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1章 幼少期編 I
68.中華麺いきます
しおりを挟む藁紙には《秘密の国の秘密の恋》の覚書きが日本語で書かれている。
書き慣れているはずの文字が絶望的に汚い。
羽ペンがこう、上手くこう、なぜ潰れる!
でも、乙女ゲームだから恋愛に関すること以外の情報はあまりないのだ。
ヒロインがお相手を決めると、聖女の力に覚醒して大地の浄化を始めるのだけど……選ぶ相手によって何かと違うし。
「髪の色がぴんく? 薄紅色? そんな髪の人間は存在しない」
私が訴える聖女像を聞いたアルベール兄さまは鼻で笑う。
そっか、ピンク頭はいないのか。
「年齢はルベール兄さまより年下で、ベール兄さまより年上。あとは外国人っと」
さ~て、どうやってヒロインを探そうか。
現れるまで放置しようとも考えたけど、たまに思い出すとイラッとするので事前に排除できるならしたいのだ。
(学園ものだったら留学生のチェックだけで済むのになぁ)
だけどティストームには定番の学園がない。
あるのは研究院と呼ばれる学府だけで、どうやらそこは天才秀才だけが集う特殊な機関らしい。
ちょっと怪しくないですか? マッドなサイエンティストがいたりしちゃうのでしょうか。それはそれで面白いですね。見学と称して遊びに行きたいリストに載せておこう……じゃなくて、ヒロイン、ヒロイン。どこにいる~。
「そうだ……オマー子爵の令嬢が、レイラお姉さまと共に、聖女と戦っていました」
悪役令嬢の取り巻きの一人である。他はモブで覚えていない。
レイラお姉さまの名前が出たとたんアルベール兄さまの顔が笑み崩れた。
「オマー子爵家のハサラナ嬢はレイラの友人だ。そうか、そうか」
なにがそうかなのでしょう。わかりません。
「アルベール兄さま、このところ毎日、わたくしの付添いをしてくださっていますが、お暇なのですか?」
暇なら遊んでもらいたいのだけど。
「暇そうに見えるのか? この書類の山を見ろ」
「楽しそうに読み書きしているので、趣味の新店舗の企画をしているのかと」
商会の仕事ではあるけれど、出店は彼の趣味だと思っている。
あぁでもないこぅでもないと、ミネバ副会長と楽しそうに出した案が、あの紙の山なのだ。ルベール兄さまも、よくそこに乱入していましたね。
「はぁ~、お父さまとルベール兄さまは、今、どのあたりでしょうか」
馬車旅でお尻を痛くしていませんか? せっかく新しい馬車が仕上がったのに、試運転が間に合いませんでしたね。座席のスプリングだけは設置したと聞きましたが……早く帰ってきてほしいなぁ。
「鳥の知らせではもう帰路に入っている。数日すれば土産をいっぱい持って帰ってくるはずだ。お前は何をねだったのだったか?」
「楓の樹液です! ガイナでは甘い樹液の楓が群生していると、ワーナー先生が教えてくれたのです。ティストームでは高価ですが、現地で買えば安いでしょう? ホットケーキにはやっぱり、メープルシロップでなければ」
「ほっとけーき……それは楽しみですな」
来ましたね。そして食べる気満々。
「ごきげんよう、ゼルドラ魔導士長。今日の昼食は『縮れた長いの』ですよ」
麺類は『長いの』で定着してしいる。
「胸掛けが必要ですかな?」
「今日のはスープ無しなので、汁は飛びません。熱々のトロ~リです……ちょっと飛ぶかな?」
『五目あんかけ焼きそば』であります。
「レストランには出せんが、塩らーめん……あれは旨かったな。他のスープ味はないのか?」
「ありますよ。お醤油が出来てからですけど。それより箸の練習をしてください。箸で食べないと、美味しさが半減するのです。ゼルドラ魔導士長はもう使えますよ。ね?」
「確かにすするファースは箸が食べやすいですな。しかし王子殿下はすするのが下手なように見えました。フォークで丸めて食べるのが良いでしょう。むせて飛び散らかされても困ります」
そう……今苦虫を噛み潰したような顔をしている兄は、私の食べ方を真似て盛大にゲホッったのだ。あんな姿の王子さまは誰にも見せられません。
