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1章 幼少期編 I

40.悪役令嬢の名前

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今日の授業は、私がお願いした小麦の標本を見せてもらった。

強力粉と薄力粉を分けて使いたかったのだ。
これは小麦粒を半分に切断するとわかる。


硬質小麦【強力粉】 断面:半透明

軟質小麦【薄力粉】 断面:白っぽくて不透明


強力粉、薄力粉の違い……………………
【強力粉】(もっちり)パン・ピザ生地・パスタ・中華麺・餃子の皮
【中力粉】(弾力とコシ)うどん・そば・そうめん(強力粉と薄力粉を混ぜて代用できる)
【薄力粉】(サクサク・フワフワ)クッキー・ケーキ・マフィン
………………………………………………


異世界でも美味しい生活をしたくて、前世でしっかりと記憶に刻んでおいたのだ。
偉いぞ、私!

しかし……ここまで来て、ワーナー先生からガックリくる一言をいただいた。


「パン用と菓子用で分けて使われていますが、そのことですか?」



☆…☆…☆…☆…☆



リボンくんがお迎えに来た。
いつもの授業終了時間より早いなと思ったら、お父さまとアルベール兄さまが待っているとのことだった。

あのことだな──ユエン侯爵家のレイラ令嬢。
ヒロインを虐める悪役令嬢が、アルベール兄さまの婚約者候補だったとは知らなかった。
ゲームでの彼女は銀髪の縦ロール&つり目というお約束のビジュアル。それはもう意地悪そうに笑っていたものである。現在は14歳のはずだ。

「お父さま~」

執務室に入ってすぐ駆け出そうとしたけど、手をつないでいたリボンくんが離してくれない。
きちんとご挨拶しましょうねと目が言っていた。

「ごきげんよう、お父さま、アルベールお兄さま(ここで可愛くご挨拶のポーズ)およびとおききしましたので…えと……さんじょういたしました?」

「”ごきげんよう” のみで大丈夫ですよ。上手に出来ましたね」

合格をもらえた。やった。

「おいで、シュシューア」

わ~い!
抱き上げてもらって、ギュ~ッてしてもらって、ホッペにチュウだ。
そして私の指定席『お膝』! 至福の時間が始まりました~。

リボンくんが用意してくれたお茶をお父さまがふうふうしてくれて、クピクピ飲ませてくれて、クッキーもア~ンしてもらっちゃった。

「父上。この後、離宮で昼食を食べますから、餌を与えすぎないでください」

むっ、また餌って言った!

「そうか……シュシューアは美味しそうに食べるから、こちらが止まらなくなって困るな」

3枚目のア~ンで終わってしまった。
でも代わりに頭にチュウをもらったからいいのだ。むふん。





お膝からソファに移動させられ、真面目なお話の開始です。

「アルベールから聞いたのだが、レイラ嬢は《予言の書》に登場していたようだな。どのような立ち位置であったのかな?」

「はい。レイラこうしゃくれいじょうは、ずうずうしい聖女と、たたかう人なのです。おいつめられると、お城のかいだんから聖女をつきとばしてしまう、つみをおかしてしまうのですが……」

アルベール兄さまはハッとする様子を見せた。

「殺してしまったのか?」
「聖女は、むきずです」
「…は? 無傷?……とは、凄いな」

ゲームのヒロインですから。

「新年のパーティで、レイラこうしゃくれいじょうは、兄さまたちに断罪されて、こくがいついほうにされてしまいます」

「祝賀の場で公開処刑のようなまねはせん」

憮然とするアルベール兄さま。

「殺人は未遂でも罪人であることは変わらない。罪人を国外に出すなど国の恥だ」

お父さまの言う通り。
厄介者を他国に押し付けるようなものですものね。

「アルベール兄さま。レイラこうしゃくれいじょうと結婚するのですか?」

一番知りたいことをズバッと尋ねてみる。
アルベール兄さまは居心地悪そうに肩をすくめて、お父さまに視線を移した。

「損得は抜きだ。気持ちの通じた女性と結婚しなさい」

「それがですね……昨日の午後にレイラ嬢からの先触れが届きまして、近くまで来ていると使いの者から聞いたので、王城の方に来るよう返答したのです。それでですね……レイラ嬢は父親の無礼を謝罪しに来たのですが……」

ゴニョゴニョ……何を言っているのか聞こえない。

「………」
「………」
「………」

お父さまがほくそ笑む。

「意気投合したのだな?」
「………はい」
「ひとめぼれ、ですか?」
「………言うな」

はぁん! 照れくさそうなアルベール兄さま。激写したい!

「どうしましょう、お父さま。シュシューアに、お姉さまができます! とってもうれしいです! なかよくしていただけるでしょうか!」

──…第一王子は悪役令嬢を見初めた! ヒロイン、ざまぁ!

「落ち着きなさい。結婚は16歳になってから……レイラ嬢が16歳になるのは2年後だ」

「……2年後?」

2年後って…… 

「おとうとが、生まれる年……ですね」

そして、北方で飢饉が起きる年。

「禍根を残さない結婚式にしなければなぁ、アルベール」
「ま、まだ求婚していませんよ」
「まぁ、ゆっくり育め。だが、他の男に取られんようにな」
「アルベール兄さま。かみかざりを、ふんずけると、りょうおもいになるという……」
「娘よ……それはお父さま限定だ」
「ははっ、彼女にそんなことをしたら張り倒される。父親を殴ってから私のところに来たんだぞ」

ひょぇ、そうでしたか。
アルベール兄さまは、強い女の子が好みだったのですね。

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