麺の茹でた方を揚げて作ります。準備をお願いします」
「はい、練がらしも用意しておきます」
チギラ料理人は、麺を揚げると言っても驚かない。
誰も驚いていないな。飯テロもそろそろ終了? 醤油があればまだ……ぬぅ。
庭から『うわ~』『うめぇ』『酒のつまみだ』…聞こえてきました。
昼食が始まったようです。いっぱい食べてください。マジで。
「木箱のひとつは竹の皮だが、包んだものが腐りにくいというのはどういうことだ?」
竹皮までそんな大量に……うぅ。
「え~と、ゾウゴウ菌のような悪いものを増やさないのです。竹皮は余り物を包んだり、生肉を包んだり、お魚を包んだり、携帯食を包んだりします。洗って乾かせば何度でも使えるので、とても便利なのです」
ラップ代わりにもなる。
「竹も水を持ち歩く筒に使えます。竹を炭にしたものは、くさい臭いを吸い取ってくれるし、湿気も吸い取ってくれます。冷蔵庫の中と、乾燥芋と一緒に置いておくといいですね」
「ランドが竹はしなりがいいと気に入っていたので、木材としてしか考えていませんでしたが。竹がそんなに……」
ミネバ副会長、そんなに……なのです。竹は凄いのです。
「竹皮は平たくのして重しを置けば1日で丸まりがおさまります。きれいに洗って天日に干して保存します。お日様の光も悪い菌を殺すのです」
昼食が終わって工房に行ったら、竹皮が作業台の上に平たくのされていたので爆笑してしまった。
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