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1章 幼少期編 I
54.米※クラブ
しおりを挟む私の周辺の人がやたらと結婚し始めた。
「春とはそういうものなのですか?」
ベール兄さまは、何を言っているんだという顔をした。
「男は全員薬草課。女は全員侍女。わかるだろ?」
わかりません。
「冬の間、毎日薬草課に通ってただろ?」
そうですね。
「付添いは侍女たちだったろ?」
そうですけど……?
「薬草課から出てこない独身男と、薬草課に入ったことがない独身女」
───なるほど!
私主催の『お見合いツアー』になっていたわけか!
どちらも王政区務めで身元もはっきりしているし。
夫婦で政区務めすると政区内の住部屋をもらえるっていうし。
そうしたら侍女は寿退職しないから長くいてくれるし。
「わたくし、いい仕事しました?」
「まぁな」
☆…☆…☆…☆…☆
「チギラ料理人、魚の油煮を作りましょう」
油煮と聞いて彼の顔は「マジで?」になった。
ふふっ、作るのはコンフィ(ツナのこと)です。
ちょっと企んでいることがあるのですよ。しばらく付き合ってくださいな。
私はカツオ派だけど、多くの人はマグロ派ですね。お好みの魚を用意してください。
切り身か、三枚におろすかして、塩を振りかけ冷蔵庫で30分寝かせます。あとはニンニク+塩+ハーブと一緒に油でひたひたにして、弱火でじっくり煮たら完成です。油は他の料理に使いましょうね。出汁入りなのでよい風味が出ます。
まずは「ツナマヨ」にしてパンに挟んで出した。
もちろん評判は良かったのだが───ここからが私の企みである。
お寿司を作ったのだ。
いや、その前に米が来たのだった。
年が明け早々、精米された「うるち米」と「もち米」が届けられたのだ。
米粒がちょっと小さいけれど見た目は普通のお米だ。
家畜用のままではと、シブメンが気を利かせて食べやすいようにしてくれた品種改良済みの米なのだ。多分、絶対、美味しいはず。
「食べられるようなら『コメ』は新種の麦として登録する。まずは何か作ってみなさい」
ジャガの例もあるし、アルベール兄さまはもう「家畜の餌」に拒否反応を示さなかった。
しかし受け入れてもらうには相当美味しくしなければならない。
ジャガのように単品でも美味しいというのは、お米では難しそうだった。
チギラ料理人とシブメンと私の3人で「塩おにぎり」を隠れて食べてみたが、感動にむせび泣く私をよそに、生粋のティストーム人2名には「旨くはあるがパンには及ばない」と判定されてしまったのだ。
──…白米のままではウケないということか。
調理が必要、調理が必要、調理が必要……う~ん、馴染みの味を使って……そうだ!
「チギラ料理人、オムライスを作ります!」
バターを溶かした平鍋に、鶏肉(肉なら何でもいい)+玉ねぎ(野菜も適当でいい)+塩胡椒を入れて、火が通るまで炒めます。そこにご飯を加えてぱらりとするまで炒め、ケチャップを混ぜてジュゥジュゥ。
次は、卵+生クリーム少々を混ぜて、あとはオムレツのようにケチャップご飯を包み込む。
「チギラ料理人、ひょいひょい、こんこんです」
ケチャップをかけて召し上がれ。旨ーーーっ!!
誰もが『旨っ!』っとなった。
よし、よし、よし。
それじゃ、次、数日置いて酢飯いきます。
酢+甘液+塩を溶け合わせて寿司酢を作る。
水で濡らした鉢に硬めに炊いたご飯をあけ、寿司酢を加えながら混ぜる。
水気を飛ばすために団扇であおいで『押し寿司』にします。
海苔も醤油もないけれど、酢飯だけでも充分美味しいのだ。
布教しておいたツナマヨの押し寿司風から始めてみた。即間食!
───ツナの企みはここにつながるのであります。長らくお待たせいたしました。
だし巻き卵、蒸し海老、炙り魚まではいけた。
だが、本命の生魚にはたどり着けなかった。
「……姫さま、勘弁してください」
魚の調理はできるが、生の魚を人に食べさせることがチギラ料理人には出来なかった。
冷凍庫でね、マイナス20度で24時間冷凍すればアレは死ぬのよ。
マイナス35度で急速冷凍できるように、シブメンに改良もしてもらったの。
解凍してもお魚が美味しいままなのよ!
……何を言ってもダメだった。大人になってから自分でさばくしかないのか。ないんだな。くぅ。
───企みは失敗した。
「シュシューア、忘れているようだが」
炙り魚の寿司に満足したっぽいアルベール兄さまは、おもむろに言った。
「『モチゴメ』で作るチーズを、思い出しなさい」
は? もち米でチーズは作れませんよ。何のことですか?
「…… あ」
豆乳をトロ~リさせるやつ。
はいっ。思い出しました。
「お待ちください、兄上さまっ。わたくしども、たんせい込めて作らせていただきますが、完成までにはどうしても、数日かかってしまいます。出来上がりの際は、一番にお声がけ致しますので、どうか…どうか、しばらくのゆうよを、いただきたく存じます。しかしながら、以前も申し上げました通り、ピザに使うには物足りなく……」
「普通に話しなさい」
「アルベール兄さま。そこは『ええ~い、黙れ黙れ!』と言ってくれなくては」
「何の物語にはまっているのだ、まったく」
「世渡り上手な老商人の冒険物語です。なんくせ付けてくるお客をあしらうところが、面白いのです。ルベール兄さまの悪役がお上手で、クスクス、ベール兄さまと毎日、夕食の後に読んでもらっているのです。ね?」
「ルベール兄上は役者になれるな。ひとりで何役もできるんだ」
「ほぅ、ルベール。私も今夜、聞きに行ってもいいか?」
「嫌ですよっ」
☆…☆…☆…☆…☆
作りましたよ、ビーガン御用達の焼いてミョ~ンと伸びるチーズもどき。
それにはまず『白玉粉』を作る必要があります。
チーズより何より、この白玉粉があれば和菓子のレパートリーがグッと増えます。
いえ、その前にチーズです。忘れていませんよ。はい。
……………………………………
白玉粉の作り方
①もち米を水に漬ける(半日)
②ざるで水を切り、もち米と水を入れてミキサーにかける。
③布で濾して、広げて乾燥させる(数日)
④固まったものをすり鉢で粉状にして完成です。
……………………………………
……………………………………
豆乳クリームチーズの作り方
①鍋に豆乳+油+甘液+塩胡椒+ガーリックパウダー+白玉粉を入れて混ぜる。
②弱火で混ぜて捏ねる。
③クリームチーズっぽくなるまでひたすら捏ねる。
④火からおろして完成。
……………………………………
チギラ料理人に、ピザを作ってもらいました。
「違うな……」
「違うものですな」
「全然違うぞ」
「違うねぇ」
「モッツァレラチーズの味を知らなければ……」
「姫さま、これも美味しいですよ」
声をかけたら全員集まりました。
しかし、やっぱり違うと結論付き、豆乳とろけるチーズはお蔵入りとなった。
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