「でも、気に入っていただけて、よかったです。チギラ料理人が、がんばって作った中華麺ですもの」
中華麺の製作途中には『革袋に入れて踏む』が入るが、チギラ料理人はそれを良しとしなかった。
腕だけで懸命に揉みこんでいましたね。お疲れ様です。
……………………………………………………
中華麺の作り方
①かんすい(灰汁:草木灰+熱湯/半日おいた上澄み)を作る。弱アルカリ性の水で捏ねないと中華麺のお美味しさが出ないのです。
②鉢に入れた強力粉に”かんすい”を少しづつ加えながら混ぜる。全部の指を立てて指の腹でグルグル回すのがコツです。
③パラパラになったら濡れ布巾を被せて10分寝かせる。
④作業台で揉む、揉む、揉む ← 踏むところ
⑤もっちりしてきたら濡れ布巾をかけて30分以上寝かせる。
⑥打ち粉(片栗粉)をして麺棒で伸ばす。
⑦二つ折りにして包丁で切る。
⑧鉢に入れて、片栗粉をまぶして、軽く揉み込んでちぢれさせる。
※焼きそば用は蒸し麺。
※ラーメン用は茹で麺。
……………………………………………………
中華なら先に調味料を作らなければいけませんね。
鶏がらスープの素。ごま油。料理酒は日本酒がないので白ワインで代用します。
……………………………………………………
鶏がらスープの作り方
①鶏がらを水できれいに洗う。
②鉢に入れて熱湯をかけると残りの汚れが浮いてくるので、その後もう一度水で洗う。
③鶏がら+長ネギの緑の部分+生姜+白ワイン+水で煮る。
④一度沸騰させて灰汁を取る。
⑤弱火でじっくり1時間煮る。
⑥布で濾して完成。
※冷凍保存できるので、小分けにして凍らせましょう。
……………………………………………………
そのうちこれも顆粒になるはず。
ごま油は私しか使わないかもしれないので、炒った白ごまを粉砕して他の油と少し煮るとごま油風味が出る。今回はこれでいく。
もし需要があったら〈焙煎→粉砕→圧縮→濾過〉そして、ちょっと熟成させたものを布教します。
……………………………………………………
五目あんかけ焼きそばの作り方
【あん】
①ごま油を敷いた平鍋で、人参→黒猪バラ肉の順で炒める。
②火が通ったら他の具を入れて炒める。
(具は何でもいい:白菜・チンゲン菜・長ネギ・椎茸・もやし・キャベツ・イカ・海老など)
③塩胡椒+甘液少々+白ワインを入れて炒める。
④鶏がらスープに片栗粉を溶いて投入。とろみがついたら完成。
【麺】
①麺を軽く茹でる。
②しっかり湯切りして、ごま油で炒める。ここでわざと焦がすのが私好み。
あんをかけて、ウズラの卵っぽいのを乗せて完成です。
……………………………………………………
お好みで練りからしもどうぞ(からし菜の種を磨り潰し、殻を除いた粉と水を練り混ぜる)
「旨ぁーーーっ!」
ベール兄さまも昼時に来襲。
食堂にはズルッズルッと異音が響いている。意外にもこの蕎麦音は嫌がられなかった。
「シュシュ、タケノコが手に入りそうだぞ。王都を出たすぐのところに竹林があるそうだ。騎士団が今度の演習の帰りに取ってきてくれるって。やったな」
「おぉ、中華がますます美味しく食べられますね。演習はいつですか? 差し入れをしなければ……あ、ついでに竹の脱皮した皮を剥いだやつも欲しいです」
「竹の皮だな、伝えとく。ルエ団長はチャーハンのオニギリがいいって言ってたぞ」
お米の布教は進んでおります。
「さっそく曲げわっぱが役に立ちますね。えと、何人分ですか?」
「30人」
「……多いですね。ひとり何個食べるでしょう」
ここでアルベール兄さまのストップがかかってしまった。
「演習には野営訓練も入っている。差し入れるなら演習前か後にしておきなさい」
演習先で美味しいものが食べられないと聞いて、ベール兄さまの顔が可愛くヘニョった。
いずれ経験する演習ですものね。未来の近衛騎士団長のために妹ちゃんが一肌脱ぎますよ。
「遠征先でも美味しいものが食べられる保存食を作りましょう」
缶詰~、缶詰~、缶詰~♪
フリーズドライ~♪
設備投資~、いくらかかる~……ちらっ。
「乾燥芋で充分だ」
うっ。
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